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雨は嫌い。あの日もたしか雨だったから。本当にすべてが終わってしまった、あの日も…


******


『この裏切り者ォォォォォォッ!!』

また、あの夢を見た。本当のチームの崩壊の時の夢。この夢を見る時は決まって天気は雨。

(あぁ…D・ホイールの試運転出来ないじゃないか…)

半年前から造り始めたD・ホイール。(正確には覚えていないが)1年前に出会ったラリーたちの頼みでもありオレ自身の新しい目標。スターダスト・ドラゴンと一緒に走りたいからだ。

「……な、に、考えてるんだろうな…鬼柳はオレのせいでこんなこと出来ないのに……オレだけこんなことしてるなんて…」

あの日。
鬼柳がセキュリティにテロを仕掛けた。ジャックやクロウと鬼柳を捜し回った。サテライトの隅々まで。どれくらい捜しただろうか、鬼柳は見つかった。普段はない不気味な雰囲気を纏っていたチーム・サティスファクションのリーダー鬼柳京介が。

『き、りゅ…?』
『あぁ遊星。どうしたんだ、雨に濡れたら風邪引くぞ?』

何事も無かったようにキレイに笑う鬼柳の姿はそのときのオレには凄く不気味で、自分の知らない鬼柳京介が目の前にいたのだ。こんなの鬼柳じゃない、あの優しかった鬼柳じゃないと目の前の鬼柳を否定し殴り掛かった。

『鬼柳!お前自分が何したかわかってるのか!?』
『何って…』

──サテライトの秩序を崩す奴らを排除しに行ったんだけど?

『ちが…う、違う違う違う違う違う違う違うッ!こんなこと鬼柳はしない!お前は、オレたちの鬼柳じゃない!!』
『…ッ!じゃあオレは誰なんだ!?お前の言う鬼柳って誰なんだ!?』

服が汚れるのなんて気にしなかった。雨が降りしきる中、オレと鬼柳は地面に身体を打ち付けながら互いを殴り合った。ここまで酷い殴り合いをしたのはまだ小さかった頃、ジャックと喧嘩をした時以来だった。


******


『は、ぁ…はぁ…』
『き、りゅ…』

どれくらい殴り合っていたかわからなくなるくらいたった頃、セキュリティのサイレンがオレたちのいた所にまで聞こえてきた。セキュリティに対し起こしたテロの実行犯──鬼柳京介を捕らえる為、オレは瞬時にそう思った。だから鬼柳を近くの建物に隠れさせようとしたが時間が足りなかった。

『セキュリティ本部にテロを仕掛けた鬼柳京介!直ちに投降せよ!!』

オレと鬼柳の周りにライトが照らされあっさりと包囲されてしまった。逃げられないと分かってしまった瞬間オレは鬼柳になることを決めた。鬼柳を逃がす為に。

『鬼柳京介はオレだ!こいつは関係ない。さぁ連れて行くなら連れていけ!!』

これで鬼柳は助かる、そう思った。しかしセキュリティはオレの言葉を無視して鬼柳を拘束した。なんで…という疑問が頭の中を埋め尽くした。鬼柳は拘束から逃れようと暴れていてオレは茫然と立ち尽くして…だからいつの間にか後ろにセキュリティが立っていることなんて気がつかなかった。

ぽん…

肩に重みを感じ振り返るとにたりと笑うセキュリティがいた。なんでセキュリティが?と思って口を開こうとしたができなかった。

『遊星ぇ…お前、オレを裏切ったな!?』

鬼柳がオレに憎悪の目を向けていた。今まで見たことも向けられたこともない、とても冷たい目だった。

『セキュリティと手を組んで、オレを捕まえようとしたんだな!?仲間を売ったんだな!?』
『ち、違う!オレはそんなこと…ッ!』
『鬼柳京介を連行しろ』
『遊星ぇ…オレはお前をゆるさねぇ…この、』
『違う、違うんだ鬼柳!!』

鬼柳がセキュリティの車に連れてかれ放り込まれ扉が閉まる瞬間……

『この裏切り者ォォォォォォォォォォ!!』

違うと叫んでも鬼柳の誤解は解けぬまま連れていかれ、オレの後ろに立っていたセキュリティはご苦労だったな、と言い去っていった。あっという間の出来事で何が何だかわからなかったが、ただひとつ冷めきった頭で瞬時に理解した。オレが庇っても最初からセキュリティはすべて知っていた、だから鬼柳を連れていったことを。


******


ざあざあとさっきよりも大きな音がする。きっと雨が強くなってきたんだろう。

「……鬼柳」

ぽつりと言葉にした名前は雨の音に掻き消され誰の耳にも届くことはなかった。


嫌い

(すべてを思い出してしまうから雨は嫌い)
(贖罪したくとも今どうなっているかわからないからそれも出来ない)
(鬼柳…)







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