choose me 2(レン春) | ナノ





車を走らせている間もレンと春歌の会話はごく普通の物だった。 最近食べたお菓子で美味しい物があったから今度持っていくね、家の近所に野良猫一家が住みついたんだよ、等と言う友達間で行われる様な何て事ない日常の会話だった。
レンの会話に最初春歌は怯えている様に相槌を打っていたが、元々話術が上手い事があるのだろうか、次第にレンの話を楽しむようになっていった。
レンが車を走らせて一時間経つか経たない位だろうか、レンは目的の場所に着いたのか車を止めた。
春歌の目の前に広がる光景、それは鈍色の海だった。 何故レンがここに連れてきたのか意図は掴めず休憩でもするのかと思ったが、レンは「着いたよ」と伝え、ここが終着点なのかと理解しレンがカギを開ける音が聞こえたのを確認し外へと出た。

砂浜と海が見下ろせる位置にあるここは道路脇に設けられた駐車場の様であった。 だが他に止まっている車もいなく、また砂浜・海には人っ子一人見当たらず、風がびゅうびゅうと吹く音だけが聞こえる。
海から吹く風は冷たく春歌の身体を寒気が襲う。 春歌は春物のコートを着用しており生地は薄く、その下にはワンピースとインナーしか着用していない為、春の海から吹く風にはとても耐えられない格好だ。

「さ、寒い…です」
「うん、寒いよね。 …だから」
「…っ。 じ、じじじじじ神宮司さん」
「大人しくオレに包まれていなさい」

背後からレンの声が聞こえたと思ったら、春歌は抵抗する間もなくレンに包まれていた。 レンに包まれていると言うよりは、レンの厚手のコートに包まれている。 その姿はまるで二人羽織をしている様だ。
しかし先程のレンはコートなどを着てはいなかった。 それに春歌が包まれているコートはどう見ても春先に着るようなコートではなく、明らかに暖を取るため、熱を逃がさないように作られている冬物のコートである。
まさかとは思うが、こんな事をする為に海へ連れてきたのでは無いかと、春歌は思わず勘繰ってしまう。

「静かでいいでしょ? 一人になりたい時は、こうして海に来たりするんだ」
「わたしもいますけど?」
「うん。 今日は二人っきりになりたかったから、ここに来たんだ」
「そ、そうですか…」

あっけらかんと答えるレンに春歌は寒さで赤くなった頬が熱を持つのを感じる。 どうして簡単に「二人っきりになりたい」等と恥ずかしい言葉を口に出来るのだろう。 そうでなければあんな事は出来ないか、と先日の熱烈なアプローチをまた思い出し、恥ずかしくなってしまう。

(あぁ、もう自業自得です)

背後から抱き締められているので、自身の顔が見えていないのだけでも良かったと思いながらも、レンの抱擁を受け続ける。
しばらくレンも春歌も話さず、ただ海を見つめていた。 鈍色の海は太陽の光を受けてキラキラと反射して少しだけ綺麗に見える。
このまま海を見つめ続けて、何もなく終われば良いと春歌は思っていた。

「ねぇ、レディ。 君が凄く恥ずかしがりやなのは知ってるから、顔を見ないで言うけど…俺の事どう思ってる?」
「そ、それは…」
「答えて」

春歌の思いとは裏腹に自分に聞いてほしくない事、堂々の一位であるだろう質問に身を竦ませる。
耳元で低音の甘い囁きが春歌の全身を電流が走ったように駆け巡り、身体が自然に震えてしまう。
レンは春歌の身体の異変を寒さのせいか、もしくは自身のせいだと感じ取ったのは分からないが、先程よりも春歌を強く抱きしめる。

「…オレを選んで」
「神宮司さん。 わたし、その…」
「お願い。 こんな気持ちは初めてで、どうしたらいいか分からないんだ。 君が好きで好き過ぎて…おかしくなっちゃいそうなんだ」

震える声で春歌の首に顔を埋めながら懇願する姿に春歌は心臓が止まってしまいそうな程に苦しくなるが、もっと苦しいのはレンの方だ。
自分だけが春歌に好意を寄せていると思っていたら突然他の男が現れて、自分が見ていない所でキスまでしていた。
それだけでもレンにとっては胸が張り裂けそうになる思いをしたに違いはないが、その上春歌はどちらが良いか答えを出す事もなく去って行ってしまい、レンの心は酷く不安定になっているのだろう。
声だけでなく身体が小刻みに震えているのは、寒さのせいだけではないはずだ。

「神宮司さん、わたしは…っ」
「渡さない…んっ」

今の自分の気持ちをもう一度伝えようとレンの方へ頭だけを振り向かせると、すぐ目の前にレンの顔があった。
それは偶然近いのではなく明らかに意図的に近付いていて、春歌がその事を理解する前にレンは春歌の唇を奪った。
呼吸までをも奪うようなキス。 ざらりと舌の肉を舐めたかと思えば甘く食み、春歌を内側から犯していく。
足に力が入らずガクガクと痙攣したかの様に震え、レンに抱きしめられていなければ、きっと立ってはいられなくなりそうな程の激しいキスのはずなのに、どこか優しいキスに春歌は脳髄までもが蕩けてドロドロに溶けてしまいそうになる。
唇が離され、激しいキスの余韻からか春歌の目はとろんとしており、レンに奪われた分の酸素を取り込もうと呼吸をする姿はどこか情事を思わせる様で、レンの心臓がどくんと大きな音を立てる。

「春歌、答えて。 じゃないと君を…」
「神宮司さ…っ」

再び唇が触れ合うか触れ合わないかと言う瞬間、二人の耳に電子音が鳴り響く。 この状況に明らかに似合わない音の正体は、春歌が包まれているレンのコートのポケットから聞こえる。
レンは盛大な溜息を吐き「ごめんね」と一言謝罪すると、ポケットに入っているスマートホンを手に取り画面を確認し耳に当てる。
どうやら電話でレンは春歌を抱きしめながらも会話を続けているが、春歌の耳にレンと相手の会話は届かない。 熱を持った身体を鎮めるのに精いっぱいで、レンの邪魔をしてはいけないと思いながらも、荒い呼吸を抑える事が出来ないが、次第に酸素が十分肺に入っていき、レンの電話が終了した時には既に呼吸は落ち着いていた。

「レディ。 自分勝手で悪いんだけど、急に仕事が入っちゃってね。 街まで送るよ。…ごめんね」
「い、いいえ」

何に対しての「ごめん」なのか、春歌は流石にそこまでは聞けなかった。 レンが春歌を包んでいたコートと身体を離すと、再び海風が春歌の身体を冷やす。
レンの車まで戻ると海に来る前と同じように助手席のドアを開けられエスコートされるが、二人の間に言葉はなかった。



















レンが車を走らせている間も、二人の間に言葉はなかった。
春歌は自分から話す勇気もなく、レンも自ら話しかけようとはしてこない。 今までどうやって話していたのか分からなくなってしまう位の気まずい沈黙が続き、居た堪れない気持ちになってしまう。
あの時電話が鳴らなかったら自分はどうなっていたんだろう。
そう考えると身体が再び熱を持ってしまい、何か別の事を考えないとと大好きな歌でも頭の中で歌っていようと、訳の分からない回避方法を思いついた。

(歌…………あ!!)

春歌はその瞬間全てを思いだした。 ショッピング街に出て来たのは発売されたばかりのCDを買う為だった。
靄掛かっていた脳内は一瞬の内にして晴れ渡っていく。
周囲を見渡すといつの間にか先程レンが自分を乗せてくれたショッピング街に着いており、この気まずい沈黙から早く逃れたいと言う想いも多少あり、運転に集中しているであろうレンに勇気を振り絞り、運転席を見やる。

「あ、あの神宮司さん…。 わたし用事を思い出したので、ここで降ろして下さって大丈夫です」
「え?さっきは用事ないって言ってたのに?」
「さっきは買う物をど忘れしてしまいまして……あ」

恥ずかしくて内緒にしていた事なのに、こうもあっさりとばらしてしまった。
余りの恥ずかしさに頬を赤く染め、俯きながら「すみません」と呟いた。

「ぷっ…あはは。 君は本当に面白い子だね」
「うぅ…からかわないでください」
「ごめん、ごめん。 じゃあ次の交差点を過ぎた所で大丈夫?」
「お願いします」

運転しながらもレンは「くくく」と笑いを抑えきれずにいる。 春歌は恥ずかしさと居た堪れなさで、先程とは違う意味でレンの顔を見る事が出来ない。
早く着いて欲しいと春歌が思う一方、都心の混雑した道路はなかなか進む事はなく、五分も掛けてやっと目的の場所に着いたのであった。
道路の左端に車を寄せ、春歌は車道に車が来ないタイミングを見計らい外へ出る。
車を半周し運転席にいるレンの窓際に立ち、レンは窓を開けて春歌を見つめる。

「あのっ、本当に色々とすみませんでした。 お仕事頑張って下さい」

春歌は背を九十度近くも曲げ深々とお辞儀をする。 謝罪の意味は詳しく言わないが、色々な意味を含ませながらも誤魔化した謝罪だ。 今の春歌にはこれしか出来ないのだ。
身体をゆっくり起こすと、レンはハンドルから手を離し春歌に手招きをする。 春歌は意味が分からず首を傾げるがレンは手招きを止めない。
何も喋らず手招きを続けるレンを不審に思いつつも、開かれた窓に顔を近づけると、突然レンの手が伸びてきて春歌のうなじに手を添えられたかと思えば強く押された。
またレンにキスをされている。 そう頭で理解出来たのは唇が離れ、レンの熱い瞳に見つめられてからだった。

「今度会った時は答えを聞くまで絶対に帰さない。 だから覚悟しておいて」

昼間の街中に似つかわしくない事を甘く囁かれ、レンから顔を離してしまう。
レンは先程とは違い優しい瞳で春歌を見つめ「じゃあね」と一言だけ残し、車を走らせていった。
残された春歌はその場から動けず立ち尽くしていた。
そして先程まで触れ合っていた唇に指で触れると、そこにはまだレンの温もりが残っている様で熱く感じる。

(次会ったら、わたしは…)

言葉の続きを頭で紡ぐがその想いを胸にしまい込み、春歌は目的を果たそうとコートを翻し歩み始めるのであった。




イチゴ組のCDがエロ過ぎたので続きを妄想してみました。
本当はどちらか選んだ話にしようかと思ったのですが、けん制し合っている方が面白いかなと思って、結局選べずにいる続きを書きました。
カミュの方も書いていますので、近々上げようと思っています。



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