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従姉妹と昼食を取ることになった。従姉妹と言ってもまだ五歳にも満たない園児だ。歩けば危なっかしく走れば転び、目を離すことなど到底出来ない。そんな従姉妹と公園でピクニックとやらをすることになったのだ。出発する前に叔父にピクニックとは何かと問えば遠足だ、と笑われた。

よく晴れた日だ。従姉妹も先ほどから機嫌がよく、繋いだ手をぐいぐいと引っ張っていく。右手に女児、左手にはバスケット。なんとも己に似合わない様相だ。

「げんちろー、ついた!」

太陽を背に振り向いた従姉妹の笑顔が眩しい。紐付きの麦藁帽子と白いワンピースが子供らしくよく似合っている。走った拍子に見えた膝は絆創膏だらけだった。

「だっこ!ぶーんってして!」
「ブ、ブーン?」

従姉妹が両手をいっぱいに突き出し、ブーンを強請る。ブーンとは何のことだろうか……叔父に前以て聞いてくるべきだった。取り敢えずだっこをしてやる。軽い。軽すぎる。幸村の打球より軽い。目線より少し上に持ち上げると従姉妹はきゃっきゃと声を上げて笑った。どこぞの可愛いげの無い後輩とは大違いで実に愛くるしい。

「げんちろ、ぶーん!」

……よくわからないがとにかく回ればいいのか?とその場で捻りをつけて回るとまたも笑い声を上げた。もっと、もっとーとせがまれるままに回り続けたが疲れて抱っこの体勢に戻すといきなり首筋に抱き着かれた。

「っ!?何をして……!」
「あのね、げんちろー、おじいちゃんとおんなじにおいがするー」

言葉が出なかった。


しばらく遊具で遊ぶといつの間にか昼になっていた。傾いていた陽射しも頭上に来ており、従姉妹の麦藁帽子が大きな影を落としている。 疲れを見せない彼女に昼食を促すと元気に頷いた。適当なベンチに座り持参した濡れティッシュで手を拭かせ、バスケットを開けるとトマトやレタスが挟まれたサンドイッチが入っていた。サンドイッチなどいつぶりだろうか、と眉を潜めると足をぶらぶらしながら従姉妹が嬉しそうな顔をした。

「げんちろーも、とまときらい?」

そうだった。この従姉妹はトマトが嫌いなのだ。昨夜叔母が手製したサラダのトマトだけを残していた。 好き嫌いはだめよ、という叔母の言葉を思い出す。

「いや、嫌いではない。寧ろ好きな部類に入る。いいか、好き嫌いをしていては大きくならないぞ」

言い聞かせるように語りかけると、えー……と言いながら落胆した様子で俯く。挙げ句の果てに唇を僅かに突き出し不満をあらわにしていた。普段、赤也相手になら説教するところだがそうもいかない。小さな子供相手なのだ。下がってしまった小さな頭を帽子ごとぐりぐり撫でてやるとぱっと表情を変え嬉しそうに笑った。子供というのは単純で可愛いものだ。

「えへへ。でもね、すきなものもあるんだよ!」

にこにこと笑う従姉妹に思わず頬が緩む。少し大きめに作られたサンドイッチは彼女の小さい手には大きく、顔と並べるとまさしく同じサイズだった。一口、トマト入りのサンドイッチを頬張りなんとも言えない表情で咀嚼する彼女はやはりあどけなく子供らしい。

「ほう、好物か。何だ?」
「えっとね、はんばーぐと、けーきと、えだまめと、りんごと……」

子供が好みそうな料理を片手で指折り数えだし、もう片方の手に持たれたサンドイッチが不安定になる。レタスがずれ、トマトがずれ……あ、と気づいた頃には半分以上はみ出していた。そのままはみ出した部分を食べようとしていたので直してやると、ありがとうと笑った。

「……でもね、いちばんすきなのはげんちろ!おかおはこわいけどやさしいからだいすきだよ!」

真っすぐに見つめられ、不覚にも動揺する。……い、いや、だが、この場合の好きとは恋愛が絡まない好き、であって……まだ年端もいかないのに早過ぎる、世間の目が……と見つめ合いながら色々なことが脳内を駆け巡った。その間に彼女はサンドイッチに向き直り、再び複雑な面持ちで食べだしていた。異変に気付き己の頬に手を当てると、じんわり熱を帯びていた。

遊び疲れて寝てしまった彼女を背負う帰り道。すぐ傍から聞こえる小さな寝息に緊張した。彼女が俺くらいの歳になる頃には、今日のことなど……忘れてしまっているのだろうか。

砂糖菓子さんに提出。
ありがとうございました。

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