彼の笑顔にドキッとした。

もともと綺麗な顔をした名字先生だったので、いきなりの笑顔にたじろいでしまった…んだと思う。


私と変わらず男なのに、あんな綺麗な人もいるもんなんだな。



『…にしても、軽く避けられたような気がしたが』



もっと話したいのに。



……これは違う。 断じて違う。

私に男色の趣味はないぞ。
単に私は先生として、先輩の位置柄になるわけで!

あああ、こんなこと考えてる間に始業の時間が…!




私は自分に活を入れると、忍たまの友を持って教室に向かった。








「先生ー! 名字先生ってどんな人なんですかー?」
「綺麗な人でしたよねっ僕話してみたい!」
「名字先生は一年生に教えに来たりするんですか?」
「先生もなめくじさんは好きなのかな?」




『静かにしろー!!!』




授業にならない。


話題の人、名字先生はもうこんなに人気があるらしい。
まあ綺麗な人だったしな…。

こいつらの話を聞いていると昨日の時点ですでに噂があったようだ。



「ほんとに美人先生だったよね!」


「名字先生に授業してもらいたいよなー」


『おい…それは私に言ってるのか、きり丸?』


「ちっ違うに決まってるっす…いった! 先生痛いっすよ!」



げんこつ一発で許しとこう。


それにしても、名字先生はどこかのクラスを担当するのだろうか…?

朝礼だと何も聞いていない。


同じ一年だったらいいのに。
…でも先生に空きはなかったな、と納得してうなだれた。




「土井先生ー名字先生に質問しに行きましょうよー」
「先生だってわからないんでしょ?」
「僕たちだって名字先生と仲良くしたいんです!」




こいつらは…!





『ただでさえい組とろ組に遅れをとってるんだ! 授業やるぞ!!』



私だってできることなら名字先生のことが知りたいのに。










長い一日が終わった。


最後の授業を終えてテストの採点をしていたため、食堂へ行くのが遅くなってしまった。

あいつら絶対人の話を聞いてない。点数低すぎてテストの度に胃が痛くなるぞ…!


これは私の指導が悪いんだろうか。
今度山田先生に相談しよう…。


今は目の前のご飯だ。




「『いただきます』」




あれ?

ソプラノの声の持ち主と声が合わさった。


誰だ?




「あ、土井先生! 今からご飯だったんですね」


『名字先生…!(まさかここで会えるとは) 名字先生こそ今から? 何かあったんですか?』


「子供たちからいろんな質問されてまして…」




苦笑気味に笑った名字先生は初日なのか疲れているらしい。
服が少し汚れていたので、たぶん実技の授業だったんだろうな。


でも今日実技があったのは…。



『もしかして、いきなり六年ろ組の一日実習でしたか?』


「えっ、よくわかりましたね! そうなんですよ…学園長先生から何も聞いてなかったので焦りました」


『そうだったのですか! それは大変でしたね。 …あの、名字先生はどこか担任を持つんですか?』



一番聞きたかった質問をしてみた。

一から六まで学年があるが、先生が足りなくて困っているとこはなかった気がする。



「私は担任を持たずに、先生がいらっしゃらない時間に入る感じで…教科担当もしますよ」


『なるほど。 もし何かわからなかったら聞いてくださいね』


「はい、では」


『あ…』



いつの間にか名字先生は食べ終えていた。
食べ方がすごく上品で見とれていたのもあるが…気づかなかった。


いい育ちをしたのだろうか、とか。

仕事以外のことで、もっと名字先生のことが知りたかったのに。


ぽつんと一人食堂に残される。







何故こんなに彼が気になるんだろうか。








101007

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土井先生は初恋の相手ですね