かわいいふたり | ナノ


かわいいふたり





※色々と捏造しておりますので、ご注意ください。






 
 私はネコ。名前はミケ。蘭丸が付けてくれたの。素敵な名前でしょ。蘭丸って言うのは私の飼い主…じゃないけど、よくご飯をくれる飼い主みたいな人。今ではすっかり家族でお世話になっている。
 蘭丸と初めて出会ったのは、このアパートで。お腹が空いて鳴いていた私に蘭丸がご飯をくれた。嬉しくて私は何度も蘭丸の部屋に通い詰めた。蘭丸はいつも眉の間に皺を寄せて「来るなって言ってんだろ」って言いながらご飯をくれる。蘭丸はとっても優しい人。人間は私たちを見ると捕まえたり、運が良い子はそのまま綺麗なお家に連れて行かれる事もあるけど、私たちのほとんどは世間から疎まれて怖い所へ連れて行かれるの。そんな中、蘭丸は私たちを束縛せず、自由に生きさせてご飯もくれる。そんな蘭丸を慕ってくるネコはたくさんいるけど、私の主人もその内の一匹。名前はタマ。この名前も蘭丸が付けてくれた素敵な名前。私たちは蘭丸からご飯を貰いに行く時に出会って結婚した。後で聞いたけど蘭丸は私たち夫婦のきゅーぴっとって言うものみたい。
 私たちは蘭丸に出会えて幸せだった。だけど蘭丸はいつも寂しそうな顔をしている。音楽が好きで大好きな曲を聞いている時でもどこか辛そうで、私たちは蘭丸と話す事は出来ないから、寄りそって側にいる事しか出来ない。だけど私たちの想いに気付かない蘭丸は私の喉を撫でるだけだった。(あっ、そこは弱いの…)


 そんな蘭丸が変わったのはコンクリートの熱さが和らぎ始めた季節の事だった。何だかイライラしている蘭丸。理由は分からなかったけど、蘭丸が家で怒っている様な顔をするのを見るのはここに来てから初めてだったからよく覚えているの。その理由が分かるのはもっと後の事だけど。
 そしてある日、蘭丸が家に女の子を連れて来た。すごくビックリしたわ。だって蘭丸が部屋に女の子を連れてくるなんてなかったから。お部屋には入れなかったけどその日蘭丸と女の子が出てくる事はなかったわ。後で主人に聞いたけど女の子は「春歌」って名前で、蘭丸が凄く優しそうな顔をしていたと言う事だけ聞いたの。後日お部屋に入ったら今までになかった可愛らしいクッションが置いてあって、時々すごく幸せそうな顔でそのクッションを見ていたのも良く覚えているわ。蘭丸がすごく幸せそうで、何だか私も嬉しかった。


 だけどその日から女の子がお家に来る事はなかった。それから時折幸せそうだった蘭丸の顔が段々と曇っていくようになってしまった。私は難しい事は分からない。蘭丸を慰めようとしても蘭丸は気付いてくれない。それどころか私も邪険に扱おうとする。蘭丸を幸せそうにしてくれたのはあの女の子だから、きっとあの子が来れば…と期待していたけど、だけど蘭丸は変わらなくて私は悲しかった。主人も気持ちは一緒で…だけどそんな時に私のお腹に子供がいる事がわかったの。蘭丸に報告して少しでも笑ってもらおうと、まだ目立たないお腹を抱えて行っても蘭丸の部屋の扉は閉められたまま。主人に無理はするな、と言われても私は蘭丸が大好きだから、主人に会わせてくれた切掛けを作ってくれなければ、このお腹の子も出来なかったから…だから私は蘭丸に会いに行った。その日は雨が降りそうな程の曇りが掛かり始めていた。今日も蘭丸を待つ私たちにあの女の子が来た。きっとこの子で蘭丸は戻ってくれる。今度こそきっとと想いを込めて蘭丸の部屋の扉を引っ掻けば蘭丸は扉を開けてくれた。女の子は蘭丸の部屋に入って私たちには難しい話をしていたけど、蘭丸が歌い始めて私たちは安心した。蘭丸が凄く素敵な顔をしていたから。ここに通い始めてから見た事のない表情。もう蘭丸は大丈夫。ほっとした私は寝床へと戻って行った。


 もうしばらくは蘭丸のお部屋に通えない。そろそろお腹も大きくなってきて、今まで出来ていた事が辛くなってきた。主人は蘭丸のお部屋に通ってくれて近況を教えてくれる。「凄く幸せそうだよ。きっとお前が子ども生んだら喜んでくれるよ」主人の言葉に励まされて、そして蘭丸とあの女の子春歌が幸せになりますように、と二人に比べれば小さすぎる身体だけど私はずっと願っていたのよ。
 それから子どもが無事に生まれて、もう歩けるようになったから蘭丸に見せに行こうと私たちは家族で蘭丸の部屋へと歩き始めた。まだまだ人間の世界は怖い所もあるけど、今から行く所は私たちを大切にしてくれる人だからと言えば、子どもたちは小さな声で返事してくれた。そうだ、蘭丸に名前を付けて貰おう。きっと素敵な名前を付けてくれるわ、と扉の前を爪でかりかりと引っ掻けば出て来たのは春歌だった。ビックリする私たちを余所に春歌の後ろから顔を出した蘭丸も凄く驚いていたの。ん? 蘭丸って私が妊娠しているの知らなかったの? そう言えばまだお腹が目立っていない時にしか来ていなかったわね、と鳴いても蘭丸たちに私たちの言葉が分かるはずがない。それより後ろで鳴く子どもたちにもご飯が欲しいと促すように部屋を入ればいつものご飯を用意してくれた。


 久しぶりに見た蘭丸はすごく幸せそうだった。お腹の上に乗せた私たちはそのままに春歌に甘えている姿はまるで今私のお腹の中で眠っている子どもたちのよう。きっと蘭丸にとって春歌は唯一甘えられる存在で幸せにしてくれる大切な人なのね。蘭丸が幸せそうで嬉しい。私はその幸せの気持ちのままゆっくりと目を閉じた。
 それから幾日たっただろう。蘭丸と春歌はいつ行っても仲良しで。蘭丸がいない日は春歌が私に蘭丸の事話してくれて、春歌がいない日は蘭丸が春歌の事を話してくれて。詳しい事はネコの私たちには難しくて理解できないけど、二人の幸せそうな表情を見るのが何よりも嬉しかった。
 そんなに仲良しなら、きっと子どもが生まれてくる日も遅くないでしょう。だって毎日のように仲良くしているんだから。二人の子どもが生まれたら、私にも名前を付けさせて欲しいわ。だって私の方が夫婦としては「先輩」なんだから、それ位口を出したっていいでしょ?
 大好きな蘭丸と春歌。私にとって大切で大好きなかわいいふたり。いつまでも私と主人みたいに仲良しでいてね。






ワンライ企画お題【かわいいふたり】から。
一回猫さん視点で書いてみたかったんです、と言い訳。
猫さんの年齢は流石に分からないですが、人間に換算すればお姉さんかなと思ったので少しお姉さん口調にしてみました。
苦手な方いたらすみません!



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