幸せの憧憬(トキ春/大恋愛END後/初めての翌朝) | ナノ


幸せの憧憬


トキヤが重い瞼を気だるそうに開けると、そこは見慣れた染み1つない白の天井。 今日もいつもと変わらない朝のはずだったが、トキヤが瞼を気だるそうに開けたのは、その朝がいつもと違うからだ。 普段なら目覚ましの音ともに起床し、光を遮断するカーテンを開き、部屋を闇から光に変えていく。 トキヤが目を開けた時には、既に部屋は光で満たされ、ベランダには小鳥が楽しそうにさえずり、まるで歌っているような声が聞こえる。
寝返りを打ち、ベッドに視線を移すと、乱れた衣服が散乱している。 その中の1つである白いワイシャツを手繰り寄せ、抱き締める。 そのワイシャツは部屋の持ち主であるトキヤの物だが、トキヤとは違う甘い香りがする。

「春歌…」

愛しそうに呟く何よりも愛しい恋人の名前。
昨日トキヤは恋人である春歌と初めての情交を迎えた。震える彼女を優しくベッドに押し倒し、何度も優しくすると言い、キスを繰り返し、足を開かせ、トキヤの欲を小さい身体で受け入れた。
何度も愛しそうに瞳を潤ませながら、自分の名前を呼んだ春歌を思いだし、身体が熱くなる。
だが当の恋人はトキヤの隣にいない。 シーツの温もりから、まだベッドから抜け出して、時間は経っていないはずだ。 春歌を探そうと重たい身体を起こそうと、シーツに肘を着く。

「一ノ瀬さん…」

扉が音を立て、ゆっくりと開いていく。 半開きの扉から顔を出したのは、トキヤにとって何よりも愛しい春歌だった。
既に濡れた服は乾いていたのか、私服を着ている。 まだトキヤが寝ていると思ったのか、ゆっくりとした足取りでトキヤに近付く。 まだ身体を起こしていなかったトキヤは可愛い恋人の動向に興味が沸き、春歌にばれないように薄く目を閉じる。

「一ノ瀬さん… 朝食が出来ましたよ…」

トキヤの身体を優しく揺すりながら、起床をする様に促すが、トキヤの狸寝入りに気付かない春歌は何度もトキヤに呼び掛ける。
しばらくしても起きないトキヤに春歌は揺すっていた身体から手を離す。 諦めて部屋を出ていくのかと思ったトキヤだが、春歌の足音は一向に聞こえない。 それどころか春歌の気配をすぐ隣に感じる。 不信に思ったトキヤが目を開けようとした時、ベッドのスプリングが鈍い音を立てる。
床に膝を着き、ベッドに両腕を乗せ、トキヤの寝顔を見つめる。 細い手を伸ばし、トキヤの顔に掛かっている前髪を優しく撫でる。 恋人の意外な行動にトキヤの鼓動は急速に高まる。 目を開けて、春歌の顔を見たい衝動に駆られるが、この幸せな時間を少しでも長く続けたく、目を開けるのを我慢し、春歌の細い指の感触を楽しんでいた。

「トキヤくん」

下の名前でなかなか呼んでくれない春歌が、愛しそうにトキヤの名を呟き、 前髪を撫でていた手が下がり、トキヤの頬に触れ、 感触を楽しむように手の甲で軽く頬を押す。

「…大好きです」

春歌からの愛の言葉に、トキヤは頭の中で何かが切れる音が聞こえた。 その名前が「理性」だと気付いたのは、春歌の腕を取り、腕の中に抱き締めた時だった。

「え…い、いいいいいい一ノ瀬さん、お、起きていたんですか?」
「おや、トキヤと呼んでくれないのですか?」
「そっ、それは…何時から起きてたんですか?」
「春歌が入ってきた所でしょうか」

狸寝入りなんてずるいです、とトキヤの胸に顔を埋め呟く春歌は昨日の情交時と変わらない位に真っ赤になっている。 春歌の吐息を感じ、擽ったそうに身をよじり、春歌の両頬を筋ばった両手で包む。

「ずるいのは春歌でしょう。 私が寝ている時に触れたり、大好きなんて言って」
「あ、あれは…その……んっ!」

春歌が顔を上げた瞬間、自身の唇を春歌のぽってりとした唇に重ね合わせる。 合わせるだけの唇の隙間から、ゆっくりと舌を入れ、春歌の咥内へと侵入していく。 小さい舌を舐め、上顎をねっとりと舐めると、春歌の身体は小刻みにびくびくと震える。 しかしその表情はうっとりとしか表現しようがない、恍惚の表情をしていく。
トキヤが唇を離すと、目はとろんとしながも、荒い呼吸を繰り返す。 その表情は昨日トキヤの吐き出した欲を受け入れた時の表情に酷似しており、トキヤの欲が頭をもたげる。

「春歌…もう1回しませんか?」
「え、ええええええ!? あの…その、朝ですし、それに朝食だって…」
「それでは朝食の後に…ではどうでしょう?」
「しないって選択肢はないんですか?」
「それはないですね」

春歌の柔らかな尻を触りながら、爽やかな表情でトキヤは答える。細い首筋に顔を埋め「ね、春歌」と甘ったるい声で囁くと、春歌の身体がビクッと大きく震え、小声で「ご飯食べて、洗い物が終わったら…」と言ったのをトキヤは聞き逃さなかった。
その言葉に満足したのか、春歌の身体から手を離し「それでは早く食べましょうか」と身体を起こし、ワイシャツを羽織る。
ベッドの上で顔を真っ赤にし俯く春歌の目の前にトキヤの手が差し出される。 その手を払う事も出来ず、ゆっくりと手のひらに自分の手を重ねる。

「やっぱり一ノ瀬さんはずるいです」
「こんな男は嫌いですか?」

微笑むトキヤに返事の代わりに重ねた手を強く握り、トキヤもその手を包むこむよう握り返した。

「今日はとても幸せな朝です」






■後書き
春歌はトキヤの見ていない所では大胆になるんだよ、と言いたいだけの話。
春歌は他のキャラに比べてトキヤを名前で呼ぶのを恥ずかしがりすぎではないだろうか…。
タイトルは某BGMを聞きながら書いたので、特に意味はありません。



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