藍春サンプル | ナノ




藍のスタジオで最近購入したと言うベッドの上に腰掛けながら春歌は藍を待っていた。本日は博士の所にメンテナンスに行くと言う事は聞いており、どの程度時間が掛かるかは分からないが待つ事は嫌いではない。こうして待っている間も藍の事を想うと幸せな気持ちで満たされていくからだ。だが待っている間も時間を有効に使おうと、ベッド脇に置いていた鞄から五線譜を取りだそうとした時に電子音が鳴り響く。春歌の鞄の中からであり、何でも聴いている曲は携帯のメール着信だと言う事が分かる。手に取りメール画面を開くと送信元には「美風藍」の文字が並ぶ。
[件名:ごめん 本文:お願いがあるんだけど、ボクのスタジオにいたら机の上に置いてある茶封筒をラボまで持ってきて]
 本文に書いてある藍の整頓された机を見ると、大きな茶封筒が確かに置かれていた。藍が忘れ物をしたのかと考えると春歌は不思議な気持ちになる。
 藍はロボットだ。人間ならば忘れ物をしても不自然ではないが、藍はいわゆるスーパーコンピュターで出来ており、膨大なデータで出来ている藍は忘れ物などしたくても出来ないのだ。何か欠落していると言う事は藍の身体に何か異常があるのだろうか、その為のメンテナンスなのかなと春歌は一人で勝手に納得しつつ藍にメールを打つ。
[件名:ありましたよ 本文:今からラボに持っていきますね]
 送信完了の画面を確認し、春歌は鞄と封筒を手に持ちスタジオを後にした。
 博士のラボまでは藍のスタジオからそう時間は掛からない。春歌も幾度となく通った場所であり道順は覚えていた。季節は春から夏へ変わり日差しが肌を刺すようで少しだけ痛みを感じる程だ。どこか涼しい所へ二人で出掛けられればいいなと水族館を思い出す。以前出かけた想い出の水族館に行きたいと言ったら一緒に行ってくれるかなと想像をしながら足を進めると、まるで背中に羽が生えたかの様に足取りが軽くなる。そんな事を考えていたら、あっという間にラボに着いてしまった。
 小さな可愛らしい家のインターホンを鳴らすが返事は返ってこないし、誰も扉を開ける気配はない。開けない事を確認すると春歌は扉に手を掛けて扉を開ける。一言だけ「おじゃまします」と告げ家に入っていった。
 藍のメンテナンス中には何が起こるか分からないしロボットだとばれたら大変だし藍のパートナーである君なら勝手に入っていいよ、と博士に事前に言われた事があり、インターホンを鳴らしても出ない時は大事なメンテナンス中だと言う事であり、博士の言葉に甘えて家に入る様にしていたのだ。
 中へ入るとたくさんの扉が目に付き、春歌は困惑を隠せない。一体どの部屋に藍がいるのだろうか。何度か来た事があるラボだったが、毎回藍がいる部屋が異なっていたのだ。もしかしたらきちんと用途に合わせて分けられているのかもしれないが、機械にそこまで詳しくない春歌には全く分からない。小さな声で「美風先輩」と声を上げるが返事は返ってこない。藍はメンテナンス中だしもしかしたら話せる状況じゃないのかもしれないと「博士」と声を上げても、こちらからも返事は返ってこなかった。
 しばらく悩んだが一つ一つ確認していこうと一番近くにあった扉をノックする。返事は返ってこないが確認しようと「失礼します」と一言告げ扉をがちゃりと開けた。


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