僕は今日もこの感情を裏返す。
何度も何度も君以外の誰にも気づかれないように。


再会してから解ったことは、
彼女は夜になるととても弱くなるということだった。

お日様の下で明るく笑っていた彼女が
嘘のように夜になると途端に元気をなくす。
暗闇の中でひとりぼっちで朝日を待つことが怖いのだそうだ。
離れてしまっていた間の孤独が夜になって彼女に襲い掛かる。
また離れてしまうのではないかと不安 にさせる。
もう大丈夫だよ、と何度告げても
彼女は不安に苛まれるのだ。

「そんな瞳で見ないで。」

恭しく彼女に毛布をかけた僕が立ち去ろうとすると
やはり彼女は泣きそうな顔で僕を見つめる。
それでも精一杯、「どうして行ってしまうのか」と言いたげな唇をぎゅっと握り締めているのは、
彼女もわかっているからだ。

「立ち去れなくなっちゃうよ。」

余計なことは言わず、
困ったように笑うだけでなんとかごまかそうとする。

淡い期待は声に出さずに飲み込んだ。
もし仮に、相手が僕だから行かないで欲しかったとしてなんになるというのか。
僕は復讐のために生きると決めているの だからそんな感情はいらない。
許されない、あってはならないものだ。

「……私が眠るまででいいから…」

それでも、彼女は手を伸ばす。
僕と同じく復讐のためにと決めているはずなのに、せめて、と。
那真絵は僕の服の袖をきゅっと握って離さなかった。

「傍に、いて?」

ああ、君はいつもそうだね。
僕のちっぽけな自制心なんて軽々と飛び越えて
決心なんて出来ているようで出来ないないものをぶち壊して
いつも、いつも。

僕を光へと導くんだ。

「大丈夫。僕はいつでも傍にいるよ、那真絵。」

暖かい手を握り返して、そっとベッドに腰掛ける。
ふっ 、と暗がりの中で嬉しそうに微笑んだ彼女のまぶたに口付けて、
僕は彼女が眠るまでずっと彼女の髪を撫で続けていた。


僕も彼女も解っている。
僕達は暗闇の中に留まらなくてはならなくてはならないってこと。
それでも、許されないと知りながら、お互いを求めている。

だから僕達は今日もこの感情を裏返す。
何度も何度も僕達以外の誰にも気づかれないように。

朝日が昇ればなかったことになる毎日続く真夜中の夢の中の出来事を
知っているのは空に浮かぶあの光り輝く月だけなのだ。