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*十ゆま企画提出作品。





思えばあの人は不思議な人だった。オレにしか見えないアストラルが見えたり、神出鬼没だった。そしてやたら印象に残っているのは時々見ることが出来た…翡翠と朱色の目だ。
関わったのはわずかだったけど、たしかにオレはあの人が好きだった。


******


「うわあぁぁ!遅刻するーッ!!」
「何度も起こしたのに、起きない君が悪い。ついでに言うと忘れ物したのも悪い」
「……返す言葉もありません…」

その日、朝から最悪だった。
かけたハズの目覚ましは鳴らなかった。朝ご飯も食いっぱぐれた。危うくDパッドを忘れそうになった。遅刻回数を更新しそうになっていた。
でも、この最悪続きがあったからこそ、あの人に会えたのかもしれない。

「遊馬!前を見ろ!!」
「へっ?って、そこの人避けてくれぇ!!」

どんっと身体に衝撃が走った。ただしりもちをついたわけではなく、身体の前面に衝撃が走っただけだった。

「大丈夫か?」
「え、あ…はい…」
「遊馬、大丈夫か」
「う、うん」
「へぇ、お前面白い奴と暮らしてるんだな」
「……まさかアストラルが見えんのか!?」

オレ以外でアストラルを見たことがあったの誰もいなかったから驚いた。目の前の人は明らかにアストラルを見て、そう言ったのだから。

「アストラルっていうのか。まぁ、オレがアストラルを見れるのはちょっと普通とは違うからさ」
「普通とは違う?」
「…ははっ、それはどうでもいいか?それより、遅刻、しそうなんじゃないのか?」
「げっ!忘れてたぁぁぁぁぁぁ!」
「頑張れよ」

そう言い、手をひらひらさせて去ろうとしたあの人に、オレは瞬間的にこう聞いていた。

「あの!また会えますか!?」
「……どうだろうな」
「オレは九十九遊馬!あなたは…ッ?」
「…十代、遊城十代だ」

そう言ってあの人は、十代さんは眩しい朝日の中に消えていった。それに見とれていたオレはもちろん遅刻して、右京先生と何故か小鳥に怒られた。


******


「あ、いたいた。十代さーん!」
「遊馬か。学校終わったのか?」
「はい!今日もかっとビングしてきました!」

十代さんと出会ってからは毎日のように十代さんを捜した。十代さんはオレの話を最後まで聞いてくれたし、十代さんが今まで見てきたもののことも話してくれた。最初は兄貴が出来たみたい程度にしか思わなかった。けど十代さんに会う度に大好きになっていった。良くlikeとloveのどっちのだ、なんて聞くけど、間違いなくloveの方だった。

「十代さん、好きです。大好きなんです」

ある日こう言った。告白ってやつだ。男同士とか思われるけど、そんなの関係なかった。アストラルも君がそれでいいならって言ってくれた。でも十代さんは……

「……ありがとうな、遊馬。だけどお前の気持ちには応えられないんだ」
「え…?」
「ほら最初に言っただろ。オレは普通じゃないって」
「……」
「オレはもう何十年もこの姿のまま。そしてこれからもずっと。オレは化け物なんだよ」
「じ、十代さんは化け物なんかじゃないッ!!」

十代さんはオレの言葉を聞き、笑った。でも凄く悲しそうな笑い方だった。いや、泣きそうになっていたんだ。

「…これを見てもそう言えるか?」

鳥が羽ばたくような音がした。それは十代さんの方から聞こえて……十代さんの姿は、普通ではありえないものになっていた。
悪魔の様な翼が生え、目も翡翠と朱色になっていて…何より十代さんが持っていた空気が冷たくなっていた。アストラルなんて十代さんから離れろなんて言う。オレは動けなかった。何も言えなかった。
「な、オレは化け物だろう?年を取ることもないし、こんな翼も生える、目も色が変わる…だからお前はオレを好きになっちゃいけないんだ」

また十代さんは笑う。悲しそうに、今にも泣きだしそうに…

「……そんなの関係ないッ!オレは十代さんじゃなきゃ嫌だ!十代さんやアストラルが何と言っても、十代さんが好きなんだ!!」

気がつけばオレは叫んでいた。あまりにも悲しそうに、泣きだしそうに笑うから。やっぱり大好きだから。

「……ごめん。やっぱり遊馬の気持ちには応えられない。オレは、もう置いていかれるのは嫌なんだ…」

綺麗な翡翠と朱色の眼からは、ぽろぽろと涙が零れていた。


永遠の愛だったなら

(オレも十代さんが言う化け物だったなら、)
(あなたの隣にいてもよかったのだろうか)


******


私が十ゆまを書くとどうしてもシリアスというか薄暗くなってしまう…
甘い十ゆまもいいけどシリアスな十ゆまも私は大好きです。

私的な話は置いといて、
全ての十ゆま好きさんに全力でこの話を捧げます。


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