人工エタノール | ナノ




時刻は深夜12時を過ぎた頃、BGMもない部屋で春歌はソファに座り、帰りを待っていた。 この部屋の主人でもあり、春歌の恋人でもあるカミュをだ。
アイドルと言う仕事上、帰りが不定期になるのは常であり、今夜も例に漏れず予告されていた時間を過ぎても帰ってこない。
必ずしもカミュを待っている必要は無いのだが、少しでも会いたい、一緒にいたいと言う想いもあり、カミュの飼い犬であるアレキサンダーと主人の帰宅を今か今かと心待ちにしていた。
カミュが帰ってきた時の為に紅茶でも入れようかなと思い、既に勝手知ったるキッチンへと向かおうとソファから立ち上がった時に玄関の扉が開く音がした。
アレキサンダーはその音に垂れている耳を今にも立ちあがりそうな程に動かし、玄関へと向かっていく。
春歌もアレキサンダーの後を追いかけ玄関へ向かうと、そこには何時もと変わらぬカミュの姿があった。

「カミュ先輩、おかえりなさい」
「あぁ」

素っ気ない返事だけをし春歌の横を通り過ぎる。
余程仕事で疲れていたのかなと思っていたが、横を通り過ぎた時にツンとする様な匂いが春歌の鼻腔を擽った。
春歌は勿論飲んだ事はないが、これはアルコールの匂いにカミュはお酒を飲んで帰宅したのだと分かった。

「カミュ先輩、飲んで来られたんですか?」
「あぁ… 寿のアホに付き合わされてな」

同じ事務所に所属している寿嶺二に「たまには飲もうよー」とほぼ無理矢理連れられ、珍しく飲酒をしたと明らかに嫌そうに話しながらソファにドカッと腰掛けた。
カミュはこの国では成人した男性であり飲酒する事は何の問題もない。 カミュの祖国であるシルクパレスでは何歳から飲酒をしても良いのか春歌は知らないが、そもそも春歌はカミュが飲酒するのを余り見たことがない。
殆どが砂糖まみれのコーヒーや紅茶などの砂糖をたっぷりと投入した物を飲んでいるのを見るのが殆どであり、飲酒は片手で数える位にしか見たことがない。
本人がそこまで好きではないのか、それとも酔いやすい体質なのかは分からない。 しかし今のカミュはソファの背に全身を預ける様に座り込んでいる姿から、かなりの量を飲酒しているのだと言う事が分かる。
春歌はキッチンへ行き、コップに水を注いでカミュの目の前に差しだす。
素直に受け取ったカミュは水を一口飲み「甘くない」とだけ呟き、春歌にコップを返した。
砂糖を入れれば良いのか、それとも飲料物自体いらないのか分からず、春歌はテーブルの上にコップを置き、カミュの隣に腰掛け顔を覗き込む。
永久凍土の国シルクパレス出身のカミュの肌は春歌よりも白い。 しかし今その顔は赤く染まっており、どこか目も虚ろだ。

「カミュ先輩…酔ってますね?」
「何を言っているのだ、貴様は。 俺は酔ってなどいない」

春歌の一言に目を見開き、ソファに預けていた背を離し足を組み、いつもの偉そうなカミュに戻る。
伯爵家の出身であるカミュは「酔う」と言う行為自体を恥じているのかもしれない。
アルコールによって麻痺された脳が抑止力を低下させ、自身の意思とは関係ない行動を起こしたりするなど持っての他だと言っていた事があった様な気がすると、春歌の遠い記憶がそう言っている。
確かに今カミュの口調はハッキリしており酔っていない様に見えるが、やはり時折虚ろ気味になる瞳は何時もの冷たいアイスブルーの瞳とは程遠い。
恋人として長い間過ごしてきた春歌だから分かる事なのかもしれない。

「酔ってますよ。 無理なさらないで、早く寝ましょう」
「俺は酔っていないと言っているだろう。 そんなに疑うなら酔ってないと証明してやろう」
「証明って……っ」

突然カミュは春歌をソファの上に押し倒し、春歌を自身で隠すかの様に覆い被さる。 カミュの突然の行動が理解出来ず春歌が戸惑っていると、春歌の首筋にカミュの唇が添えられた。

「ひゃあっ」
「何と言う間抜けな声だ。 もう少し色気のある声を出せないのか」
「そんな事言われましても…っ」

突然に移されたカミュの気まぐれな行動に追い付くのが精一杯なのにも関わらず、カミュの要求通りに行動しようなどと無理な話だ。
文句の一つでも言いたくなり口を開くが、カミュの唇によって塞がれてしまう。
乱暴な口調とは裏腹の甘いキス。 顎に手を添え咥内に侵入した舌は春歌の肉をざらりと撫で上げ、唇で春歌の唇を食む。
いつもと違うキスに戸惑いながらもカミュのキスを拒む事はしない。 むしろもっと欲しいと思い、カミュの行動を受け入れる。
唇が離れ再び首筋に添えられると、春歌は「あ」と声を漏らした。
その声がカミュの望む色気のある声なのか春歌は分からなかったが、カミュが喉を鳴らし「クッ」と笑ったのが聞こえ、正解だったのかと安心した。
リップ音を響かせながら唇は春歌の首筋、鎖骨、胸元と肌の露出している部分へと落とされる。
普段であれば、このまま服を脱がし行為へ突入するのだが、胸元へのキスを複数繰り返した所で、カミュは春歌から身体を離した。
しかしソファから離れる所か春歌の上に跨った状態のままだ。 思わず首を傾げると、カミュは顔の筋肉を全く動かさずに、春歌の足首を持ちあげた。
足首を持ちあげられた事により、春歌からは分からないが下着が丸見えになっている状態になっているに違いない。
何をするのか分からず少しの恐怖と疑問が頭の中を占める。 カミュは春歌の足を自身の眼前まで動かす。
口角が上がり春歌の足の甲に顔を寄せる。

「んっ…」
「ひゃっ…カミュ先輩、何して…」

カミュはあろうことか春歌の足の甲に口付けをした。 口付けだけで済めば、まだ良かったのかもしれないが、舌で甲をペロリと舐めたのだ。
カミュの全く持って読めない行動に戸惑いもあったが、甲への口付けに背筋が粟立ってしまう。
カミュの顔が近くにある手前、足をばたつかせる訳にもいかない。 もしカミュの顔を誤って蹴りでもしたら、アイドルにとって命とも言われる顔に傷を付けてしまうかもしれないからだ。

「サービスだ」
「い、良いですっ。 止めてくださ…」

春歌が抵抗しないのを良い事にカミュの行動はますますエスカレートする。 足の爪先に軽くキスしたかと思えば、指の間を滑らす様に舌を這わす。
ぬるりとした舌の感触に身体を震わせながらも、カミュの行動を受け入れる。 入浴は既に済ませているが、まさか足にキスをされたり舐められるとは思ってもいなかった。
何より恥ずかしいのはカミュの行動に感じてしまっている春歌自身だ。 指を噛み声を漏らさない様に耐え続ける。
指へのキスが終わったかと思うと、春歌の足首にキスをしながら氷の様なアイスブルーの瞳で春歌を見つめる。
カミュと視線が合うが、春歌と視線を一瞬だけ合わせたカミュは再び春歌へのキスを再開する。
足首から脛へ、時折舌を這わせ、また歯を立て春歌に跡を残していく。
カミュの手は既に春歌のスカートの中へ侵入しており、太腿を円を描く様に撫で回す。
春歌への愛撫をしながらも、キスを止める事はない。 膝上まで来たキスが終わる事はなく、春歌の太腿へと続いていく。
内腿の柔らかい部分へと口付けをすると、春歌の腰が動いてしまう。
口付けをしながらも、捕食をする様に腿を甘噛みする。 歯を立てられ思わず身体を震わせるが、腿に薄く付いた歯形の跡を消すかの様に優しく舐める。
跡を付けたいのか、消したいのか。 カミュのいつも以上に読めない行動に春歌はただただ困惑するばかりだ。
腿へのキスも段々上がってきて、ついに腿の付け根にまで唇が落とされた。
既にカミュの眼前に晒されている下着にまで唇が落ちてくるか剥ぎ取られるのは時間の問題だ。
抵抗の意思を無くしている春歌はカミュから与えられる行為を受け入れるしかないと思い、ギュッと瞳を強く閉じた。
だが次の瞬間、春歌を襲ったのはカミュ自身であった。 春歌の上に覆いかぶさり全身を預けてきた、その行為は「寝ている」以外の何でもなく耳元でスーと穏やかな寝息が聞こえる。
カミュの寝息が聞こえ、嬉しいのや残念なのやら色々な想いが交錯したが、春歌はカミュを起こさない様にゆっくりと身体を動かし、落ちる様にソファから離れた。
ソファにその大きな身体を預けているカミュが起きる気配はない。 本当ならベッドルームまで連れて行きたい所だが、流石に身長が三十センチ近く離れているカミュを運ぶ力は春歌にはない。 かと言ってこのまま起こすのも気が引ける春歌はカミュの寝室から毛布を持ってきて被せた。
ソファの側では今まで何処にいたのやら、アレキサンダーがカミュの顔を覗き込むように見つめている。

「ふふ。 カミュ先輩はお休み中ですよ。 明日ちゃんと起きれるか心配ですから、今日はここで一緒に寝ましょうね」

春歌の一言に頭の良いアレキサンダーは理解したのか、いつもよりか幾分小さい声でワンと吠え、春歌が持ってきたもう一枚の毛布の側で寄り添う様に眠ったのであった。














―翌日


(何故俺はソファで寝ていたんだ。 そして何故こいつとアレキサンダーは床で寝ているのだ。 昨夜は確か……。
思い出すのは止めるか。 だがこいつが起きた時の行動如何によっては、こいつの記憶を忘れさせるまで、する必要があるな)














人工エタノール




カミュ×お酒=春歌に普段からしたい事爆発させる妄想。
ちなみにキスする箇所によって意味が違うのはご存じだと思いますが、足の甲は隷属、 爪先は崇拝、腿は支配、脛は服従だそうです。
下半身のキスは全体的にエロいですね。



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