暗緑の灯火
そして
「はいよ」
ラナは忌まわしくさえ思える記憶を振り払って、パティと宣言した彼女に対して頷いた。
「ウチはどうしようもない事で仲間を失った。だからユーリたちがどれだけこれから悲しむか、考えただけで苦しくなる。世界を救うためにラナの体を使う事もウチは反対じゃ。もちろんみなも同じ」
彼女のくりくりとした瞳は、瞬きしてもラナから視線をそらさない。
先ほどまでに話をした四人とは、抱く感情が違うように思えてならなかった。
その違和感がなんなのか、ラナにはわからない。
「ラナにはどうするのか選ぶことができるのじゃ、だからそれをウチが止めるのは、おかしいとも思っておるのじゃ……」
「そうか。なら……」
認めてくれ、と眉を下げたラナに、パティは顔に似合わぬ大人びた真剣な眼差しで見つめ返し、口を開いた。
「アムリタならばあるいは、その体を何とかしてやれるのではないかとも考えておる」
「……アムリタか。けど…」
「嫌かの?」
「嫌というか…クライヴから聞いた話じゃ、あれは傷が治るわけではなく、肉体の時間を逆行させるものだと言っていた。治癒術とも違う、単なる若返りの薬だと。結果として傷が治り、病が治る。そして時間の逆行は体内のエアルに干渉して行われると」
「うーむ。ラナに使うと勝手が違うということかの?」
「そう、そしてアムリタはここにはない」
「……そう、じゃな。いや、試すような事を言ってスマンなのじゃ」
パティはパッと視線を手元に落とし微笑んだ。
なぜかそうされた事に安堵感を覚えたラナは、先ほど感じた違和感の正体が気になった。
言いたかった事はそれだけなのだろうか、と。
「試されてたのか?今」
「ラナは生きたいと思っておるのじゃ。まだ先をみたいと…ウチはそれを叶えてやりたい」
「うん、そうだな。でもそこはもう受け入れた。だからこそただ死ぬのを待つのはいやなんだ」
パティはまた視線をあげ、こちらを見る。
そこにはやはり、先ほどと同じなにか意志を持った瞳。
別れの挨拶には似つかわしくない、何か。
「……死なないとしたら、その考えを改めてくれるかの?」
彼女はそう言いながらもじっとこちらを見つめ、目を逸らさない。
本気で言っていることは、疑い様がなかった。アムリタで結果が変わると確信している。
その根拠は何か、またアムリタにアテでもあるのか、ラナにはその真意を図りかねていた。
「アムリタの仕組みは知ってるのじゃ。知っていてサイファーもウチに使った。リタ姐には言っておらんのじゃが〜鯨の腹時計くらい正確にラナが助かると思っておるのじゃあ」
「………ちょっと喩えがわからないな」
ラナはうーん?とこめかみを抑え、苦笑いを返した。
今更何を、と。
「そうか〜?ぜったい、ぴったり、まちがいなく!なのじゃ」
パティは先ほどとはがらりと様子を変え、らしい雰囲気でにっこりと笑う。
いたずらっぽく見えるその笑顔にも、冗談はみじんも含まれていない。
「ちょっとまてパティ、その話詳しく聞かせろ」
割り込むようにしてパティの肩をつかんだ黒い影、それは紛れもなくユーリだった。
彼は珍しく焦りを隠さないまま、余裕なさげに現れた。
そこに少しの希望を見せながら。
「む、ユーリ。乙女の内緒話を盗み聞きとは、いくら夫でも感心せんぞ〜」
パティはおどけていつもの調子だが、対するユーリはそうはいかない。
「その薬があれば、賢者の石にやられた傷が治るんだろ!?違うのか!?」
「……う〜む、治るわけではいんじゃがぁ〜それに、ラナがうちのようなピチピチになってしまうかもしれん」
「アムリタは身体の時を巻き戻す薬だ。結果的に病や傷がなかった事になるが、パティがそうなったように、戻りすぎることも当然ありえる」
「けど、それを使えば助かるんだろ!?」
「助からない」
ラナはぴしゃり、と冷たく言い切った。
自分の身体にはエアルがない。アムリタをのんだところで、なにも起こりはしない。
ユーリはなんなんだよ、と頭を抱える。
無理もない。いきなり現れた救世主に右往左往しているのだから。
「だから助かるんじゃぁ〜」
パティは怒ったように声を荒げる。
「いいからウチの話をちゃんと聞くのじゃ。ラナはエアルがないと言ったの、けど魔核ネットワーク構築のときに体の中をエアルが通るのじゃろ?その時使えばいいのじゃ」
「いやいや、ダメだろ。そのエアルは私のものじゃないし、通過するだけだ。それに大事な作業の途中でんなもん使って失敗したらどうする」
ラナはありえない、と首を振る。
「失敗はしないのじゃ!」
「なんで言い切る?」
ため息混じりに聞き返すラナに、パティはふんと鼻を吹いた。
「カンじゃ!!」
「カンでもなんでもいいぜ、それに俺は乗る。ラナが助かるかもしんねえんだ。精霊化くらい失敗してもかまやしねえよ」
だめだラチがあかない、とラナが2人を制する言葉を言おうとしたところで、怒号が飛んだ。
「こんのぉぉお!!バカトリオ!!」
その言葉を最後まで聞く前に、三人の脳天にとてつもない打撃が落ちてくる。
手加減のないその攻撃に、三人の眼前に星が散った。
「いたいのじゃぁ〜いきなりなにをするのじゃ、リタ姐!」
大きな海賊帽をとって頭をおさえるパティ。
気付けば三人の前で、リタが肩を怒らせ仁王立ちしていた。
「何をコソコソ勝手に話してんのよ!そういうことはあたしがいなきゃ進まないでしょ!シロウトが集まって知恵絞っても、カス!も出てこないわよ!!」
足を踏み鳴らし彼女は怒る。
宵の闇の中、下まぶたには涙がたまっていた。
どうしてこんなにも懸命になってくれるのだろう、ラナにはそんな逃避のような思考がよぎった。
「どうやら、そういう事みたいだけれど?」
ふふ、とリタの背後からジュディスが笑う。
いつの間にかフレン、カロル、エステル、レイヴン、そしてラピードも顔を出した。
「みっともなく、あがいてやろうじゃないの。このあたしが!」
リタはドンッと胸を叩いた。
暗い雰囲気を一掃するように。
何もかも突然の事で、ラナの頭はクラクラして、強いめまいでもするかのように地面がぐるぐる回っていた。
ああ、なんだよそれ
こっちは覚悟を決めたのに
もう一縷の希望も魅せないでくれ
頼むから……
逃げたい衝動。
そして祈るように目を伏せ、都合よく彼女の意識は暗転した。
「ラナ」
凛とした声がする。
久しぶりに風の心地よい温度を感じる。
閉じたまぶた越しに、明るい光が見える。
「おぬしは、まだこの世界に居たいか?」
澄んだ声。厳かな声。
そこに居るだけで、そこに在るだけで、とてつもない安堵と、同時に畏怖を感じるその存在。
「おぬしは、人で在りたいか?」
ラナは問いかけに応えようとまぶたを開く。
真っ青な空。
風が草を撫でる音。
何度もきた場所に、2人で居た。
ゆっくりと体を起こすと、自分と同じ姿がいつもと変わらぬ姿で立っている。
そうしてこの2人きりの世界で、その風はいつものように髪を梳いていくが、イザナミの表情からは、感情を読む事はできない。
ラナは立ち上がると、軽快な体に驚いた。
ここではまだ、自分は自分でいられるらしい。
「イザナミ…生きられるとしたら、生きてていいのか?」
そんな言葉を聞いても、彼女は眉一つ動かさない。
「なにゆえ、わらわに問う」
「なんでってそりゃ…約束したからだよ、あんたと」
「……ならばその役を果たせ」
「…ダメってことなんだな?」
念を押すような問いかけに、イザナミは返事をしなかったが、目を逸らす事もしなかった。
それは肯定だと取れる。
「黙るなよ…」
そう言って困り顔を見せたラナ。
ざぁっと風が抜けた。
イザナミは口も開かず、まつげ一本たりとも動かない。
ラナは頭をかいて、目の前の神様と話をしようと口を開く。
「…こうやって出てきたってことは、パティの話に乗っかれば生きられるってことなんだろ?」
「それを聞いてなんとする?おぬしは生きる意志があるのじゃな?」
イザナミの声は冷たかった。
「……死なないで済むならそりゃ…「おぬしもわらわを裏切るのじゃな」
ラナの言葉を遮って、彼女は語気を荒げた。
それと同時にぶるりと肩が震える。
「わらわはおぬしに言うたはずじゃ。時がないと」
「わかってるよ。裏切るつもりはない。けど、後始末つけるまでは万全でいられるならその方がいいだろ」
怒らせてはいけないような気がした。
だからなるべく、いつも通りのつもりでラナは答えた。
なんでもない、とそう思わせるかのように。
けれど対するイザナミは、冷静さをすでに失ってしまっているようだった。
「…おぬしがそのつもりでも、おぬしの仲間が認めぬ。あれらはしぶとくおぬしをテルカ・リュミレースに押し込める。死に花を咲かせるための舞台を整えてやったのに、何故それを拒むのじゃ」
冷たい言い方だった。
今まで話してきた彼女は別人かのように、言葉が刺さる。
死に花、ラナには無視できない悲しい言葉だった。
「…ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたけど」
「おぬしにとって最も理想的な場になるよう、時を合わせてやったのじゃ。わらわの温情を無下にするつもりかの?」
時を合わせた?ラナは暗い感情が己の中で湧き上がったのを感じた。
イザナミは、体の死を早めたのか?
目の前の神をじっと見つめてみる。
自分と同じ顔。けれど、発する言葉に怒りが感じられたように、その瞳もフツフツと静かに心火をたたえているようだ。
「応えよラナ」
イザナミが言葉を発した瞬間、空気が震えた。
心地よい風は消え去り、空が赤く染まる。
「ラナ」
威圧的に名を呼ばれ、ラナは思わず固まった。
いままで何を相手にしてきたのだろう。
何をみていたのだろう。
神とは、何か。なぜ人と同じように捉えていたのだろうか。
ラナは荒ぶる神を目の前にして、いままで味わったことのない畏れを感じていた。
足がすくむ、本能が言う、逆らってはいけない。
怒らせてはいけない者に憤怒の火を灯してしまったのだと。
萎びるように足元の青草は枯れ去り、真っ黒な地面が顔を出した。
燃えるような赤い空に、喉が焼け付くような熱い空気。
イザナミの足元からは黒い炎がぬらぬらと立ち上り、それはラナとイザナミをぐるりと囲んで閉じ込めた。
「約束は果たす」
じっとりと嫌な汗がこめかみを伝う。
気分が悪い。
「嘘じゃ、その場しのぎの言葉など要らぬ。誓え!ラナ!」
イザナミの怒鳴り声。
声だけではないその威圧は、ラナの頭の中でうるさいほどに響いていた。
なぜこれほど彼女は忿怒しているのだろう。
約束をたがえるかもしれないから?
しかしラナはそのつもりはない。
星喰みだけはなんとしても、とイザナミに伝えていた。
むしろそれを反故にしたのは、彼女の方とも言える。
「……イザナミ。なんでだ?なんでそんなに……なにを恐れてる?」
急にラナの中を支配した疑問。
それはどうしても聞いておかなくてはならない事に思えて、彼女はそれを口にした。
そしてそれを聞き届けたイザナミは、蔑んだ嫌味な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「恐れ…?わらわが?馬鹿にしてくれるな、ラナよ」
「もうあんたと行くと決めた時、あんたと私は一つになった。あんたも私を自分だと言う。私たちは同じ者だと。それなのになんで体の死を早めてまで急ぐ?」
ラナは侮蔑を隠さないイザナミのおかげで、かえって冷静になれた。
だがそれとは逆に、余裕すら感じさせる長々とした言葉に、イザナミはあからさまに苛立ちを堪えている様子だ。
「時がすでに尽きはじめたと、何度も言うておろう」
これほどまでに負の感情をあらわにする彼女をみるのは、初めてだ。
あるいはこれまでの対話の中であったかもしれないが、賢者の石がかき消した記憶は霞の向こう。
「数日も待てないほどにか?違うだろ?そんなわけない。なにを隠してる」
「………人として生きたおぬしに、わらわのことなど理解できぬ!」
イザナミは語気を荒げ、黒い炎を滾らせラナを睨んだ。
はじめて向けられた、本物の敵意の眼差し。
ラナは戸惑った。
なぜ?その視線はとてつもない憎しみが込められている。
どうしてイザナミはすべてを話さない?
「体を欲しているのに、なんでこの体を死なせる?」
「人の体など欲するものか……おぬしはわらわの大切なものを持っておる」
初耳だけど、とぽつりと呟いたラナ。
イザナミは両手を空をつかむように持ち上げた。
「力を引き寄せる術…世界から力を手繰り己のものとする術…それをおぬしが持っておる」
恍惚。彼女の見せた一瞬の歪み。まさにそれだった。
恋しいものを想うように、両手がさまよい、再び地面を向いた。
「エアルを集める力のことか?」
「……この星ではエアル、そうじゃそれはわらわの力の証であり、わらわが創生の神としての証たる大切な術……おぬしがそれをもっておる…体などいらぬ。術を縛り付けるその人の身があるかぎり、わらわに力は還らぬ」
「……なるほど納得。なら最初からそう言ってくれよ」
ラナはふぅと息を吐く。
窒息しそうな熱で、呼吸までもが苦しい。
「ああ…うらめしい……!!わらわの周りをうろつく蛆虫ども……!なぜわらわの邪魔をする……!!」
イザナミが怒鳴り、頭をかきむしり、髪を振り乱した。
癇癪を起こしたかのようなその行動にラナは、一体なにを…と身構えた。
イザナミの強い敵意と殺気に、無意識のうち腰に手をやったが、それはなにも掴めなかった。いまここに剣はない。
「ラナ!今剣をとろうとしたであろう!なぜじゃ!なぜわらわを拒絶する!そなたに力を与え!賢者の石からも逃がしてやったというのに!!」
「…まてって……あんたが殺気撒き散らすから、クセで体が反応したんだよ」
ラナは慌てて手を引っ込めた。だが神は別の何かに対しても怒りを撒き散らしているようだ。
イザナミは言葉とも言えぬ怒鳴り声をあげ、黒い炎をごうごうと強める。
「ゆるさぬ。この星ごと焼き尽くし、汚らわしいその体も!蛆虫どもも!全て!全て!全てぇえ!全て!全て全て全て全て全て全てぇ!全て!全て!全て!全て!全て!全て!全て!全て!全てぇえええ!!」
叫び声。かすれるほどの怒号の後、彼女はだらりと俯いた。
「………無にぃ………してやる……」
静かに、そして猟奇的な声で、楽しげに言った。
イザナミは長い髪の隙間から、ちらりと片目でこちらを覗き、残酷な笑みを浮かべていた。
嫌な笑みだった。
そしてイザナミがすぅーっと右手をあげる。
しかしその腕が上がり切る前に、2人だけのはずのこの世界に何かが割り込んだような違和感が走った。
ラナがそれに気がつくよりも速く、氷の柱がイザナミめがけて落ちてきた。
耳を劈く轟音のあと、目も開けないほどの突風が吹き抜ける。
風の隙間に目を凝らせば、それをラナはよく知っていた。
何度も見ていた。
何度もその氷柱に助けられた。
まさかそんなはずはない、けれど……
「ラナ!無事か!?」
黒い炎は突風にかき消され、目の前に黒衣の青年が現れた。彼はイザナミからラナを庇うように間に入り、その背に彼女を隠した。
「ユーリどうしてここに…?」
ラナは夢なのだろうかと、目を見開く。
確かにそこにはユーリが居る。
「ったくあんた誰にでも騙されすぎなのよ!」
リタはラナの隣に並び、本を片手に戦闘体制だ。
「ラナ、うちが来たからにはもう安心じゃ!極悪詐欺師はコテンパンなのじゃ!」
「ちょっと怖いけど、みんなでやっつけよう!」
パティとカロルがユーリに並ぶ。
「おっさん足が震えるぜえ〜」
「だいじょうぶです、ラナ。みんながいます」
レイヴンとエステルがラナに並んだ。
「やりがいあるわね、神様と戦うなんて」
「1人でよく頑張ったね、ラナ。さあ、今からは僕たちも一緒だ」
ジュディスとフレンも、そこに加わる。
「みんなどうやってここに…」
ラナは言い表せないほど大きな感動を味わっていた。
未だ勝つて味わった事のない、安堵と高揚と共に。
胸の内から湧き上がる不思議なあたたかさ。
「マクスウェルが連れて来てくれたんです」
エステリーゼが微笑む。
マクスウェル、精霊が協力した、それはつまり。
「ってことはあの氷柱は……」
「うん!ここにいるよ!」
宙にひらりと現れたのはセルシウス。
彼は無邪気な笑顔でこちらを見ると、そのままラナの隣に降り立った。
「……おいおい、精霊がなんで私とイザナミの喧嘩に巻き込まれてくれたんだ?」
泣いてしまいたい、ラナはそう思っていた。
1人ではない事がこんなにも心を強くしてくれるのだと、初めて本当の意味でわかったからかもしれない。
「もうこれはあんたとイザナミだけの問題じゃない!アイツ!根こそぎマナもエアルもかっさらって自分の星にかえるつもりなのよ!!」
リタがそう言うと、クライヴは大きく頷いた。
「神だかなんだかしらないけど、テルカ・リュミレースに害をなすなら、精霊だって黙っちゃいられないよ!」
「く…くっ…くくくく…はは…あははは!」
すべての空気を震わすような笑い声が響きわたり、クライヴの氷柱が黒炎に呑まれた。
そこに立っていたイザナミは、もうラナと同じ姿ではなかった。
焼けただれたような肌に目は窪み、身体中から蛆がわき出し、髪は黒炎をまとい逆立ち、下半身はすでに人の形などなしていない。
目にした事のない禍々しさに、カロルは肌が泡立ち思わず後ずさった。
魔物とも言えぬその姿に、皆も身構え、武器を握る手に力がこもる。
「そうか、そうであるか、蛆虫どもよ……そなたらの星などどうでもよい。わらわは還らねばならぬのじゃ。わらわが神で在る星にのう」
「勝手言ってくれるね。それなら黙ってかえれよ、ばーさん」
セルシウスが言うと、イザナミはくつくつと笑った。
「精霊…であったかの?そなたらこの星の守護者だとおごっておるのか?わらわには遠く及ばぬ物の分際で」
きっとイザナミの表情は、セルシウスを心底馬鹿にしていただろう。
だが禍々しいその姿では、表情が変わったことすらわからない。
最早イザナミには、神の威厳も威風もありはしなかった。この世の憎しみを全て飲み込んだかのように、黒々とした何かが渦を巻いている。
話し合いなどしない、倒さなければ。
全員がそう思った。
そして彼らは身構える。
不安と恐怖を踏み台にして、かつて神であった魔物を、ここで食い止めなければならない。
そうしなければ、滅ぶのはこの星の全てだと。
理解していた。