一年生は好きだ。
さっきの言葉は嘘に決まっている。
いつもはうざったいだの、めんどくさいだの。
そんな理由をわざとつけて後輩から遠ざかっていた。

しかし…私だってできることなら、下級生と交流を持ちたいと思っている。
それこそ同級生たちのように、後輩に囲まれて、楽しく委員会なんて。


でももし私のせいで傷付けてしまったら…?


一年生だ。
まだまだ忍者の卵の卵。
同級生のあいつ等や五年生や四年生ならまだ大丈夫かもしれない。
けど、


「この人殺し!!」


私のこの手では、



「やっぱり名前先輩だ」


『!!』



気付いたら後ろに青紫の装束を着た忍たまが立っていた。
特徴は髪がボサボサで眉毛が太い。
左手には虫取り網を持ってこちらを見据えていた(またなんか脱走したのか)。

私はこいつを知っている。

何かと私に絡んでくるあの五年生の中の一人、竹谷ハ左ヱ門。
こいつもまた私に関わろうとするやっかいな生物委員だ。



「いつもこいつ等にお花…ありがとうございます」


『だから私ではないと言っている』


「俺後ろから見てましたから、嘘をつくにはちょっと厳しいっすよ」


『………、花をここに捨てただけだ』


「はい、わかってます」



私と竹谷ハ左ヱ門は飼育小屋の前にいた。
たぶんやつはエサを与えに、もしくは脱走した虫を返しに(たぶん後者)ここへ来たんだろう。

私は動物が好きだ。

こいつ等は何も言わない。
深入りせずに居てほしい時に傍に居てくれる。
この飼育小屋は私の癒しの場所だった。

花を持って来たのは言うまでもなく、横に作られた動物たちの墓のため。
一応言っておくが、捨てたわけでは、ない、からな。

もし私にこんな力がなければ、きっと立候補で生物委員になっていたと思う。

「名前先輩って学級委員長委員会委員長だったんすね。兵助が泣いてました」


『(あ、あいつ…)』


「俺も残念です。名前先輩、生物好きだから、委員会入って欲しかったんすけど」


『好き、じゃない』


「……素直じゃないっすね」



がさがさ。

竹谷ハ左ヱ門が小屋に入り、持っていた虫籠を開け小屋に放した。
動作に無駄がない。
伊達に生物委員会委員長代理はやってないんだろう。
そこは買ってやるが。

こちらに戻ってくる際、やつはいつの間にかウサギを一匹連れてきた。
大人しくして耳をひょこひょこ動かしている様は、可愛い、と思う。
そんな目で、こちらを見ないで…くれ。



「名前先輩なんかあったんすか?」


『なっ何もない』


「先輩がここに来る時って、なんかある時でしょう。俺知ってますよ、いつも悲しい表情して動物見てるの」


『……』



こうして竹谷ハ左ヱ門と話すのは珍しいことではなかった。
私が頻繁にここを訪れているからなんだが。

だから知らない間にこいつにバレていたのかもしれない。



『…優しくされても、私には返す術がないんだ』


「…」


『触りたくても、触れない』


「ほいっ」



ぴょーん



『はっ?!』



こいついきなり何するんだ?!

ものすごく深刻な話をして、まあこいつなら…と思って口を滑らしたら、兎を投げてきた!
おおおお前、びっくりするだろ!

急に投げられた兎は私の腕の中でビクビクしているし(ああ、可哀相だ)何を考えてるんだ。
私は目の前の人物をキッと睨んだ。



「それでいいんすよ」


『な、にがだ…!』


「今名前先輩、兎触れてるじゃないすか」


『っ?!』


「懐に入ってくるものは触っても簡単に壊れませんよ。俺たちも、そんな柔じゃないんすから」


『……竹谷、ハ左ヱ門』



ああ、そうか。

私を受け入れてくれるやつには、触っても大丈夫なのか。



「だから、俺とも仲良くしてください名前先輩」




『かっ考えておく…』





あいつ等に謝らなくてはいけないな。








110227

……………………
何これハチ寄り?