景色って凄い。風がそよぐこんなに気持ちのいい夕方は久しぶりだ。少し前までは肌寒かったのに、といってもこんな日もすぐに超えて季節達はじめじめする梅雨に向かって加速していく。だから今が一番ちょうどいい。景色って凄い。そう考えながらるんるんでカードショップに入ったのが30分程前のこと。



「…………嘘やん」



そしておそらく顔面蒼白でカードショップから出てきたのがついさっき。景色って凄いっていうより私の目凄い。気分が変わるだけでこんなに違って見えるなんて。



「あーあ、やっちゃったな」
「うお、俺エクシーズ当たったー!」
「まじか見せて」



たまたま出くわしたクラスの男子共がドヤ顔で通り過ぎていく。こんなに景色というかお前らが憎らしく見える日がくるなんてな。覚えてろ。二度とノート写さしてやらないからな。

この数分で何が起きたかと言えばそれは明白であって、ただ運がなかった、その一言につきる。
このカードショップでは週に一度、カードくじが行われる。十枚セットで、入っているのは殆どが店に残っているノーマルカードだが、殆ど確実に一枚はレアカードが当たるようになっているのである。当然値段はパックより少し高めだ。

まぁ私は、その「殆ど」に入らなかったのだ。



「 3セット買ってレアカード無し……だと……?」



しかも既に持ってるものばかり。だから一セットずつ買えとあれ程……くっ……。ああ、ジーザス!と頭を抱えていると後ろから「あっ!」と、やけに聞き覚えのある声が聞こえた。



「遊馬くん」



最近ちょっと仲良くなった男の子だ。今日は学校帰りなのか制服を着ていたので一瞬分からなかった。何時もよりほんの少しだけ大人びて見えた。服って凄い。
そういえば最初にあったのもこの店の前だった気がする。



「久しぶりだなぁ、えっと、那真絵……さん?」
「呼び捨てでいいよ遊馬 くん」
「やった。で、そんなに暗い顔してどうしたんだよ?」
「聞いてくれるな」



さほど興味はなかったのか、ふぅんと呟いた彼がそれ以上追及してくることはなかった。
二人で突っ立っているのも邪魔なので、とりあえず自販機横のベンチに座った。するとやはり彼もデュエリストだからか、私の持っているカードが気になったらしい。



「あ!もうくじやったのか?」
「一応ね。見る?」
「おう!……あれ?このカード超かっこいいじゃん!」
「ああ、それは」



魔導戦士と氷帝が対峙するそのカードは、『プライドの咆哮』。その緊迫感に迫 力すら感じるそれは、確かに印象的である。
少し前に発売したカードであり、既に何枚か持っていたはずだ。事実、私のデッキにも一時期入っていたことがある。
遊馬君は興味深そうにカードを上から下へと眺める。が、彼は徐々に首をひねり出した。



「つまりどういうカードなんだ?」
「ええ……まぁつまりはね」
「おう」
「相手が自分より強いくってやべーなって時に湧き上がった不屈の闘志とプライドで相手を打ち負かす……」
「かっけぇー!」
「というのは嘘だけど。ちゃっかり代償がいるよ」
「えええ騙したな!ひっでーな」




どんなに攻撃力の差 があろうとも、その差分のライフコストを払うことで、相手より僅かではあるが高い攻撃力に強化される。ルールとしてモンスターの攻撃力が相手より1でも高ければ破壊できる。つまりほぼ確実に相手のモンスターを戦闘破壊できるということだ。
使い方によっては下級モンスターが上級モンスターを倒すことも容易であり、まさに下克上。いわゆる「ロマン」のあるカードだ。



「なるほどなぁ、俺にぴったりだぜ!……って思わない?」



確かになぁ。なんて思ってしまう。初めて会った頃に比べて、会う度に異常な速さで強くなっている彼に焦りを感じない訳でもない。
なんでもこの間はデュエルで宝石強盗も捕 まえたとか、本当かどうかは知らないが。
どんなに実力差のある相手でも迷わず立ち向かい、最後まで諦めないからこそ、勝利を手にする。
デュエルを楽しむ素直な心、それこそが彼のプライドなのかもしれない。

なんて、遊馬自身気付いている訳がない。ただ私の勝手な考察である。
彼が言いたいことは別だと分かっている。


「要約するとくれってことか」
「おう!」



彼にニカッと笑われれば、もう為す術もなく。というかダブりがあるので全然構わないのだけれど。
時計をちらりと確認する、まだ夕飯まで余裕がありそうだ。



「じゃあこう しよう。遊馬君はそのカードを入れたデッキで私とデュエルして、勝ったらそのカードをあげるよ」
「おお、面白そうじゃん!やるやる!」
「年上のプライドを見せてやるわ」




景色はまた変わる。




(プライドの咆哮)