満月と新月
キュモールの目的
昇降機の前には、キュモールとイエガーが居た。
「あ!イエ……」
思わず声をあげたベティを、ユーリが口を塞いでひっぱる。
皆でさっと魔導器の影に隠れた。
「おお、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
イエガーは恭しく両手をあげる。
「ふん、アレクセイの命令になんてどうでもいいよ。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
キュモールはバカにしたように言った。
もっとも、普段から人をバカにした態度なのだが。
「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイですヨ〜」
「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
「尊敬はしていマース。バット、海凶の爪の仕事は別デスヨ」
「ふふっ……僕はそんなキミのそういうところが好きさ。でも心配ない。僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよね、そのくせ、友好協定だって?笑っちゃうよ!」
キュモールはふんっと鼻を鳴らした。
「イエー!オフコース!」
「ユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ!君たちから買った武器で!僕がユニオンなんかにつまずくはずがないんだ…」
「フフフ、イエースイエース…」
彼らは昇降機で降りて行った。
「あのトロロヘアー、こっちを見て笑ったわよ」
リタが言った。
かなりイラついているようだ。
「そのトロロがイエガー、海凶の爪のボスよん」
ベティが言った。
「えっあの人が?」
カロルはなんとも言えない顔をした。
「本当にくだらない事しか考えないな、あのバカども」
「イエガーもキュモールなんかおだてて、なに考えてんだかぁ」
ベティはため息をついた。
労働者キャンプでは、住民たちが騎士により、厳しい労働を強いられているようで、倒れている人々も見かけた。
上に戻るように促しながら、奥へ奥へと、キュモールを追いかける。
「サボってないで働け!この下民が!」
キュモールの怒鳴り声が聞こえてくる。
「さっきの人たちね」
ジュディスが顔を顰める。
「ほら!お金ならいくらでもあげる、働け!働けよ!」
キュモールの横暴な物言いに、ベティはイライラした。
近くにはイエガーも控えている。
ユーリが近くの石をつかみ、キュモールに投げつけた。
「いたっ!だっ誰!」
キュモールの額からはわずかに血が垂れている。
「ユーリ・ローウェル!姫様まで!」
キュモールが後ずさりした。
「あなたのような人に、騎士を名乗る資格はありません!騙して連れてきた人々をすぐに解放するのです!」
エステルが叫ぶ。
「ふんっ世間知らずの姫様には消えてもらった方が楽かもね!グタグタと理想ばっかり語って胸糞悪いんだよ!」
「騎士団長になろうなんて、あなたの妄想のが気持ちが悪くて吐き気がするわぁ」
ベティがバカにした様に言った。
「なっ!失礼な奴だね!イエガー!!やっちゃいなよ!」
「イエス、マイロード」
イエガーが構えると、赤眼の部下もわらわらと集まってきた。
「ユー達に恨みはありませんが、これもビジネスでーす」
「みんな!やるぞ!」
ユーリは剣をしっかりと握り直した。
「イエガーあんた、もちょっと仕事は選びなさいよぉ!」
ベティが斬りかかる。
「ノンノン、選んでマース」
イエガーも応戦する。
「だったらなお、最悪よん!」
ジュディス達も赤眼を倒していく。
「キュモール様!フレン隊です!」
「フレンが……」
エステルが嬉しそうに呟いた。
「さっさと追い返しなさい!」
「ダメです!下を調べさせろと、押し切られそうです!」
「ふんっ下町育ちの恥知らずめ!」
キュモールはイエガーに目配せした。
「ゴーシュ、ドロワット」
イエガーが言う。
「はい、イエガー様」
「お呼びですかぁ〜」
ミニスカートの2人の女の子が、どこからともなく現れた。
「2人とも隠れるのますますうまくなったわねん」
ベティはにやりと笑った。
「ベティさん!ありがとうございます!」
「褒められると照れちゃいます〜」
ベティの言葉にふにゃっと2人が笑った。
「でも今は敵同士、「ごめんなさいっ」」
2人はそう言って煙幕を張った。
「うわぁ!これなに?!」
カロルが慌てた。
「逃げろや、逃げろ〜!すたこら逃げろ〜!」
ドロワットの楽し気な声が響く。
「今度会ったら、ただじゃおかないからね!」
キュモールが言った。
「お決まりの捨てゼリフね」
ジュディスがクスリと笑う。
「ユーリか……!?」
フレン隊が昇降機の方から走ってきて、ユーリ達の姿を捉える。
「おっいいところに来た!」
ユーリがパチンと指を鳴らした。
「ここはフレンに任せて追いかけるわよん!」
ベティは走り出した。
皆も後に続く。
「ベティ!」
フレンが叫んだ。
「エステリーゼ様!やはり、あなたにこんな危険な旅は………」
フレンの声は、ユーリ達に届くことはなかった。