とろとろとろ。


茶色い液体を箆で混ぜながら、私はどうやって想いを伝えようか迷っていましたの。
今日は乙女にとって大切な日、ばれんたいんでいっていう日なんですって。

何でも殿方に乙女がちょこを渡して告白をする、とくのたまの友達から聞きまして。


私も僭越ながら作っている最中です。
この前くのたま教室でちょこの作り方を習いましたの。
だから今日はきっと楽々ですわね。

私の好きな殿方は誰かって…?
な、名前を出すだけでも恥ずかしいのですわ//


野暮なことは聞かないでくださらない?



『お…おかしいですわね』



ちょこを溶かしたとこまではよかったのですけれど、今私の目の前にある『これ』は何ですの…!

何だかどろどろして形が歪。
それに比例して台所の周りも…茶色い液体があちこちに飛んでいますわ。


私って料理センス皆無だったのですね…。


こんなもの、あの方にあげるわけにいきません。
きっと渡してもあの方は優しいから喜んでくださるでしょうけれど。

乙女の一世一代の告白にふさわしくありませんわ。



「…先輩」



早くこれの代わりになる可愛いくて美味しいちょこを作らないと。

もう時間がありません。
早く、早く。



「先輩、先輩」



もしかしたらあの方はおモテになるから…いっぱいくのたまからちょこを貰っていらっしゃるかもしれないわね。

どろどろどろ。

ちょこに私の心が反映されるのかしら。
これも固まらない…ああもう失敗ですわ!



「名前先輩!!」


『っ?! な、なっ、え…?』



気が付いたら、私の後ろに彼がいらっしゃいました。
びびびびっくりしてちょこを落としそうになったじゃないですの…!

??


か、借りにも先輩の私のことを心配してくださっているのかしら…?

眉間に皺がよってますわ。

『ら、雷蔵…どうしましたの?私に何か用事がおありかしら…?』


「はい、……あのっ今日が何の日か名前先輩はご存知ですか?」


『ばれんたいんでい、でしょう?』



今目の前にいらっしゃる私の想い人は、もう女の子からちょこを貰ったのかしら。
いや、こんなに顔も中身もいいんですもの、貰っているわね。

私は急いで味も見た目も最悪なちょこを隠した。



「…えっと、その、僕に名前先輩のちょこをください!!」


『え』



今、何ておっしゃいましたの…?



「今先輩が後ろに隠してる、そのちょこが欲しいんです」


『え、あ…でっでもこれは…』


「!!……すみませんっ。そのちょこ、誰かに…あげるつもりなんですか…?」



私は雷蔵にそんな顔をしてほしいんじゃないんですの。

このちょこだって貴方のために作りましたのよ。
でもこんなものあげるわけにいきませんわ。



『ら、雷蔵…///』


「?」


『こっこのちょこは雷蔵のために作りましたの!でも…私っ料理が下手みたいで、美味しく作れなかったか』



ぎゅっ



今私はどうなって、?


視界が、私の好きな青紫で、匂いが、私の好きな落ち着く匂いですの。
顔を上げたら頭一個分背の高い彼と目が合いましたわ。

わわ私、彼に抱きしめられているのね。



「よかったぁ…よかったぁ//」


『ら、いぞ?』











(でっでも、こんなの…)
(先輩から手作りのちょこを貰える、それが嬉しいんです)
(雷、蔵…///)
(大好きです、名前先輩)









110211

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雷蔵はいざとなると迷わずにストレートに行くんではないかと思います^^