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「お前は、それでいいのか」

真田が珍しく目を逸らしていた。いつもはこっちが自然と目を逸らしたくなるほど真っすぐに見つめてくるくせに。久しぶりに見つめた真田の顔はやっぱり老けていた。

「お前がそれでいいと言うのならば俺は何も言わん」

肌のハリは中学生のそれなのにどうしてそんなにも老けることが出来るのだろう。大人びた、を通り越して老けることが出来るなんて実に器用だ。ちなみに柳や精市は大人びた、に当て嵌まる。

「だが、皆お前を心配している」

精市と並ぶとあたしはただでさえ幼く見えてしまうのに、真田と並んだこの図はどれ程奇妙なんだろう。先生と生徒くらいには見えている筈だ。禁断のイケない関係……なんちゃって。

「……おい、聞いているのか?」

真田には悪いけれど、正直聞いていなかった。同じような小言は柳や柳生くん、仁王にも聞かされていたからだ。みんながあたしを心配してくれているのは知っている。それはとても嬉しいしありがたいことなんだと思う。いい友達に恵まれたとも感じる。でも所詮あたしは精市のおまけだ。精市の幼なじみで彼女という立場が、人気者の彼らとの繋がりを作った。そんな立ち位置が無かったらあたしは彼らと知り合うことも無かっただろう。

「聞いてるよ、真田。心配してくれてありがとう。でもこれはあたしと精市の問題だから口出ししないで」

半ば八つ当たりに近いその言葉を真田に投げつける。彼はたじろいだ様子であたしを見た。悲痛とも言える視線を向けられ胸が痛む。なんだ真田、そんな顔も出来たんだ。悲しむとか焦るとか、そんな表情見たこと無かったよ。出来ないんだと思ってた。そう思わせる強さが、いつもの彼からは溢れ出ていたから。

「真田、そんな目で見ないでよ。あたしが虐めてるみたいじゃん」

すまない、と真田が目を逸らした。調子が狂う。真田なら真田らしく叱ったり小言を垂れ流したりすればいいのになんで今日に限ってそんなに優しいの。優しくされたら参っちゃうよ、傾いちゃうよ。女の子なんてそんなもん。だから、いつもの真田らしくいて欲しいのに。だから、みんなを振り払って真田のところに来たのに。真田まで優しいなんて反則だよね。

「ホントはね、ずっと前から気づいてたんだよ。でもね、真田。あたしと精市が別れたとしてもそれは別に構わないの。ただ、あたしはあたしの場所を彼女に奪われるのが嫌なの。精市の彼女になって、みんなと友達になった。みんなあたしと仲良くしてくれた。毎日がすごく楽しくて幸せだった。そんなあたしの場所を、奪われたくないの」
「……なまえ」
「でも真田が言うなら、別れようかな。そのかわり週七くらいでメールしてくれたら嬉しいかも」

なんて、と笑おうとした時。ありきたりな恋愛ドラマみたいに真田があたしを抱きしめた。身長差が有りすぎて目の前は真っ暗だし、一瞬なにが起こったのかわからなかった。女の子を抱きしめたことなんてなさそうな真田だから、抱きしめる腕がすごく堅くてびくともしない。振りほどこうにも解けず、仕方なくあたしは込み上げる涙を我慢せずに流した。真田の腕は全然優しくない。精市みたいに柔らかくないし撫でてもくれない。それなのに、とても、暖かかった。

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