満月と新月
昇降機の下
結界魔導器の広場で、魔導器を見るユーリ達。
特に異変もなく、普通に動いている。
「周囲の異変もおさまってますね」
「うん。あの後は暴走とかしてないみたいだ」
カロルも魔導器を見上げる。
「問題は住民が行方不明になってることねん」
ベティが皆を見る。
「昨日、色々調べたんだけど、執政官代行のキュモールが、街が完成すれば貴族として迎える、なんて言ってるらしいわよぉ」
ベティは大げさに肩を竦めた。
「キュモール?あの気持ち悪い騎士の人だよね?」
カロルが呟く。
「でも?それ、ちょっとおかしいです。貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得ることの出来た者に与えられるものである、です」
「キュモールがねえ……」
エステルの説明にユーリはうーんと唸る。
「今皇帝はいないし、やっぱりおかしいよ」
カロルが言った。
「おまけに、行方不明になってる人達は、みんな誰にも何も言わず、家族も残して居なくなってるみたいよん」
「あら、ますます怪しいわね」
ベティの言葉にジュディスが言った。
「あの、ユーリ……」
エステルが申し訳なさそうに言う。
「ギルドで引き受けられないかって?」
「報酬は後で一緒に払いますから」
エステルがカロルを見た。
「えと……じゃ、いいよ」
一瞬迷ったようだったが、カロルは頷いた。
「次の仕事は行方不明者救出ね」
ジュディスが笑った。
「ま、キュモールがバカやってんなら、殴って止めねえとな」
ユーリは指を鳴らす。
「はい。騎士団は民衆を守るためにいるんですから」
「こ、行動は慎重にね。騎士団に睨まれたら、ボクらみたいな小さなギルド、潰されちゃうよ」
カロルは皆をなだめるように言う。
「了解」
ユーリが言った。
「みんなほっとけない病ねん」
ベティがニコリと笑う。
「んじゃ、さくっと探ってみるか」
「あそこの先なんてとても怪しいわよ」
ジュディスが昇降機を見る。
「ああ。立ち入り禁止ってのがいかにもだな」
ユーリも同意した。
昇降機の前には見張りの騎士が立っているようだ。
「なんとか入れないでしょうか……」
「し、慎重に、を忘れないでよ」
カロルがわたわたとしていたが、無視してユーリは昇降機の方に歩き出した。
「ちょっと、下に行きたいんだけど」
「ダメだダメだ。労働者キャンプは危険だからな」
ユーリが言うが、当然のごとく、騎士に断られた。
「ふーん……」
「よかった……強行突破しちゃうかと思った……」
何もせずに戻ってきたユーリに胸を撫で下ろし、カロルが言った。
「慎重に、が首領の命令だったからな」
ユーリはニヤリと笑う。
「でも、どうやって通ります?」
「殴って気絶させればいいんじゃなぁい?」
ベティはいたって真剣だ。
「そうね、強行突破が単純で効果が高いと思うけれど」
ジュディスも同意する。
「それは禁止だよ!とにかく!なんとかして見張りを連れ出せればいいんだよ」
カロルが言う。
「どうやってです?」
「……色仕掛け、とか?」
カロルが言ったので、ユーリは嬉しそうに同意した。
「じゃあ……「ユーリがやればいいじゃん」
ユーリの言葉を遮り、ベティがにっこり笑う。
「バカ言えよ、でけえし声も低いじゃねえか。なんで女3人も居て俺なんだよ」
ユーリはジト目でベティを見る。
「大丈夫よ、ユーリなら」
ジュディスは楽しそうだ。
「私も見て見たいです…ユーリの色仕掛け」
エステルがうっとりして言う。
「だっだめだよ!ユーリはさっきあの騎士に通りたいって言ってるから、怪しいよ!」
カロルが進んで行きそうだった話を止めた。
「だよな、って事でベティ、ヨロシク。得意分野だろ?」
ユーリはニヤリと笑う。
「えー嫌よぉ、こういうのは当事者より見物のが楽しいんだからぁ」
ベティは唇を尖らせた。
「………じゃぁカロルよろしく」
ユーリはカロルに言った。
「な、何言ってんだよユーリ!なんでボクなんだよ!」
カロルは信じられないと、後ずさりする。
「じゃあ、お願いね。カロル」
ジュディスがにっこり笑った。
「あははは、ジュディスでも、そんな冗談言うんだね」
カロルは苦笑いをした。
「あら…冗談は苦手だわ、私」
「え……?」
ジュディスの言葉にカロルは固まる。
「そうと決まれば洋服を買いにいきましょん」
ベティは楽しそうに言った。
「自信持って、カロル。女は気合いで服を着るのよ」
ジュディスも楽しそうだ。
「あの、意味が分からないんだけど!」
カロルははぁっとため息をついた。