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「今日は11月11日ですね」
「ん?そうだな。何かあったか?」
「えぇ、恋人関係なら重要なイベントですよ」

ポッポタイムのガレージで紅茶を啜っていたお昼時。真剣な顔をした遊星がこんなこと言うもんだから、一体何かあったのかと思ってしまった。

「恋人に重要?バレンタインならまだまだ先だよな?」
「えぇ。2月14日ですからね」
「他に何かあったか?」
「じゃあ、これはなんですか?」

とん、とテーブルの上に軽い音を立てて置かれたのは赤い箱。パッケージには白地で字がかかれ、全体に茶色いチョコがかかった細い棒が描かれていた。

「………ポッキー?」
「そうです!今日はポッキーの日です。だからアテムさん、ポッキーゲームやりましょう!!」

やっぱり真剣な顔で言うものだから、オレは思わず椅子からずり落ちてしまった。


*****


「……で、何でポッキーゲーム…」
「アキから聞いたんです。アテムさんとそういうのやったことないのかと。で、やったことないって言ったらこれをくれてやりなさいって言われました」

つまりだ、遊星はアキにそういうのを聞いてやりたくなったんだろう。なんだかんだで遊星はこういうのに興味を持つ。ましてや“恋人同士”というものは特に、だ。遊星のそういうとこは嫌いじゃないが、最終的な結果というか狙いが分かっているのか疑問だった。

「ひとつ聞くが、ポッキーゲームの目的というか結果を分かっているのか?」
「はい。途中で折れるか完食してキスするんですよね」

にっこり笑って言いやがった。分かっててやるのか。笑顔が清々しいぞ、ちくしょう。文句言えないじゃないかッ!!

「ね、やりましょう?」

はっきり言おう。オレは遊星のお願いに弱い。遊星も遊星で一途なバカだが、オレも遊星バカらしい。

「わ、わかった…」
「じゃあアテムさん、こっち銜えてください」

ずい、とチョコが塗られた側を口に当てられた。
やるしかない。
それに……遊星とキスするのは嫌じゃない。


*****


ポリポリ…

ポッキーをかじる音がやたら大きく聞こえる。

(ああもう!遊星、ちみちみ食べて!今すぐ折ってやりたい!!)

わざとなのか、ちみちみ食べる遊星にムカついてしまった。ああでも顔が綺麗でかっこよくて文句なんて言えない。そもそも喋ったらポッキーが折れてしまうから喋らないけど…

(あ、さっきよりは、早くなった?)

少し考え込んでたら遊星の食べ進むスピードが上がったように見えた。あと5cm、4cm、3cm…

(もう少し、もう少し…)

2cm、1cm…

ちゅっ、

軽いリップ音がなる。
遊星とオレの唇が重なる。
短い時間だったけれども、それは長い時間のように感じた。

「…アテムさん、どうでしたか?」
「……聞くな見るな恥ずかしい」

たぶん顔が真っ赤になってた。見られたくなかった。でもそんなこと無理だってわかってた。遊星の顔が近かったから…

でも、嫌じゃなかった。こんな日も悪くない。


Let's ポッキーゲーム!

(アテムさん毎年やりましょう?ポッキーゲーム)
(……毎年は勘弁してくれ。心臓が持たない)


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