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リクエスト



満月と新月・欠けない2人



▽ ベティ  side ▽

その日は珍しく、帝都ではどしゃ降りの雨が降っていた。
私は仕事でたまたまザーフィアス城へ行って、終わったらユーリの顔でも見て帰ろうと思っていたのだけど。

城を出て急に降りだした雨に、足止めをくらってしまった。

たちどころに石畳を水たまりに変えていく雨。

気だるい身体を温めるように、私は屋根を張り出した店屋の前で座り込んだ。
意外にも、他に雨宿りをしている人は見当たらなくて、ざぁざぁと雨粒がそこら中に打ち付けられて跳ね返る音ばっかりうるさく響いていた。

温まろうにも、目に付く辺りで走って滑り込めそうな店は閉まっていて、近道で下町へ行こうとしたせいで裏路地は喫茶店の類も少ない。


「すぐ、やむわよね……」


誰にとも無く、そう呟いてみる。

未だに雨の日に縛り付けられている私は、とても弱っちくて子供じみていると思う。


「にゃあー…」


消え入りそうなほどか細い鳴き声がして、私はその音の方へ振り返った。

「にゃっ」

短く鳴いたのは、真っ黒い猫だった。
子猫と言うには大きいが、まだ完全な成猫でもないようだ。


「野良かな?」


私はそんな黒猫の首筋を撫でた。
ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らす黒猫。

「まっくろ……ユーリみたい…」

私は自分でも、口元が綻ぶのがわかった。
本当はユーリに早く会いにいきたいんだけど、身体が重くって困る。
ゴロゴロと喉を鳴らしていた黒猫は、するりとしゃがみこむ私の足に擦り寄った。



「あなたも1人なのん?雨は寒いね…」


「にゃっ」


返事をするように首を傾げる黒猫は、前足をしゃがみこんでいるこちらの膝に乗せてきた。

とん、と。

あらら、ねこさん。
私は放浪の身だから飼ってあげられないのよねん。


人になれてるしタフそうだ。だから、どこでもやっていけそうな雰囲気の黒猫は、連れて帰るより上手な方法があるだろう。


にゃぁーと甘えた様子ですりよってくる黒猫を撫でながら、私は反対の手で膝を抱えた。
寒いし心細かったけど、まるでユーリの分身の、この黒猫が助けにきてくれたみたい。
そして少し濡れたその猫を、放っておくのは何故か憚られた。強そうで、弱い、自分みたいに。


「ベティ、なにやってんだ?おまえ」


急に雨音が止まった気がした。雨なんて止んでいないのに。
期待を込めてゆっくりと顔をあげれば、そこにはユーリが立っていた。
まるで大きくなった黒猫が「まったくしょうが無いな」と言っているかのように。

猫を見るとユーリは「あーあーわかった」とため息をついた。

「放っとけよ、ノラ猫なんざそこら中にいるぜ?」

彼は少し呆れた様子でそう言って、こちらに手を差し出した。

「ユーリに似てる」

そう微笑んだ私に、ユーリはさらに困ったように眉を下げた。



ねえ、ユーリ。
大好きよ。

大好き。

本当にあなたの事が大好き。
失いたくないの、失うのが怖いの。

あなたがいなければ、私は

生きていく事すら辛くなるの。

呼吸も、脈打つ事も、全てが辛くなるの。

大好きよ、ううん、もっと…

愛してるの。






▽ outside ▽





「……っ!!はぁっ!!!」

ベティは息をつまらせたように声をあげて、がばっと勢いよく起き上がった。
はぁはぁと呼吸は荒く、胸は激しく上下し、ドクンドクンと鼓動は全身を駆け巡っている。

急に起き上がったからなのか、悪い夢でもみたのか、酷く身体が怠く思えた。

状況を確かめようと、ベッドから起き上がった彼女は、そのままずるりと床に落ちてしまった。 

「ベティ、気ぃ付いたか…」

ユーリの声、だと思う。
いつもよりくぐもったように聞こえ、低いその声は機嫌が悪そうだ。

「うん……」

彼は、ベティが返事をする前に、そっと腕をつかんで立ち上がらせた。

「ベティ、倒れたんだぜ」

「ああ、雨で?ごめん…またやっちゃった…」

「それはいいけどよ、他は変なとこないか?」

「ないわねえん……」


「じゃあ本題だ、この猫ついて来ちまった」

ユーリはベッドでベティとともに、眠っていた黒猫を指差した。

「お前を抱き上げたらついて来た。
心配そうににゃーにゃーうるせぇから、ベッドに放り込んだんだけど」



「あらん、チビユーリ…きちゃったの?とりあえず、お風呂であったまろっか」


「風呂ぉ?!チビって……おまえ、そいつ飼う気か?」

「しばらくはここで世話して、ゆくゆくは肩に乗っけて旅したいわねえん」

「むちゃくちゃ言いだしやがったな……」


「あー雨やんでる」

「やんだらお前が起きたの」

「ユーリ、ありがとう!」

「なにがだよ」

「雨の中から救ってくれて」




▽ ユーリ  side ▽

あいつはなんにも言わない。
けど、今日は雨だ。
俺に会いにくるつもりがあるなら、きっといつもの近道を通るだろう。

とりあえず、滅多に持たない傘を女将さんに借りて、心当たりのある道順を辿りはじめた。

 いくつか狭い通りをぬけていくと、うずくまるように膝を抱える人影をみつけた。
やっぱり、そこにいたのはベティだ。

小さくうずくまって、雨をやり過ごすために、身体を温めているのだろうか。

強くて弱い、俺の女。




-------





ベティはその後、限界がきたのか突然倒れてしまって、俺は横抱きに彼女を抱えた。
そこにすとーんと、何の気なしに乗ってきたのは、さっきの黒猫だった。

俺に、挑戦的な目をしたのは間違いない。
なんだよ、猫が俺をライバル視すんのかよ。


その後、俺の部屋で目を覚ましたベティは、残念ながらチビをシャワーへ連れて行った。自分も入るらしい。

邪魔してやりたいけど、ここは黙って待つ事にする。





▽ outside ▽


暖かい風が頬を撫でるのと同時に、柔らかい温もりを肌に感じた。
雨上がりの午後の空気が心地いい。

うっすらとユーリが目を開けると、青空が窓の外に覗いていた。
ベティを待つ間に、眠ってしまっていたようだ。



隣にはベティが寄り添うように眠っていて、その腕の中にはチビがいた。
当たり前のように特等席を占領する猫にまで嫉妬するほど、自分は独占欲が強かっただろうか、とユーリは密かに頭を抱えた。



「うにゃ……」

突然前触れも無くチビが目を開けると、ぐーっと背中を伸ばし、とん、っと軽々とベッドから降りた。
ユーリを一瞥して、今度は窓枠に軽く飛び乗った。

「んだよ、雨がやんだら出てくのか?ベティが寂しがるぞ」

「にゃっ」

チビは「じゃあな」とでも言うように返事をして、そのまま窓を飛び降りた。

にしても、ノラ猫の割にはよく喋る猫だったな、とユーリがぼんやり考えていると、今度は背後からそっと帯を掴まれた。

「ユーリ……起きたの?」

寝起きのベティは、甘ったるいほどの声でそう聞いてきた。
もちろん、いつも寝起きはこんな感じだ。


「おう、もう夕方んなってくる。無駄に寝すぎたな」

ガシガシと頭を掻いて、ユーリは窓の外を見た。

「あれ…?チビは…?」

ベティはキョロキョロと部屋を見回すが、肝心の黒い姿がない。


「あいつなら、さっき起きて出てったよ。じゃあな、だってよ」

「そう……行っちゃったのねん…」

彼女はがっくりと首をもたげてからため息をついた。
どうやら本当に肩に乗せて、旅をしたかったらしい。
そのことにも、ユーリは密かにため息をついた。

「なんだよ、さみしいのか?」

「そうね…ちょっとだけ……」

しゅーんと落ち込む彼女を、ユーリはそっと抱き寄せた。
ふわりと髪からいい香りが漂って、彼の鼻腔をくすぐる。

「俺がいるだろ?」

少し、その言い方はヤキモチを妬いているみたいだったかもしれない。
けれどベティは嬉しそうに胸元に顔をうずめてきた。

そんな彼女の頬に手を添えて、ユーリはそっとキスをした。
絹のような髪を撫でながら、優しく優しく、唇を重ねる。

リップ音を二人の間に響かせて、唇を食むだけの長いキス。

その唇を離してベティの顔をみれば、とろんとした目でこちらを誘うように見つめくる。

そのままベッドに押し倒した所で、
「窓閉めないと……」
と彼女が言った。

やや間があって、ユーリは扉にだけ鍵をかけて、ベッドへ戻る。

「窓……」

不満そうに、それと同時に困ったように言ったベティ。

「閉めても開けてもかわんねーよ。ここ壁が薄いからな」

ユーリは意地悪に笑って、ベティのスリットからするりと手を入れ、足を撫でた。

「声、我慢しろよ」

耳元で低く囁かれた言葉に、彼女は一瞬で身体が痺れた。
愛される時に囁かれるユーリの声は、簡単に言えばエロくて、けどそれでは言い表せない色香を持っている。
同い年なのに、もっと大人の色香。


ユーリは、今度は首筋をベロリと舐めた。
ぬるっとした舌が首筋を這っていく快感に、思わずベティは声をあげていた。

「ダメだっての…口塞いどくか?」

ユーリはそう言って唇を重ねた。
今度はすぐに舌がねじ込まれてきて、絡みつくように熱い唾液がすぐに中で混じった。

彼はざわざわとしたフェザータッチで、ベティの身体を撫で回し、焦らしながら服を脱がせる。
昼下がりに露わになった、彼女の豊満な胸がユーリの心を背徳感で埋めた。

「はぁ…ん…」

ベティの吐息が漏れる。

ユーリが、胸の膨らみを撫ではじめたからだ。

先端をこするように、何度もぐるぐるといったりきったりしながら、次第に撫でていた手のひらが胸を掴んで、こねくり回したかと思えば、ばらばらとランダムに揉んだりと、刺激を一定にはしてくれない。

「んっ…ふっ…」

ユーリはそれでも唇を離さない。
ベティは時折息は漏らすが、声は出ていないようだ。


ユーリの唇は、ベティの唇を離れ、鎖骨を舐めた。
そしてつぅっと辿った先、胸の先端を避け、焦らすようにその周りを舐め始める。

「…はあっ…ふっ…ふっ……」

口を自身で押さえながら、ベティはこれからくる快感に、気持ちが高まっていくのが自分でもよくわかった。
すでに自分のアソコが湿っている事も、焦らしてくるユーリの行為や、ざわざわと腰や腕に触れていく指先も、それがどんどん気持ちを膨らませる。

ユーリは執拗に胸を舐め、突然ペロリとその先端に触れた。

「ひゃぁっ…!」

ビクんっと身体を跳ねさせたベティは、慌てて口を塞ぐ。

「相変わらず感じやすいよな…我慢してろよ?窓、壊れてて閉まんねえから」

「い、いじわる!!」

そんな言葉は無視して、ユーリはかぶりつくようにベティの胸を弄んだ。
じゅる、ちゅぱっ、と時折ワザと音を立てながら。

「…っ…ぁ……んふぅ……」

殺してもすでに、甘い声が漏れはじめているベティ。
下はさぞ濡れている事だろう、とユーリは彼女の足を持ち上げた。
まだスカートも下着も付けていたが。

「…や…こんな明るいとこで…」

「今更じゃねえかよ」

ユーリはベティの下着の紐を解き、するりと取り去った。
ぱさっとその頼りない布切れが床に落ちて、両側に深いスリットが入ったスカートなど、なんの障害もない、と彼は笑う。

そろそろこの服装もやめて欲しいが、こういう行為に及ぶ場合、素晴らしく機能的で、なおかつ視覚的にもいい。
スリット、というのはそこから覗く生足が色香になる。
女性らしい細い腰、見るのをためらうほどの谷間、すらりと長い腕。

なんにせよ、男を誘う服装なのだ。
そろそろ辞めてもらいたい。

スカートをめくってじいっとベティのアソコを見ると、恥ずかしそうに足を閉じてくる。

「や、やめて!明るいとこで見ないで!」

「ほら、ヒクヒクしてんぞ、舐めてくれってな」

「恥ずかしいからっ!」

ベティは耳まで赤くして、顔を隠した。

ユーリはお構いなしに、足を開かせその先へと舌を這わせた。

「あっ!!」

彼はひどくねっとりと舐めた。
そしてずるずるとクリトリスを吸い上げる。

「ぁっ……!」

耐えきれず小さな悲鳴を上げる、ベティ。
ユーリは至極楽しそうに指を滑り込ませた。
ぬるり、とナカから愛液が溢れてきて、彼の指を濡らす。

手前の方を刺激してやろうと、一本だけ奥まで滑り込ませた所で、再びベティが鳴いた。

構わずユーリは、中からクリトリスを押すように指を動かし、同時に外から唇全体で優しく吸い上げた。

「…っああ!!」

舐めて、吸って、を繰り返し、指を動かすスピードを上げた。

「……やだっ…イクっっ…」

ベティはベッドのヘッドパイプを、無意識にぎゅーっと掴んでいた。

「あっ!あっ!…吸って!もっとぉ…!」

じゅるじゅるじゅるっ
ユーリは音を立てて吸い付いた。

「あっあぁぁぁっ!!……はぁっ…ん…」

荒く息をしながら、ベティはびくびくと腰を震わせた。

「声、丸聞こえだぜ、きっと」

ユーリは休む暇も与えず、そのまま自分をナカへと押し込んだ。

「ひゃぁんっっ……!」

指とは質量が比べ物にならないほど、太くて熱いもの。
それを奥まで突き立てられて、ベティはぎゅっとユーリに抱きついた。


「幸せ」


ただ一言、ベティはそうつぶやいた。
けれどその一言がユーリにはとても嬉しかった。

彼には両親がいない。
みたこともない。
けれど下町は暖かくて、皆が親代わりだった。
それでも、親のいない寂しさを感じたことがなかったかと言えば、それは嘘だ。

いつだってどこか空虚で、満たされない部分があった。
「自分は1人なんじゃないか」と、どこかそんな気持ちが消えなかった。


でも今は違う。


「幸せだ」


ユーリもぽつりと呟いた。







-あとがき-

那菜さま!お久しぶりです!
那菜さまを忘れるわけがありません!笑
リクエストありがとうございます(^-^)/
おまたせいたしました!ユーリとベティの甘々話でございます〜

時間はEDの後で、離れて暮らす2人が久しぶりに会った日のお話です。

いつもお越し下さりありがとうございます。
二年目の○パティスリー下町○もよろしくお願いいたします!

リクエスト、本当にありがとうございました!

那菜さまに捧ぐ・2014年3月7日



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