おまえ依存性 | ナノ





「後輩ちゃーん。 開けてー」
「寿先輩?」

時刻は0時を回った頃、扉の外で困った様な寿の声と扉を叩く音が響く。 コーヒーを飲んで一息入れていた春歌はカップを机の上に置き、玄関へと足を進める。
鍵の掛かった扉を解錠すると、勢い良く流れ込んで来たのは声の主の寿嶺二と俯いたままの黒崎蘭丸だった。
嶺二が後ろ手で扉を施錠し、玄関マットの上へ二人同時に身を沈ませる。

「あー… ランラン重いー」
「ど、どうされたんですか? お二人とも」
「うーん… ぼくはー簡単に言えば酔っ払いの送迎」

嶺二から仄かに香るアルコールの匂い。 だが蘭丸の方からは更に強いアルコールの匂いがする。
嶺二に因ると本日のライブが大成功だったらしく、打ち上げの際に蘭丸の酒のピッチがいつも以上に進み、蘭丸は帰る頃には泥酔状態になっており、嶺二が貧乏くじを引いて送迎係になったそうだ。
蘭丸は勢いよく玄関マットへ放りだされたのにも関わらず、豪快な寝息を立てている。

「暢気なもんだよねー。 お兄さんの苦労もしらないでさっ」
「寿先輩、すみません」
「んー、まぁランランには後日何かしてもらうとして… とりあえずベッドまで運ぶから後輩ちゃん手伝ってー」

春歌と嶺二は二人で靴を片方ずつ脱がし、嶺二は再び10cm近くも体格差がある蘭丸を担ぐ為に、腕を振って気合を入れて、蘭丸の肩を担ぐ。
春歌に手伝ってと言ったが、流石に大の男を担がせる訳にもいかないので、主に扉を開けてもらたり、障害物を退けてもらうと言う事をしていた。
一番の難所である階段も何とか上りきり、ベッドルームへ入ると嶺二は投げ捨てる様に蘭丸はベッドへと沈めさせた。

「あー… 疲れた。 お兄さんもう若くないし、明日…ってか今日仕事だし…」
「本当にありがとうございます。 寿先輩もお飲みになられてるならお水かジュースでもお持ちしましょうか?」
「ありがとう。 でも大丈夫だよ。 ぼくちんそこまで飲んでないし。 酒は飲んでも飲まれるなってね」

効果音が付きそうなポーズを決めて、春歌に向ける顔は正にアイドルの顔だ。
寿の仕草や笑顔に思わず笑みが零れる。
だがそんな表情も蘭丸に視線を移した時には無くなっていた。

「ランランはいいなぁ。 帰ったらこーーーーーんなに可愛い彼女が待ってくれているんだもん」
「え… わ、わたしは黒崎先輩のお家に勝手にお邪魔しているだけで…」
「でもランラン合鍵渡してるんでしょ? それって家で待っててくれって事じゃないの? あーーーー、本当に良いなぁ。 あ、今度ぼくも合鍵渡すから部屋で待っててよ、ね、ね?」
「えっ、それは、その…」
「っじゃけんじゃねぇ…こと、ぶき…」

輝く様な笑顔で春歌に迫る嶺二だが、その言動を制裁する言葉、蘭丸の声が響く。
二人が視線を蘭丸に移すと、蘭丸は起きておらず、再び豪快な寝息が聞こえ寝言だと言う事が分かる。

「あらら、夢の中でも怒られちゃった。 起きたら本格的に怒られそうだから、僕ちん帰るね」
「すみません、本当にありがとうございました」
「良いって良いって。あ、でもランランにお酒は程ほどにって言っておいてね。 じゃぁバイバイビー」

また効果音が出てきそうなポーズを決めて、嶺二は部屋を後にする。 階段を下りる音、玄関の扉を開ける音が聞こえ、自室に戻っていった事が分かる。
春歌は蘭丸が起きてきた時の為に水かジュースでも用意をしようかと考え、部屋を後にしようとした。

「…はる、か」

突然に呼ばれた名前に心臓が跳ねる。 寝言かと思い振りかえると蘭丸が薄眼を開けて、春歌を見ている。 どうやら眼を覚ました様だった。

「黒崎先輩、頭痛くないですか? 何か水かジュース持ってきましょうか?」
「ん… いらねー。 んな事より…」

蘭丸が春歌に向かって手を伸ばす。 何にか他に欲しい物があるのかと思い、身体を近付けると、蘭丸の手が春歌の細い腕を掴み引っ張る。 突然の行動に春歌は何も出来ず、蘭丸のされるがままにベッドに身を沈めてしまう。
春歌がベッドに全身を預けた瞬間、蘭丸は春歌の上に覆いかぶさり、春歌の身体を抱きしめた。

「あ、あのあのあのあの、先輩…」
「黙ってろ」
「いえ、流石にこの状況に黙る事は難しいです」
「そっか。 じゃぁ声出してろ」
「えーっと、どっちで…んっ」

春歌が疑問を全て投げかける前に春歌の唇は蘭丸の唇で塞がれた。 強いアルコールの匂いが鼻につく。 自室にいる時、時折酒を嗜む事もあり、その後キスもした事はあるが、その時とは比較にならない位のアルコールの匂い。 たくさん飲んだのかと思うと同時に如何に今日のライブの成功さを物語っているのかが分かった。 その話はまた明日にでも聞こうと思い、春歌は蘭丸のキスを受け入れ続けた。
キスが止み、蘭丸の手が春歌の服に掛かった。
今日の春歌のルームウェアはワンピースで前ボタン総開きタイプの物だった。
蘭丸は酔っているのにも関わらず、ボタンを外す手は支える事無く開いていき、春歌のピンク色のブラジャーに包まれた胸が露わになった所で手を止めた。

「くっ、黒崎先輩… あっ」

春歌の呼びかけに蘭丸は答えず、春歌の胸に唇を落とす。 小さく漏れた春歌の声に気分が良くなったのか、胸を吸いキスマークを付けていく。
両方の胸に自分の後を残した蘭丸は突然春歌の胸の間―谷間に顔を埋めた。

「あ、あの… せん、ぱい?」

いつもの蘭丸ならブラジャーの紐に手を掛け、下着を剥ぎ取り行為に及ぶはずだが、今日はその様な事をする雰囲気が全く感じられない。 酔っぱらっているからなのだろうか、ただ春歌の胸の感触を楽しむかの様に顔を埋め、強く抱きしめた。

「んだよ」
「その… 今日は珍しいなぁと思いまして」
「うっせぇ。 今日は甘えたい気分なんだよ」

蘭丸の一言に春歌は胸がキュンと締め付けられる様な感覚に襲われた。
自分の胸に顔を埋め、甘えたいと言う蘭丸に所謂「母性」を感じてしまった。

(黒崎先輩、可愛すぎです)

年上でしかも先輩に、このような感情を持つのは失礼かもしれないが、春歌の胸のときめきは抑えられない。 もっとたくさん甘やかしたい気分になる。

「はい。 存分に甘えてください」
「…じゃあ遠慮なく」

だが春歌は見解を誤った。 幾ら可愛く見えても相手は22歳の大の男。 子供の様に顔を埋めるだけで済むはずもなく、うずめた谷間にキスを落とされた。
身体に当たる銀色の髪が擽ったく身を捩る。 時折谷間を強く吸われると、甲高い声が漏れる。
部屋中に響くリップ音に耳から犯されている気分になり、春歌は普段の行為以上に感じているのを、下着が濡れているので分かった。
いつもなら触れてほしい時に触れてくる手が、今日は背に回されており、胸も直接触れる事がないので、先端が疼いている。
なんて厭らしい身体になってしまったんだと春歌は自分を嗜めながらも、蘭丸の行為を享受していたが、その行動が急に止んでしまった。
蘭丸は春歌の胸の間に顔を埋め、全身の体重を春歌に掛けている。

「黒崎先輩… 眠ってしまったんですか?」

春歌の問いかけに蘭丸は答えることなく、胸の間で安からな寝息を立てている。
眠ってしまった事に少しガッカリしたのは心に留めておき、子供をあやす様に優しく頭を撫でた。
しかし春歌の問題はここからだ。 蘭丸の下からどうやって抜け出すかだ。
身体を横にずらそうにも、身体は蘭丸によって抱きしめられており、動くのは難しい状況だ。
起こしてしまう事を覚悟し、蘭丸の肩を強く押してみて動いたと思ったが、それ以上の強い力で抱きしめられてしまう。

(どうしましょう…)

困る春歌を余所に蘭丸は安らかな笑みを浮かべて眠っている。 時折春歌に甘える様に猫の様に顔を胸に擦りつける。
蘭丸の笑みを見ていると、胸は開いたままで少し恥ずかしいが、今日はこのまま寝てしまおうと決心する。

「おやすみなさい」

額にキスを落として、春歌はベッドに身をゆだねた。













―次の日

(頭、痛ぇ… 昨日飲みすぎだか…。 てかこんなでけぇ枕、俺の部屋にあったか? 何かすげぇ柔らかいし…ん? 饅頭か、これ。 ベッドに饅頭があるなんて可笑し……っ!! 何でこいつ胸だけ出てるんだ? 俺は昨日何してたんだ?
確かライブの打ち上げで酒飲みまくって酔っぱらって。 だけど… こいつに会いたいと思ってて、夢でこいつが甘えさせてくれて…)

「最悪だ」

(全部現実かよ。 あぁ、くそ恥ずかしい。 酔ってても、こいつに会いたくなるなんて、まるで…)


















おまえ依存症



蘭丸×お酒=甘っ子妄想。
ツンのキャラが甘えさせてほしいと言う萌えは設楽(GS3)で学びました。



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