僕は兵助が好きだ。
僕は勘ちゃんが好きだ。
僕ははっちゃんが好きだ。
僕は雷蔵が好きだ。
僕は三郎が好きだ。

皆みんな僕は好きだった。
これが愛してるの意味の好きなのか、友達としての好きなのかはわからないけれど。
僕は皆と過ごすこの日常が毎日楽しくて堪らなかった。


「名前ー豆腐食べないか?」

「また豆腐を名前に押しつけてんのかよ兵助…」

「名前も嫌だったら嫌って言っていいんだよ?」

『いや、僕豆腐好きだから大丈夫』

「…おい名前まで豆腐小僧になったらどうすんだ」

「まぁどんな名前も僕は好きだけどね」


たぶん僕と一緒に居てくれるこの五人も少なからず僕のことは嫌いではないと思う。
こうやって嬉しい時悲しい時、悔しい時や楽しい時。
僕たち六人は一緒に過ごしてきた。

ずっとずっと一緒。
皆大好きだった。






でも、それは突然起きた。
普通の日だった。

僕たち五年生はその場には居なかった。
だから噂で聞いたから詳しいことはわからないけれど。
空から女が降ってきたらしい。
運よく六年生たちが校庭で実習をしていたらしく、七松先輩が受け止めたんだと。

そしてその場にいた六年生たちは皆その女を好きになった。
女は天から降ってきた、そしてとても美しい。
まさしく天女さま。

天女さまは行く宛てがないようで、この学園で世話を見てあげることになったようだ。


怪しい。
だって空から降ってきたとか、六年生や…いや今ではもう下級生も懐いてるみたい、おかしいよ。
きっと学園を乗っ取ろうとしてるどこかの城の間者じゃないの?

って思ってた。

けど、違った。
僕が間違ってたんだ。


「きゃっ…!」

『わ、』


僕は廊下で誰かとぶつかった。
曲がり角で向こうから人が来てるとは思わなかったんだ。
考え事をしてたこっちが悪いよね…!
謝ろうと相手に手を差し延べてやっと気付いたんだ。

見たことのない女。
たぶん彼女が噂の天女さまだって。


『…すみません、大丈夫で……っ!//』

「いたた、…あ、こちらこそぶつかっちゃってすみません」

『あの、貴女が最近来られた天女さま…ですよね?』

「はいったぶん!じゃぁ初めましてですね。私の名前は神崎姫香って言います、よろしくね!」

『よろしくお願いしますっ僕は五年ろ組名字名前です//』


素敵な人だった。
亜麻色の長い髪が特徴で、眉目美しいお人。
ふんわりと僕に向けた笑顔に胸が温かくなった。

神崎さんは暇していたみたいで、そのまま僕たちは縁側でお話ししたんだ。
忍術学園へは彼女もどうやって来たのかわからないみたい。
へいせい、というこの室町から何百年も先の未来から来たんだって。


僕は彼女が本心で語っているんだと思う。
涙を浮かべながら下を向いている神崎さんを支えたい、護りたい、そう感じた。

何だろうこの気持ち。
彼女を見てるとすごくドキドキするんだ。


「名前くん、」


ああ、もしかしたらこの気持ちが“愛しい”なのかもしれない。


「私のことは姫香って呼んで…?お願い」

『はい…姫香さん///』








『皆!ねえ、天女さまは怪しいお人じゃなかったよ。とても綺麗で可愛らしい方だった!』

「「「「「っ?!」」」」」


後日僕は皆に姫香さんのことを話した。
姫香さんはいきなりこの時代に飛ばされて、今もまだ不安を感じてるんだよ。
皆で姫香さんを支えてあげよう?

きっと僕たちなら彼女をどの学年より護ってあげれる。
だって仲良しだもん。
どの学年のチームワークよりも断然強いよね!

…?


皆どうしちゃったの?
何でそんな怖い顔してるの?


「名前が毒された…」

「俺たちの名前が」

「何で!何で!!あんな女なんか気にかけるんだよ」

「嘘でしょ、名前」

「あの女許さねぇ…」



『え、何…皆どうし、たの…?』





これが僕の愛した日常が崩れていく始まりだった。








110307

……………………
傍観…?天女連載始動です