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朝からみょうじの様子がおかしい。幸村に用事があったため代わりに記入した部誌を手渡した時から様子がおかしい。もう少し突き詰めれば部誌を渡したその時、ほんの少し、一瞬だけみょうじの手に指が触れた。まさかそんなことで心臓が跳ねたのかというくらい飛び上がられ、走って逃げられるとは思いもしなかったが。

「今までみょうじさんを見ていたら気づかないほうがおかしいんだけどね」とは幸村の言葉で、「弦一郎はこういったことに関しては極端に疎いからな」とは蓮二の言葉だ。まあ、頑張れよと二人は行ってしまった。何を頑張れというのだろうか。

そういえば手が触れた時に小さな悲鳴さえ上げられた気がする。もしかすると、みょうじは俺のことが嫌いなのだろうか。最近、俺が声をかけようとするとそそくさと別の部員に逃げて行ったのはそのせいだったのか。よく幸村や蓮二と話していることが多いと思ってはいたが、もしや俺についての相談か?知らず知らずの内に彼女を部活内の人間関係に悩ませてしまっていたのか。確かに俺はそういったことには疎いし配慮も足らない。ならば直接言ってくれれば……いや、それが出来なかったから二人に相談を持ち掛けていたのだろう。俺としたことが、知らなかったとはいえ部内の調和を乱していたことになる。……だがそれ以上にこの心がざわつく感じはなんだ?

「……俺に触れられたのがそんなに嫌だったのか?」

声に出して見るとなかなかに自分らしからぬ響きだった。他の者になんと思われようと自分の正しいと考えることをしてきた。みょうじへの接し方も長く付き合い気が知れた仲だが、他の女子よりも柔らかく接してきたつもりだ。彼女はよく気が利いて人当たりも良かった。だからこそ尚更、男ばかりの部内で気後れしていないか、部員との関係は上手くいっているのか……そんないつもなら余計だと思うことまで気に掛けるようにしていた。ただのマネージャーやただの女子ではなく、俺にとって大切な存在だと気づいていたからだ。「なまえ」と、普段呼ばない彼女の名前を口にしてみる。なぜだか、息が、胸が、苦しくなった。「真田くん」と背後から泣きそうなみょうじの声が聞こえてきたのはその時だった。

「なんだ、結局ハッピーエンドか」
「差し詰め俺達は恋のキューピッド、といったところだな」

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