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「赤也、大好き」

左の頬に添えられたなまえの手はひんやりとしている。最早俺にはその手を握り、俺もだなんて返してやることは出来なかった。彼女の重すぎる愛情を疎ましいと思うようになったのはいつ頃だっただろうか。惰性でズルズルと関係を続けて来てしまった。……いや、そうじゃない。俺は今でもなまえが好きだ。惰性なんかで付き合い続けられるほど今の関係は生半可なものじゃないんだ。――いつからだっただろう。その手を振り払えば壊れてしまうんじゃないかというほどに、なまえが変わってしまったのは。

「赤也も私のこと好き?」

初めて出会って、付き合い始めて、なまえと過ごす毎日がとても楽しくて。そんな今はもう遠いことのように思える記憶の中のなまえと、目の前の彼女は何ら変わりが無いように見える。

「ねえ、赤也聞いてる?」

なまえが不機嫌そうに俺の顔を覗き込んだ。頬に添えられていた手はいつの間にか軽く摘まれていて、けれど痛くはなかった。痛いのは、別のところだ。

「……俺も好き」

だった。繰り返すようだけど、今はそうでないのかと言われたら今だって好きだ。でもあの頃とは違う。なにが違うんだって言われてもよくは分からない。

「良かった」

ただ、好きだと言えばホッとしたように笑うなまえは変わってしまったように思える。どこがなのかは、相変わらず分からないけど。

「なんでそんな嬉しそうなんだよ」

独り言のように零した言葉をなまえは拾い上げ、首を傾げながら答える。――赤也と一緒だから。俺と一緒だから。ふと、それが当たり前のことなんじゃないかという思いが掠めた。彼氏彼女が一緒にいる時間、それは二人にとって特別な時間に違いない。今だってきっとそう、傍から見れば俺達だって幸せなカップルに見えるのかも知れない。それならば、有りったけの幸福に浸された俺の頭は麻痺しているようだ。なんだ、俺が、おかしいのか。

「ずっと一緒にいようね。そしたら私達、ずっと幸せだよ」

変わってしまったのは、俺の方だったのか?無力な俺はもう止めてくれとも叫べずに、ただ彼女の幸せそうな笑顔に胸を抉られる。

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