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暗緑の灯火・君の所まで



「あ〜来たな今年も」

ラナは大きく伸びをして、楽しそうに笑った。

「すでに全員集まっています」

騎士の1人が、そんな彼女に敬礼する。

「よっし、気合い入れて行こうか」

さっと手を上げると、もう1人の騎士が、彼女の剣を差し出し言う。

「あんまり厳しいと、今年も減りますよ」

「なに、減らして当然だ。給料いいんだから、ぬるい仕事じゃないって教えなきゃな」

にやりと笑った彼女に、騎士は「それもそうですね」と頷いた。

「…じゃ、お前らもしっかり頼むぞ」

「「はっ」」




ラナは剣を受け取ると、踵を鳴らして歩きはじめた。

そのつま先が向かった先は、騎士団詰所前の広場。
騎士2人も後に続く。

カツカツ足音を鳴らしていけば、広場に集まっていた新米騎士たちが、一斉にこちらを向いた。

困惑の表情を浮かべている者が数人いたが、そうでない者もいた。ざっと見たところでは、今回の新人任務に、女性は居ないようだ。
めったに女性は入ってこないので、珍しいことではないけれど。

それだからこそか、女性騎士であるラナに、嫌な視線を向ける者も少なくはない。

そんな事は慣れたもの。何とも思わない彼女は、堂々と新米騎士たちの目の前に立った。

列を乱さず整列した彼らの視線が、漏らさずこちらを向く。


「まず、騎士団入団おめでとう。私は副団長のラナ・トルーテだ」

ざわっと一瞬声が上がる。
彼女は気にせず話を続けた。

「お前らにはこれから帝国騎士として頑張ってもらうが…その前に、まず最初の任務だ」

凛とした彼女の瞳が、新米騎士全員を捉えた。

「帝都より西の海岸に、遠征部隊の船が到着している。彼らに補給物資を運ぶのが、お前たちの最初の任務だ」

軽く言ってのける彼女。
それをじっとみつめる、1人の青年の姿があった。

フレン・シーフォ。
ラナの幼馴染だ。
偶然にも同時に入隊したユーリは、半数に分けられた新米騎士の初任務ではもう一方、隊長主席シュヴァーン・オルトレインの指揮の元、すでに別任務を開始しているはずだ。

彼はこちら側、ラナが指揮する任務に回れた事を、内心では喜んでいた。
自分でも気がつかないうちに。



「というわけで、繁殖期の魔物は凶暴さを増している。各個別部隊の部隊長の指示に従い、くれぐれも死人が出ないように頼むぞ」



ラナはそう言って締めた。


騎士達は5つの少数部隊に分けられ、それぞれに運ぶべき荷が与えられた。
演習ではなく、実際に補給を兼ねている、重要な任務だ。
荷は馬で引いて行くのだが、部隊の中で護衛と運搬、どちらかに回る事になる。

割り振りは部隊長が決めたが、入隊試験の実践で成績が良かったフレンは、護衛を任された。



荷の積み込みから始まった任務に、不満の声を漏らす者もいた。

「ったく、なんでこんな事まで…」

「戦うのが仕事だろ?まさか、積荷を下ろすのもやらされるんじゃねえの?」

「最悪だな、こんなの召使の仕事だろ」

中には貴族も多い。
入隊試験をコネで免除されても、初任務だけは同じように受けなければならないのは、騎士団長アレクセイの改革の賜物。



「お前、平民か?貴族か?」



フレンは短髪の青年に声をかけられ、振り返った。

「それがなんの関係が?」

「そうツンケンすんなよ、別に隠す事じゃないだろ」

冷たいフレンの返事に、悪びれる様子もなく青年は言った。

「わざわざ言うことでもないだろう」

フレンはそう言って、積荷に視線を戻した。
次々と荷台に運び込まれ、そろそろ出発だ。

「んだよ、感じ悪いやつだな…」

去り際に舌打ちが聞こえた。
感じが悪いのは、どちらも同じことだろう。

フレンは辺りを見回し、おおよそ積み込みが完了している事を確認した。

「部隊長、終わりました」

声をかけたのは、フレンの少数部隊の部隊長。
顎に少し髭を生やした、気の良さそうな中年男性だ。

「よし、全員いるな?」

部隊長は指をさして人数を数えた。
この小隊は皆で6人。

「先行部隊について出発する。剣は鞘に収めとけよ、結界の外では周囲を常に観察、魔物を発見したらまず俺に指示を仰げ。大声出すなよ、魔物が興奮する」




「出発だ!勝手な行動を取るなよ〜」

ラナの声が響く。

それを合図に各部隊長達の声が聞こえ、荷馬車が動き出した。
結界の外へと。







ラナと手練れの騎士三名は、馬に跨り後方を固めていた。
先行する騎馬隊は別の三人が前方で進路を示し、それに荷馬車と護衛部が一列についていく。
側面の護りは、新米騎士達にかかっているのだ。

さすがに結界の外ともなれば、貴族連中も周囲を警戒していた。
西の海岸はすぐ近くだが、今は魔物の繁殖期。
群れに遭遇することは避けたい。


しかし、船と海岸を肉眼でも見える距離まで進んだ所で、異変は起きた。


「魔物だ!!」

前方で誰かが叫んだ。

「どこのバカだ…大声出しやがって…」

フレンには、部隊長の舌打ちが聞こえた。

そしてほぼ同時に、魔物の呻く声も聞こえた。
体がぎゅっと強張ったのを感じ、剣の柄に手をかる。

「お前ら剣抜いて、気ぃ引き締めろ。くるぞ」

部隊長が言う。
たじろぐ他の騎士を尻目に、フレンは剣を抜いた。
それを見た彼らも遅れて剣を抜き、群れで向かってくる魔物を見据える。
その軍勢は、前方から徐々にこちらに流れてくる。

ドッドッドッと他の誰かに鼓動が聞こえるのでは、と思うほど、フレンの心臓は激しく脈を打って、体が震え出しそうだ。

「いくらなんでも多すぎる…」

迫る魔物に彼は焦った。
あまりに多く、荒ぶっている。
そしてそれはすぐに、目の前に迫った。

「…っ!!」

部隊長がまず一匹。

そしてフレンも剣を振った。
僅かに逸れ、魔物の耳をかすめる。

「はぁ!!!」

フレンは今度は外すまい、ともう一度深く振り切った。
それは魔物を捉えたが、背後で悲鳴が聞こえた。



「ひっ!!たすけてくれ!!」



帝都を出る時に、声をかけてきた青年だ。

彼は己を護るはずの剣からも手を離し、腰を抜かして尻餅をついていた。

「ころさないでくれぇ!」

魔物が彼に襲いかかり、喉元を切り裂こうと攻撃体制に入る。

だめだ、間に合わない。



フレンがそう思った時、緑のコートが跳ねた。

それは鮮やかに魔物を切りふせる。



「このボケが!死にに来たのか!!?」



ラナは手綱を引いて怒鳴った。

ぽかんと彼女を見つめる青年は、驚きに震えすら止まっていた。


「魔物に命乞いするような馬鹿は、騎士団にはいらん!」


「……も、もうしわけありません…」

「私にあやまる馬鹿も、騎士団にはいらん」

ラナは青年にぴしゃりと言い、さらに前方へと馬をかけていった。

フレンには、そんな彼女がどうしようもなく眩しくみえて、震えた己が恥ずかしく思えた。
追いつきたい、彼女に。早く。







-あとがき-

お待たせいたしました!
お待たせ、いたしました!いや本当にお持たせをいたしました!

申し訳ありません!
何ヶ月もお待たせしてしまいました。

副団長夢主、フレンに思われる、です。

彼の焦燥感はこうして生まれ、夢主に追いつきたくてたまらなくなるのです。
立派になって告白するんだ!
みたいな。

いやはや、長いことお待ちくださいまして、待ちくたびれてしまったと思います。
ですがまたリクエストいただけたらとおもいます。
リクエスト、ありがとうございました。



2014年9月11日稜準さまに捧ぐ


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