ネコネココネコサンプル1 | ナノ



サンプル1(冒頭)

 寒風吹き荒れる外とは対照的に事務所の中は暖かく震える事は微塵もないはずなのだが、廊下を歩く三人はこれから起こりうる事態を想像し身震いを起こしてしまいそうになる。柔らかな夕陽が窓から差し込むが今はその暖かささえも感じない程だ。
 事の発端は今年のシャイニング事務所での新年会の出し物であった。昨年は予想外のアクシデントにより優勝はおろか最下位になってしまい今年こそはリベンジだと闘志を燃やし再び同じメンバーで臨んだのだが、再び予期せぬ展開が起こり二年連続最下位となってしまったのだ。そして今日は最下位チームに贈られる罰ゲームの施行日なのである。
「去年の事を思うと胃が痛いね」
「あぁ、去年は……うぅ、思い出したくもない」
 昨年の罰ゲームはシャイニング早乙女の飼っているペットの世話を三日間世話すると言う内容であった。名目だけであれば難しくないと思えるが、レンは狼たちに襲われないか心配で一睡も出来ず、真斗は苦手な虫の世話を任され心身ともに疲労困憊し、まさに罰ゲームの名に相応しい罰ゲームではあった。また今年も同じ内容だったらと思うと心臓が痛くなるのか二人とも無意識に左胸を抑えこんでいた。
「ったく、だらしねぇな。決まっちまったもんは仕方ねぇだろ、腹くくれ」
 一方の蘭丸は以前も似た類の獣を世話した事もあり、昨年の罰ゲームは二人と比較すれば軽い物ではあった。だがシャイニング早乙女の事だ。突然の思いつきや自身が面白いからを理由に突拍子もない罰ゲームを行うことなどは想定の範囲内ではあるのだが覚悟を決めるしかない。既に眼前に広がる大きく頑丈そうな社長室の扉の前で一息つく間もなくノックし扉を開いた。
「ハッハッハッハー。よく来ましたネ、三人とも」
「呼ばれたんだから来るのが当たり前だろ」
 三人が挨拶をする間もなく机の上でまるでフィギュアスケートの様なスピンをしたかと思えば、効果音が付きそうな程に綺麗に三人へ向かって指さす姿を見せつけたシャイニング早乙女に蘭丸は既に呆れ顔だ。レンと真斗はこれから起こる罰ゲームに危惧しているのか、表情はやや曇ってはいるものの先程のように左胸を抑える様子は見せず蘭丸より一歩後ろへ下がりシャイニング早乙女を見つめている。
「面倒くせぇから早く罰ゲームの内容言えよ」
「オーウ、そうでした。YOUたちには今回もキツーイ罰ゲームを受けて頂きまーす」
「あの、出来れば、むむ…虫は勘弁して頂きたく」
「聖川。ボスにそんな事言うのは無謀だって分かってるだろ」
「あー、もうおまえらうっせぇな。男なら大人しく何でも受けろ!」
 背後で話すレンと真斗を諭すかの如くぴしゃりと言いきった蘭丸に二人は唇を一文字にし視線をシャイニング早乙女にだけ注ぐ。どうやら覚悟を決めた様だ。蘭丸も気だるそうではあるが、既に腹は決まっているのか早くしろと言わんばかりにシャイニング早乙女を見つめる。
「YOUたちの罰ゲーム。それは……………ミーの可愛いペットのお世話デーーーーース」
「はぁ? 去年と全く同じじゃねぇか」
「あああああああ、ま、またあの虫と」
「出来れば、狼だけは避けて欲しいな……」
 答えられた内容に三人は愕然とする。レンと真斗は昨年の悪夢と言える出来事を思い出して頭を抱えているのだが、蘭丸は昨年と全く同じ内容である事に疑問を呈していた。シャイニング早乙女が何の考えもなしに二年連続同じ罰ゲームを行うなど考えにくい。むしろ絶対に違う事をやるはずだ、と蘭丸は何か裏があるのではないかと疑ってかかる。蘭丸の視線の意味すらも理解出来たのかシャイニング早乙女は緩やかに口端を上げた。
「もっちろん昨年と同じではあーりませーん。YOUたちにはミーの可愛いロドリゲスちゃんアーンドそのお友達のお世話をして頂きまーす」
「ロドリゲスって……」
「確か社長が飼っているライオンかと」
 YOUたちと複数形で指された事によりレンと真斗は安堵する。真斗は苦手な虫でなければ何よりであり、レンも三人いれば交代制で眠れない夜を過ごせないと言う事はなくなる。何より以前に虎の世話をしていた蘭丸がいるのだ。獣の扱いには慣れているはずであり、以前に比べれば何百倍もマトモになっている罰ゲームは罰とは言えど喜ばしいものに近い。
「チッチッチ。もちろん普通のお世話するのでは面白くありませーん。なーのーで、YOUたちにはこれを使って頂きまーす」
 シャイニング早乙女が懐から取り出したものは、試験管に入ったピンク色の粉末だった。窓から差し込む夕陽を浴びて光り輝くショッキングピンクは明らかに毒々しく三人とも思わず後ずさりをしてしまう。
「そ、それは一体……」
「これはミーが作ったライオンの気持ちが分かる特製の粉デース。YOUたちにはこれを使ってミーの可愛いロドリゲスちゃんたちの面倒を見て頂きマース」
「明らかに毒物じゃねぇか。おれは断るからな」
 蘭丸がくるりと振り返りドアノブに手を掛けガチャリと回すがノブは動かない。何度も音を立てながら回すも虚しい音が聞こえるだけだ。鍵がいつの間にか掛けられていたのだろう、と気付いた時には後ろを振り向けばシャイニング早乙女が高笑いをし、三人へと迫る。いつもは冷静なレンも冷や汗を掻いており真斗に至っては目尻に薄らと涙を浮かべている。舌打ちをした蘭丸は悪いと思いながら足を上げ、扉を思いっきり蹴った。


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