第一章 運命の歯車
『……姉さん!待って!』 ここは何処……?暗い闇の中……私はどうして、こんな所に…? シエラの視界に広がるのは、永遠に続く暗黒…目の前には、自分を置いて行こうとする姉の姿。 シエラは必死に姉の姿を追い掛けるが距離は全く縮まらない。 その時………姉が立ち止まって、振り返る。 『シエラ………』 『姉さん……!』 姉の顔はよく見えず…近付こうと一歩踏み出した瞬間、あたりは暗黒から光に包まれた。 目を覚ましたのか、閉じられていた目をゆっくり開いていく。 開いた目に映ったのは、見知らぬ部屋……部屋の中はシンプルだ。 「ここは………?」 シエラはゆっくり体を起こし辺りを見回していると、話し声が聞こえてシエラの前に女性が姿を現す。 「気が付きました?ここは、私の家です、あなた森の中で倒れていたみたいなんです。私の家まで男性が運ばれてきたんですよ」 女性は優しい声で話すとシエラに近付き、ベットの側に置いてある椅子に腰をかけた。 「そうだわ……、私……森の中で急に意識を手放して……」 シエラはエルフの集落から旅に出て、人間の住まう場所へと渡ってきた。 そして森の中を渡り町に向かっている途中、急に意識を手放したのだ。 シエラはベットから降りると、ペコリと頭を下げてお辞儀をし、お礼の言葉を述べる。 「ありがとう、迷惑をかけてしまってごめんなさい。それから――――」 その後に女性から聞いた話しでは、あの森は魔の森と呼ばれているらしい。 魔の森には魔獣が封印されており、その魔獣が人々に夢やまやかしを見せ意識を奪い、近づけけさせまいとしていると噂されている。 その噂に関しては本当かどうかは、不明であるが…………。 魔の森から私を助けてくれたのって、いったい誰なのかしら………? 自分を助けてくれたと聞いた、男性の事を考えていた。 聞いた話しでは、銀髪で白の長いマフラーをしていて、瞳の色は蒼だったということ。 もう一度…魔の森に行ってみよう、なんだか……その人がまだ、あの森に居るような気がする…。 シエラはもう一度、魔の森に行く決心をすれば町を後にして、魔の森へと向かうのだった。 そして――― シエラは再び魔の森に足を踏みいれていた。 また意識を手放す危険はあるが、何故かそこに彼がいるような気がして、じっとしていられなかったのだ。 薄い霧があたりを覆って不気味な雰囲気を漂わせている。 シエラは魔物を倒しながら奥へと進んでいく。 「あの時は、こんな霧なかったわ…魔物もいなかった………」 急に意識を手放した際には霧に覆われてはおらずに、魔物の姿もなかった。 まるで侵入者を拒んでいるかのようである。 本当に魔獣はいるのだろうか……?この霧も魔物も魔獣のせい……? 『シエラ……』 その時……懐かしい声が聞こえた気がして、辺りを見回すと霧の中から姿を現したのは姉のエリス。 『シエラ……』 エリスは名前を呼ぶと、にっこりと笑って手を差し出す。 「姉さん……私………」 シエラはエリスの差し出した手を握ろうとしたが、届かずに前へと進んで距離を縮めようとする。 前へ奥へと進んでいくうちに、霧も濃くなっていく。 霧が濃くなるにつれて、エリスの姿も見えなくなる。 『シエラ、こっちへいっらしゃっい。さあ………』 目の前のエリスの言葉どおり、シエラは一歩また一歩と、前に進んでいく。 『さあ、早く…………早くいっらしゃっい…』 やっとエリスは止まって、シエラが足を一歩前に踏み出そうとした瞬間、エリスの体が縦半分に裂かれた。 「姉………さん…!」 縦半分に裂かれると、エリスは魔物へと姿を変えてシエラの足元に倒れる。 暫く足元に倒れた魔物を見ていたが、顔を上げれば少し離れた場所に立っていたのは、大剣を持った銀髪の少年だった。 「あ……えっと………」 「またお前か。今度は魔物の幻覚に騙されて喰われそうになるとは」 シエラが声を掛けようとすると、少年は無表情で呆れたような声色で話す。 …え…?魔物…?じゃあもしかして、私が見てた姉さんって……。 そう、シエラが今まで見ていた姉のエリスは、魔物による幻覚だったのだ。 シエラは暫く落胆していたが、首を横に小さく振ってから軽く頬を叩くと、銀髪の少年に訪ねる。 「じゃあ……この森に封印されてる魔獣って……」 「こいつは封印されてると言われていた、魔獣じゃない。俺はもう行くぞ、お前に付き合っている暇はない」 少年がシエラの質問に答えてから立ち去ろうとするので、シエラは慌てて少年の服を掴んだ。 自分でもどうしてか分からなかった、お礼を言いたいからなのか……または別の気持ちによるもなのか……。 「なんだ?」 「助けてくれてありがとう!」 少年の冷たい声に、シエラは笑顔でお礼の言葉を述べる。 霧はいつの間にか消えていて、魔の森と呼ばれていた森は美しい姿を見せていた。 運命の歯車は少しずつ狂い、時は動き始めたのだった―。 ▽ prev / next [back] |