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そろそろと音楽室の中を覗くと、お目当ての人物はすぐに見つかった。何度も何度もやり直して漸く満足のいくラッピングが出来たチョコレート。今日こそ、いや今年こそは絶対榊先生に受け取って貰うんだ。

「榊先生」

ピアノの椅子から腰を浮かせるタイミングを見計らい、思い切って声をかける。

「ああ、君か。何か用かな」
「あ、あの」

お、思っていたより緊張する。というより用件はバレバレな気がする。今日という日にチョコレートを持って会いに来る、といえばつまりそういうことだ。

「……用がないなら」

勿体振るつもりはないものの、なかなか煮え切らない私に榊先生はあの射抜くような視線を向けた。かっこいい。じゃなくて、

「ああ!待って!用!あの!あ!」

慌てて引き止めると先生が微かに笑ったような気がした。

「あ、バ、バレンタインですね、今日……」
「ああ、鈴木先生がチョコレートを渡しにきていたよ」

ドキリと心臓が弾む。鈴木先生と言えば上品な大人の色気ムンムンの美人英語教師だ。おまけにナイスバディ。勝てる要素が見当たらない。

「それって……受け取ったんですか?」

思わぬライバルの出現にどぎまぎしながら聞くと、

「丁重にお断りしたよ。一番に受け取りたい相手がいるのでね」

榊先生はそう言ってまた私を見つめた。その視線にドキドキしたが、同時に不安の波が押し寄せる。

「……もう、その人からは受け取ったんですか」

先生がそんなに気にかける相手はどんな人だろう。聞きたくないような、聞きたいような。一瞬の筈の間が長く感じられた。

「いや、まだだ」

今度は気のせいなんかじゃなかった。確かに先生は、笑った。

「目の前にいるのだが、なかなか勇気が出ないようでね」

――放課後、音楽室に来るように。居残りだ。そう言って先生は職員室に戻っていった。左手には私からのチョコレート。やっぱり先生は、かっこいい。

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