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怖い話か。そうだね、僕が実際に体験したことで、こんな話があるんだけど聞いてくれるかな。前に、母さんのお姉さん、つまり僕にとって伯母さんに当たる人から市松人形を預かったことがあるんだ。その人形はいわゆる曰く付きの人形で、市松人形によくある髪が伸びるっていう代物だったんだよね。もちろん預かった始めはそんなこと信じなかったよ。なんていうか、市松人形の髪が伸びるって、あからさまな怪談みたいだなぁと思って。でもね、髪、伸びたんだ。市松人形を預かった翌朝見てみたら、確かに伸びてるんだよ。あれは驚いたなぁ。でもその伸びきった髪に、なんだか不満そうにしてたんだよね。その市松人形。だから姉さんのヘアゴムを借りて一本に結んであげたんだ。そうしたら、どうなったと思う?それが朝の出来事で、僕が学校から帰ってきたらその市松人形は怒ってたんだよ。怖い顔をして、帰ってきた僕を睨みつけていたんだ。ああ、気に入らなかったんだって思った。だから次の日から二つに結んでみたり、お団子にしてみたり、三つ編みにしてみたり、姉さんに教わって色々と試行錯誤してみたりしたんだけどどれも嫌がるんだ。人形も毎日髪を弄られて我慢の限界が来てたのか、段々表情が般若面に近づいてきてね。ラップ音はするしポルターガイストの一種なのか物が勝手に動いたりして、裕太なんかすごく怖がってたなぁ。挙げ句の果てには兄さんのせいだ、何とかしろ!なんて泣きながら怒るし。懐かしいや。ホント、裕太は昔から怖がりで……え?市松人形?ああ、そうそう。そのあとね、僕はあることを思いついたんだよ。父さんの散髪用のハサミを借りて、市松人形の髪を短くしてあげたんだ。今考えたらショートボブの市松人形なんて珍しいよね。でもすごく似合ってたよ。人形も気に入ってくれたみたいで、最終的には笑うショートボブの市松人形になって伯母さんのところに帰ったよ。それからは全然髪が伸びなくなったって伯母さんも喜んだみたい。めでたしめでたし。

「え、不二。それで終わり?」
「うん、終わり。良い話だったね」
「こ、怖い話じゃ」
「ん?」
「……まあ、良いか」

母さんに紅茶貰ってくるね、と部屋を出た不二を見送って私は小さく息を吐いた。怖い話なのか良い話なのか、私には判断がつかない。なにせ、怖い話と話始めた不二が終わりにはめでたしめでたしだなんて言ってたんだから。……あれ、こんなとこに長い髪の毛が……ん、何これどこまで……え、ちょっと長、あっー

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