願わくば、この想い伝われ | ナノ


願わくば、この想い伝われ





「ん、ふぁ…あ、もうこんな時間」

 夕の光が閉じられた瞼の隙間から入り込み、オレンジ色の美しい光の眩しさに春歌は目を覚ました。いつの間にかソファでうたた寝をしてしまったようで、机に散乱する五線譜と並べられた音符は未だ最後まで曲を紡いではいない。だが机を覗き込むように見たアレキサンダーは音符を見て嬉しそうに吠えた。

「ふふ、素敵な曲になるように頑張ってるんですよ。これはね…」

 春歌が答えを言う前にアレキサンダーは身を翻して嬉しそうに玄関へと駆けて行った。アレキサンダーが駆けて行く理由など一つしかない。音も聞こえないけれど、彼と何年も過ごしているアレキサンダーだからこそ分かるのだろう。春歌は少しだけ重くなった身体を起こした。

「帰ったぞ」
「おかえりなさい、カミュ先輩。今…」
「動くな!」
「ふぇ?」

 階下から聞こえる声の主に一秒でも早く会いたいと起こした身体なのにカミュは動くなと命じる。どうして?と聞く前に慌ただしく玄関から階段を上ってくる二つの足音。その音だけで圧倒されてしまい春歌は再びソファへ身を沈めさせた。

「よし、待っていたな」
「あ、あの…」

 春歌が座っている姿を見て安心したのか、安堵のため息をついたカミュが春歌へと駆け寄る。その足音はいつも通りのはずなのだが何処か浮足立っているように感じてしまう。カミュの側を歩いていたアレキサンダーは春歌が腰掛けているソファの裏へと周りくるりと回ったかと思えば、ふわと欠伸をして眠りこんでしまった。

「具合は大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
「転んだりはしていないか? むやみに下へ降りたりしていないだろうな?」
「はい。今日はお客様誰も来ませんでしたし、ずっとここにいました」
「それなら良い」

 春歌の前にまるで主君へ忠誠を捧げるかの如く跪きうやうやしく手を取る。嵌められた薬指の指輪を触れれば何かに安心したのか、手を離さぬまま春歌の横へと腰掛けた。
 座れば自然と目の前の机上に広がる楽譜に気付いたのか上にあった一枚を手に取る。未だ半分しか書かれていない音符を紡ぐようにハミングをすれば春歌は自然と目を閉じた。優しい声。カミュが歌うだけで春歌の全身を暖かい何かが包み込むような、不思議な力に心も暖かくなっていく。

「先輩に歌って貰うだけで、すごくすごく幸せな気持ちになります。……この子もそう思っていますよ」

 春歌が自分の腹をゆっくりと撫でる。ぽっこりと目立ち始めたお腹。芽生えた新たな命にカミュも春歌の掌に自分の掌を重ねた。ぽこぽこと聞こえる音は幸せを告げる鐘のようで二人を優しい気持ちにさせる。

「……ここに、いるんだな」
「ええ。ちゃんといますよ」

 カミュが頭を春歌の腹へと下ろしたかと思えば突然腹へと口付けを落とした。突然の行為に春歌は思わず短い声を上げれば、釣られたのかお腹の音もぽこぽこと鳴った。

「家族……か。悪くはない、な」
「……先輩」
「なんだ?」
「まだ、わたししてもらってません」

 ぷくりと頬を膨らませれば桃色の頬が夕陽に照らされてオレンジ色へと変わっていく。母へと変わっていくのに、まだ少女のような愛くるしい仕草はカミュの心をくすぐらせ、愛しいと言う気持ちが溢れ出てきてしまい止められなくなる。

「…ただいま、春歌」
「おかえりなさい……クリスザード」

 愛しい想いの分だけ何度も口付けを繰り返した。







カミュドルソン試聴聞いたら指が止められなかった!!!
結婚おめでとうございました!!!(過去形)



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