飼い犬は手を噛まない2 | ナノ





寝室から出てきた二人に春歌は思わず息を飲んでしまう。
アレキサンダーにカミュは普段着用している紺色のスーツと純白のスーツ一式を着せ、再びリビングに戻ってきた。 一方カミュは白いワイシャツに黒地に白いストライプが入ったネクタイとブラウンオリーブのパンツを着用している。
二人の姿はまるで双子、クローンと言っても過言でもない位に同じだった。
春歌が二人のカミュに思わず見惚れてしまうが、お茶を用意しなくてはと思い、キッチンへと入っていき、アレキサンダーはカミュに促されて二人掛けのソファに腰掛け、カミュは自身専用の椅子に腰かける。
先程自身が飲んでいたコーヒーをカップに入れ、小さな盆にカップを三つとシュガーポットとミルク差しを乗せて、机の上に乗せる。
カミュには既に砂糖十個を入れたコーヒーを置き、自身には少しミルクを入れてコーヒーを、アレキサンダーにはブラックコーヒーを置いて、自身もいつもの指定席のソファ、アレキサンダーの横に腰掛ける。
カミュが一口コーヒーを飲み、溜息を吐いた所で口が開かれた。

「本当にアレキサンダーなのか?」
「はい、ご主人様。 証拠にこの部屋に犬の私はいません」
「た、確かに、どこにもいません」

春歌が部屋内を見渡すが、いつも寝ているラグの上にアレキサンダーはいない。 カミュが散歩で外出する以外は部屋におり、勝手に外出したりする様な犬ではないのがカミュが一番よく分かっていた。
飲んだコーヒーの甘さが足りないと感じたのか、シュガーポットから角砂糖を1つ摘まみ取り出しカップの中に落とす。

「それならば、どうして人間の姿に…しかも俺の姿なんだ?」
「それは分からないです。 起きたらご主人様の姿になっていて、私も驚きました。 可能性としては…魔法ですかね」

アレキサンダーの最後の言葉に二人は反応し、アレキサンダーに視線を移した。
魔法―シルクパレスの女王が使える不思議な力だ。 カミュ自身は魔法は使えないが、女王に仕える伯爵家の人間としては知っており、春歌もその力の存在は知っていた。
犬を人間に変える事は余程強い力、むしろ呪いと言った方が良い位である。
だが女王が使ったとして何のメリットがあるのかカミュには分からなかった。 人を犬にするなら呪いとしては常套手段だが、犬を人間にした所で何もメリットはない。 少なくとも女王陛下の目的達成の為には必要な力だとは思えない。 カミュは頭の中で冷静に分析するが考えても答えは見つからない。
考えているうちに角砂糖を十個追加しており、丁度良い甘さになったと思いコーヒーを再び口に含んだ。

「俺はこの事を女王陛下に報告しておこう。 戻る方法があるかもしれないからな」
「ありがとうございます、ご主人様」
「良かったですね、アレキサンダー」
「はい。 春歌様もありがとうございます」
「はっ、はははははは春歌様って…」

アレキサンダーの言い方に春歌は顔を赤らめてしまう。 アレキサンダーだと分かってはいるが、見た目はカミュだ。 アイドルとしてのカミュの顔が自身に向けられており、その柔らかな物腰に思わずときめいてしまう。
春歌を見つめる優しい瞳に思わず見惚れていると、陶器同士が激しくぶつかり合った様な音に春歌の身体が震えてしまう。
音の方向を見ると、カミュがソーサーにカップを置いただけの様だったが、カップの淵からコーヒーの涙がいくつも出来ており、カミュがいかに強くカップを置いたのが、見ていなくてもすぐに分かった。
カミュは春歌とアレキサンダーを睨みつけるかの様に見ており、春歌はカミュの視線の鋭さに震えてしまうが、アレキサンダーは分かっていないのかは不明だが、急に「あ」と声をだした。

「ご主人様。 そろそろお出かけの支度をした方が良いのでは?」
「何… 本当だな。 支度をしないと遅れてしまうな。 お前は時間は大丈夫なのか?」
「ふえっ…。 あ、私もそろそろ出かけます。 一度部屋に戻って準備をしたいので」

部屋に掛けられたモノクロの時計の時刻は八時を指している。 カミュは本日バラエティの収録があり、春歌も打ち合わせがある。 準備を含める時間を考えると、そろそろ支度をしなくてはいけない。
残っているコーヒーを飲みほし、二人は席を立つ。
一人席を立たなかったアレキサンダーを見つめ、二人は視線を合わせる。

「…アレキサンダーは、どうしますか?」
「ここで悩んでいても仕方ないだろう。 アレキサンダー留守番は出来るな」
「はい。 私は今日一日お部屋から出ませんので」
「お願いします。 私は今日打ち合わせだけですので、早く帰れると思います」
「俺は収録は一本だけだが、長くなる可能性もあるからな。 まぁ、早く帰れる様にはしておく」
「かしこまりました」

アレキサンダーが柔和な笑顔で答え、春歌は着替を済ませて部屋から出ていき、カミュも一度シャワーを浴びて、着替えてから仕事へ向かう為に、アレキサンダーを残し部屋を後にしたのだった。

















春歌は寮までへの道を駆け足で抜けていった。 着用しているワンピースの裾は走っている勢いで広がり、肩に掛けているカバンも揺れている。 小さな白い箱を手に持っているが、走りながらもその中身を守る様に抱えている。
思ったより打ち合わせの時間が延びてしまい予定よりも遅い帰宅になってしまっていた。
明確に何時に戻るとは伝えていなかったが、遅くなってしまいアレキサンダーが心配しているのではないかと考えての行動だった。
寮へ入り、カミュから既に貰っていた合鍵を取り出し、カミュの部屋の扉を開ける。

「アレキサンダー!!」
「春歌様、おかえりなさいませ」
「あっ…、ただいま…です」

春歌が扉を開けると、既にアレキサンダーが待機しており、春歌に向けて軽くお辞儀をする。
上げた顔の表情はとても柔和で何事も無かった様子に安心と共に慌ててしまって恥ずかしいと言う想いが沸々と湧き上がり、顔を赤く染めながらも、「お邪魔します」と一言いい、部屋へと上がった。
リビングへ入ると、先程出しっぱなしのままだった、机の上のカップやシュガーポットなどが片付いている。 カミュが出かける前に片づけたのだろうかと首を傾げてしまう。

「あ、カップなどは私が片付けました」
「え、ええぇぇぇぇぇ。 どうやってですか?」
「普通にカップをキッチンに運んで洗っただけですが…」

春歌の言い方にアレキサンダーは当たり前だと言わんばかりの口調で答える。 人間だったらその位出来ても当然かもしれないがアレキサンダーは人間の姿をしているが犬だ。
春歌の頭の中にはアレキサンダーが片付けて洗い物をするなんて言う事は想像も出来なかったが、「春歌様がされているのを見ていた覚えておりました」と一言伝えると、春歌は心当たりがあったのか納得してしまった。
洗ってくれたのはありがたいが、もう一度使う必要があり、春歌はキッチンへと入っていた。

「春歌様。 お茶の準備なら私が…」
「いいんです。 それにちょっと今日はお土産があって…」
「お土産…ですか?」
「はい。 ですので座っててください」

春歌に促され、アレキサンダーはソファに腰掛ける。 春歌は湯を沸かし、お茶の準備をし始める。 今朝と全く同じ様なシチュエーションだったが、春歌が持ってきた盆を見てその違いにアレキサンダーは気付いた。
盆には2人分のカップとコーヒープレス。 それにシュークリームが乗っていた。

「これがお土産ですか?」
「はい。 打ち合わせ場所の近くにあるケーキ屋さんで買ってきました。 シュー部分がクッキー生地で凄くカリカリで濃厚なカスタードクリームが美味しいって評判なんですよ。 前に雑誌で見てカミュ先輩が美味そうだなって言ってて…」
「ご主人様の為…ですか?」
「え…あっ…」

アレキサンダーの一言に春歌は顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。 確かにカミュが美味そうと言っていたので買ってきたのは事実だが、カミュと同じ顔・同じ声の人物に指摘された事で、本人に言われた様で恥ずかしくなってしまう。
春歌が動かなくなってしまったのを見て、アレキサンダーは春歌の顔を覗き込むと、春歌は小さく声を上げて驚き、危うく盆を落としそうになってしまった。
その行動を見たアレキサンダーが優しく微笑むと、春歌もつられて微笑んでしまう。 春歌はアレキサンダーの目の前にカップとシュークリームを置き、アレキサンダーの隣…ソファに腰掛けた。
春歌はシュークリームに手を伸ばし、サンドされている上のクッキー生地を摘まみ、カスタードクリームに付けて口に含む。
評判通りの生地の食感と濃厚なクリームに手が進んでしまう。 上の生地を食べ終わっても大量のクリームは残っており、汚れるかもしれないが残りのシューを持ち食べようとした時、アレキサンダーに視線を移すとアレキサンダーは既にシュークリームを全て食べ終わっていた。

「も、もう食べてしまったんですか?」
「はい。 とても美味しかったです。 これはご主人様も喜んでくださると思いますよ」
「本当ですか? あ…そういえばアレキサンダーはシュークリームを食べても大丈夫なんですか? 元はその…犬ですし」
「毒ではないから大丈夫だとは思いますよ。 それに試しにいつもの食事をしてみたら、全然美味しくありませんでしたし」

そう言って微笑むアレキサンダーに春歌は驚きを隠せなかった。 いつもの食事、つまりドックフードを口に含んでみたと言うが、普通ならなんでもない光景だが、カミュの姿をしている今のアレキサンダーが食べる光景を想像して、思わず笑いが込み上げてくる。 勿論犬の様な格好で食べた訳ではないだろうが、そもそもカミュが犬のご飯を食べると言う様な行為自体が面白く感じてしまい身体を震わせる。
すると手に持っていたカスタードクリームが左右に揺れてしまい、カスタードクリームの塊が春歌の鎖骨の上に落ちる。
春歌の鎖骨に落ちたカスタードクリームは冷たく思わず身を震わせてしまう。
落ちたカスタードクリームを拭こうとしたが、ティッシュケースが側にない事に気づき、視線を左右に彷徨わせると、キッチンのカウンターにあるのを見つけ、ソファから立ち上がろうとした時だった。

「春歌様…」
「えっ…キャッ」

アレキサンダーに押し倒された。
押し倒されたと言うよりは、ソファの背に縫いとめられた様に押しつけられたと言った方が正しいのだろうが、春歌にとっては押し倒されたと言う行為に変わりはなかった。
春歌の頭には行為の意図が掴めず、クエスチョンマークしか浮かばず、アレキサンダーの行動の意図を掴もうと口を紡ごうとした時、アレキサンダーは春歌の鎖骨に舌を這わせたのだった。

「ひっ…。 やっ、やめ…」
「どうしてでしょうか? 汚れているなら早く取らないと…」
「ティッシュ、で取れ、ば…」
「甘い物を粗末にしてはいけません。 まだ食べられます」
「やぁっ…」

アレキサンダーは舌を動かし、春歌の鎖骨に乗ったクリームを舐める。 春歌はアレキサンダーの行動に理解出来ず、抵抗しようと身体を動かすが、アレキサンダーの強い力で押し返す事が出来ない。 それ所か春歌が激しく身体を動かすので、鎖骨に乗っていたクリームの塊が服の中に落ちて行った。
クリームが臍の当たりに落ちたのを、春歌は身体で感じていた。
そして同時に今から起こるであろうアレキサンダーの行動に身体が震えた。

「あぁ、勿体ない… 少し失礼致しますね」
「駄目ぇっ…」
「少し寒いかもしれませんが、我慢してください。 すぐに終わらせますから」
「そういう、事ではなく、て…やぁっ…」

春歌の予想通りに、アレキサンダーは春歌のワンピースを捲り、春歌の太腿、下着、腹を曝け出し、外気に触れた事で肌が粟立つ。
春歌が抵抗する前に、アレキサンダーの舌が春歌の腹部のクリームが付いた部分を舐め始める。 舌で濡れたクリームが溶けて臍へ入っていき、臍にも舌を這わす。
アレキサンダーはただ一心不乱に春歌に付いたクリームを全て舐め取ろうとしているのだが、春歌はアレキサンダーが小刻みに動かす舌と、カミュと同じ舌の感触に感じてしまう。
身体を動かしアレキサンダーの頭を押すが、大の男の力など拒めるはずもなく、されるがままになってしまう。
アレキサンダーが舌の動きを止め、上唇に付いたクリームを舌で舐める仕草に思わず、胸がドキッとしてしまう。
役目を終え、春歌から身体を離そうとした時に、アレキサンダーは春歌のある1点に目が釘付けになった。

「ん? お召し物が濡れてますね。 どうかされたのですか?」
「こっ、これは…」

春歌のピンク色の下着のクロッチ部分が濡れ、春歌の恥毛が透けて見えてしまっている。
言える訳がない。 舐められている内に感じて濡れてしまっていたなんて。
しかしアレキサンダーは春歌の下着が何故濡れているのか分かっていない様でクロッチ部分を見つめ続ける。
視線の熱さに恥ずかしくなり、クロッチ部分を手で覆い隠そうとするが、アレキサンダーの手がそれを止めた。

「気持が悪いでしょう。 お取り換え致します」
「いっ、いいいいいい、いいです。 結構です!! ほら…変えの下着もありませんし」
「確かご主人様のお部屋に新品の女性物の下着がありましたので、それを使えば…」
「へっ?」

アレキサンダーから飛び出した爆弾発言に耳を奪われる。 何故カミュの部屋にその様な物が置いてあるのだろう。 きっとアレキサンダーの見間違いだろうと勝手に納得するが、アレキサンダーの手が止まる事はない。
春歌の下着のサイドに手を掛け、ゆっくりと降ろし始めた。
アレキサンダーの行動に目を見開き降ろし始める手を掴み止めようとする。
しかし春歌の行動も虚しく、アレキサンダーは下着を降ろす手を止めず、春歌の恥毛が見えてきそうな位置まで下着をずらした。

「おい、何をしている」
「ひっ…」
「あ、ご主人様。 お帰りなさいませ」

春歌の視線をアレキサンダーから横にずらせば、腕組をした怒りのオーラで満ち溢れているカミュが映る。 アレキサンダーはカミュのオーラになど全く気付く由もなく、主人の帰宅を喜んでいる。
カミュの様子を見て春歌は血の気が一気に引くのを感じた。 今の格好はアレキサンダーによって露わになった腹部と臍は粘膜によって光っており、下着のサイドに指を掛けられているこの状況は、今から行為に及ぼうとしている光景にしか見えない。
何とか状況を打破させる説明をしようと考えるが、その考えはカミュに腕を引っ張られた事により無くなってしまう。

「ご主人様。 春歌様のお召し物を変えないと…」
「それは俺がやる。 お前は片付けでもしていて、ここで待っていろ」
「はい。 かしこまりました」

カミュに無理やり立たされた事で、身体がバランスを取れずによろけてしまう。
カミュに抱きとめられたが、アレキサンダーと軽い会話をした後は、再び強い力で腕を引っ張られてしまい、そのまま寝室へと入って行った。




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