「私雷蔵が好きなの!」



今でも鮮明に覚えてる。
小さい頃、幼なじみに恋をした。

恋愛なんて教わらなかったから、
私が“雷蔵”になれば名前は私を好きになってくれるんだと勝手に、


勘違いをしていた。



ほんっと私は、







「三郎のばかああああ!」


『名前がさっさと食べないから悪いんだろ? はい、残念でしたー』



カチャリ、と串を皿に置く。

今日は休日。
暇という理由で私と名前は町に出ていた。
いつもは学園で過ごすのだが、たまには出掛けないとやってられない。


久々の外出だからか名前はオシャレをしている。

それがまた可愛いから悪い。


すれ違うたびに男たちが変な目で見てくるのを、こいつはわかってないんだろうな。

鈍感のくせに天然な、
こうもめんどくさい女に



昔から惚れているだなんて。



私というものが…




「三郎っ、ねぇ」


『何?』



「三郎は小さい時から雷蔵の顔だけど、どうしてなの?」



ほらな。
何も覚えていないだろ?

当時初恋で雷蔵になった私がかわいそうになってくる。


確かに今更元の顔に戻せと言われても、自分で自分の顔がわからなくなってしまったし、しょうがないといえばしょうがないが。


根源はお前だぞ。



『小さい時から一緒に居たし、雷蔵の顔が一番変装しやすいんだ』


そういうことにしとこう。



甘味屋を出て歩きながらの、他愛ない雑談のはずだった、

のだが。


名前が急に止まった。


何だ何だ。
何でそんな顔してるんだ?



「三郎って、ほんと雷蔵が好きだよね…」


『好きだけど…。 なぁ、何でそんな泣きそうになって』



「一緒にデートできて、舞い上がってる自分が恥ずかしいじゃない……三郎の…っ、ばかぁ」




今何て言ったこいつ……!!!
最後泣き叫んだかと思ったらいつの間にか名前はダッシュしていた。

おいおい、ちょっと待て!



今の言葉期待していいのか?!



ここで私がかっこよくさらっと名前を捕まえて、愛の告白といけば、もう言うことなしだろ。



『だああ、足速え! ちょ、名前! マジ待て!!』



忘れてた。


あいつくのいちで一番足の速い女だった。



とりあえず、走って走ってあいつの気持ちを確かめよう。



もしかしたら


もしかしたら、










(止まってくれ!)
(お前も片想いも!!)




100925

……………………
雷蔵のことはお兄さんとして
好きだったんですね、たぶん←