好きな人の好きなものなら私も好きになりたくて、少しでも距離を縮めることができればと


やった結果がこれだった。



「名前、やりすぎだろ」


『だって…』



授業が終わった放課後、私は図書室で借りた本を見ながら豆腐料理を作っていた。

だって冷奴とかそんな浅い知識ではたぶん彼の足元にさえ届かない。


もっともっと豆腐のことが知りたい

そうやって豆腐料理を作っていたら
いつの間にかこんな…



『この量どうしよう』



目の前には田楽豆腐、麻婆豆腐、お味噌汁、揚豆腐、豆腐ステーキ、豆腐ハンバーグ…

なんかもう言うのさえ疲れる。

そのくらいたくさんの豆腐料理を作ってしまったようだ。


私のアホ。



あ、恋は盲目ってこういうことを言うのかもしれない。



「でもこの量どうすんだよ。 一人で食えるのか? 私が手伝ってやろうか?」



にやにやしながら言う雷蔵くんの顔をした鉢谷三郎。

いつの間にか作ってる最中に気配を消して話しかけてきたのだ(ビックリして豆腐一丁無駄にした)。


最近豆腐料理を作る私にちょっかいを出してくる、いわば天敵。

そんな奴に助けを求めたくない。


そのにやにやした顔イライラするのよ…!



「全部聞こえてるぞ」


『あら、ごめんなさい鉢谷三郎。 でも間違ってもあんたには手伝ってもらわないから』



全部食べれる気はないけど。



「…名前一人で食べる気? 豆腐だけどこの量は太ると思うよ」


『いいの』



麻婆豆腐をパクリ。うん、うまい。
味付けは間違ってなかったようで安心した。

ただ目の前の莫大な量に頭が痛くなるだけだ。


ちなみにここは食堂。
時刻は8時。

夕方から作りはじめてこの時間。
もちろん皆ご飯を食べ終え、私の手伝いをしてくれる救世主なんていない(鉢谷はむかつくから抜かす)だろう。



「私もお前も、素直になればいいのにな」



急に。

ポツリと言った鉢谷の顔がいつもの顔ではなかった。
苦虫を潰したような…。


…その前に、素直になるってどういうこと?



『鉢谷?』


「名前が知りたいのは豆腐じゃな―――、兵助」 

こいつ何言って…と後ろを見たら勝手口からひょこりと、唐突に



「お、三郎と…名字さん? 何やってるの?」



私の想い人である久々知くんが暖簾をくぐり入って来た。

実習が終わったばかりなのか、制服も汚れていて疲れが見えたけど…大丈夫かな?



っっって、久々知くん?!



「兵助、お前豆腐好きだろ。こいつ作りすぎたみたいだから食ってやれよ。 ……じゃあな」


「あぁ…って、うわ! 何この豆腐料理のフルコース! これもらっていいの?」


『ううううん…!』



挙動不審だったかも。
笑顔で話しかけてくれた久々知くんに、私はもうドキドキだ。

というか、鉢谷ありがとう…!
初めていいやつだと思ったよ!


パクパクとすごいスピードで目前の料理を食べていく久々知くん。

わあああ…まさか喋れてしかもあまつさえ私の料理を食べてくれるなんて…!


嬉しくてどうしよう!





「名字さん料理上手なんだね! すっごくおいしいよ。 名字さんも豆腐好きなの?」










(言えるのはまだ先かな)
(むぐむぐ、湯豆腐うまい!)



100925

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初忍たま夢です!
実は三郎はあなたのことが好きという三角関係でした