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いきなり気分転換でもしてきなよ、と身体の主導権を渡され、それから引きだしの中にキミの茶封筒があるから、と言われた。
呼びかけても応えてくれないし交代しようとしても心の部屋に閉じこもってるのか反応なし。デッキ調整もする必要もないし課題でも手伝うかと思ったがちんぷんかんぷん。ただじっとしてるのも嫌だったからデッキケース腰に巻き、携帯をポケットに突っ込み引きだしを開ける。すると茶封筒があり相棒の字で“もうひとりのボクの分”と書かれていた。開けてみるとデュエル大会でもらった賞金が入っていた。オレは使わないから全部相棒に渡していたが、こっそり半分をこの茶封筒に貯めておいたらしい。中から数枚抜き財布に突っ込み家を出た。
(ひとりで歩くのは、初めてだ)
童実野町を歩いていたのは大抵相棒だったし周りには城之内くんや杏子たちがいつもそばにいた。わいわいとデュエルのことや学校のことなど他愛もない話を聞いているのが常だった。オレは相棒以外には見えないから話も相棒を介してだったし、邪魔しちゃいけないと思っていた。
(寂し、い?)
ひとりで人混みに紛れてどこに行くわけでもなく歩いた。寂しいって思ったのは誰もが忙しそうに街中を急ぎ足で歩いていたから。ゆとりがないのかもしれない。
(…どこ、行こう?特に行きたいとこはないけど…)
カードショップ?いやこないだ新しいパックは買った。
美術館?記憶のヒントの石版は見たくない。
海馬んとこ?帰れ、って言われるかデュエルを挑まれるだけ。
サ店?腹も空いてないし喉も渇いてない。
(…ゲーセンにでも行くか。新しいゲームが入ったらしいし)
そうと決まれば歩くだけ。
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(これか、新しいゲーム台は…)
それは海馬んとこが開発したガンアクションゲームだった。プレイヤーは一介の兵士となり出てくる敵を倒していくものだった。ちなみにゲーム中にはデュエルモンスターズも出てくるらしく一定の条件を満たせば仲間として使えるらしい。
(まあいいや。ゲーム、スタート)
画面に向かって引き金を引くと敵は撃ち抜かれていった。それをどこか冷めた目で見送っていた。
(なんか寂しい、ぜ…)
つきん、と胸を刺す痛みがあった。
(つまんない。つまらなすぎる…)
気がつくとゲームオーバーになっていた。やるならちゃんとやっとけばよかったと今さらながら思ってしまった。
(……でもいつか、いつかは、オレは、みんなの前からいなくなる)
一度砕かれた千年パズルを相棒が組み立てた後ひそかに考えていた。だからひとりで歩くことに慣れておかなければ、ある一定の距離を保たなければと。美術館の石版は記憶喪失のオレの真実へのヒント。それを得てしまえば…たぶんみんなと離れてしまうことになる…
(帰ろう…)
今はまだ、みんなと一緒にいる時間が大切だから。ひとり歩きは今のオレにはつらすぎる……
ひとり歩き
(ごめんな。お前の気遣いが、)
(今のオレにはつらすぎる)
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