明日、花瓶を買いに行こう | ナノ


明日、花瓶を買いに行こう



「どうしろってんだよ」

黒崎蘭丸は果てしなく困っていた。
だが取り残されたテレビ局の楽屋で呟いていても事態は何も変わらない。
手に持つ真紅のバラの花束から噎せ返る様な香りに思わず眉をひそめてしまう。
蘭丸が今の状況に陥ったのは、同僚である寿嶺二が原因である。
ドラマの撮影で使ったと言うバラの花束を偶然別番組の収録で居合わせた蘭丸に押しつけたのだ。
蘭丸も拒否をしたのだが半ば強引に押し付けられ本人は打ち上げがあるからと居なくなってしまった。
元々花を愛でる趣味は無く、自宅に生ける為の花瓶はない。 無駄になってしまうかもしれないが受け取ってしまった以上、無下に捨てる訳にもいかない。
嶺二を後でシメる事を決め、仕方なしに蘭丸は花束を片手に自宅へと帰宅するのであった。










「おかえりなさい」
「…ただいま」

扉を開ければ当たり前の様に迎えてくれる恋人の姿は未だに慣れない。
自分が帰って来ただけなのに零れるのを抑えきれない程の笑顔に胸の奥底を鷲掴みされた様な気持ちと、もう一つの邪な気持ちが出てきてしまう。
蘭丸の瞳を逸らさずにジッと見つめてくる春歌に自分の気持ちを見透かされてる様で自分を瞳を見つめさせないようにどうすれば良いのかと考え、扉で隠れていた花束の存在を思い出す。

「これ、やる」
「え? わぁ…っ」
「貰いもんだけどな」

手に持っていた花束を春歌に押しつける様に渡すと、蘭丸では片手で持てた花束も春歌にとっては両手で持たないといけない程の大きさの花束に元より大きな瞳を更に見開かせている。
何気なく渡した花束だが渡すと妙に気恥ずかしく感じ、春歌の顔をなるべく見ずに部屋へ入ると机の上には最近練習していると言うパセリを乗せたオムライスはトマトケチャップの香りが食欲をそそる。
二人分皿が乗っている事から、春歌もまだ食事を済ませていないようだ。
待っていてくれたのか思いながら荷物とベースケースを壁際に置き席に着こうとしたが、ふと春歌に全く動きがないのを感じる。
振り返ると春歌は玄関前で突っ立っており、先程の花束を渡した状態から動いていない。

「どうしたんだよ、おまえ…っ」
「…っく」

春歌を振り向かせると、春歌は大きな瞳から大粒の涙を流していた。
涙は止まる事なく、春歌の頬を濡らしていく。
まさか泣かれるとは思っていなかった蘭丸はがらにもなく慌ててしまう。

「なっ…んで泣いてんだよ」
「ごめん…なさい。 嬉しくて…すごい、嬉しいです」

泣きながらも両手に抱えた花束に愛おしそうに顔を埋め香りを楽しんでいる様で、涙が花びらに零れ落ち部屋の灯りに照らされ美しく光っている。
こんな花束一つで涙を流す程、喜んでしまうなんてやはり蘭丸にとって女とは分からない生き物だ。
それでも可愛いと思えてしまうのは、のぼせすぎだろうかと思いながらも蘭丸は気付いたら春歌を抱きしめていた。

「そんなので喜ぶのか」
「蘭丸さんから貰えれば落ちている石でも嬉しいです」
「んな事言うと、本当に持ってくるぞ」
「ふふっ…大切にします」
「バーカ、そんなのやらねぇよ」

二人で笑い合いながら、唇を合わせた。
春歌の胸に包まれているバラの噎せ返る程の香りが二人の鼻腔をくすぐる。
普段とは違う甘い甘い花の香りが部屋中を占め、春歌の涙が止まるまで唇を重ね合わせ続けたのだった。






R18作品よりも書いていて恥ずかしい話になった。
蘭丸から花貰ったら嬉しくて泣きそうだよなぁと思って書き始め、ただ蘭丸が花買う様なキャラじゃないかなと思ったので、嶺二出演。
どうでもいいですがタイトルの候補に「君は薔薇より美しい」と言うのがありました。
こんな事、蘭丸が言ったら色々な意味で崩壊しそうだ。


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