111 | ナノ

※暴走系変態少女

皆さん初めまして!こんばんは!なまえでーす!外は明るいけれど時刻は深夜、わたしは司法の塔の長い廊下を、剃を使わない程度に猛ダッシュしていまーす。え、なぜって?それはね、

「まッ待てコラァアアッなまえッッ」

我らがCP9の司令長官であり、わたしのだーいすきなスパンダムさんに追いかけられてるからだよー!あっはっは、あんなに息が上がっちゃって、絶対わたしには追いつけないのになんて可愛いひとなんでしょう!

「待てと言われて待つブワァカはいませんのよ!オホホホホ」

ついでに壁なんかも走ってみたりして、隙をついてUターンして月歩で長官の頭上歩いてみたりして、そんなことをしているといよいよスタミナ切れなのか、長官は廊下の真ん中で立ち止った。肩で息をしながら、けれど相変わらず鬼の様な形相でこちらを睨んでいる。

「あら、もう終わりですか、長官。愛の追っかけっこ楽しかったのにー」
「……う、うる、せェ。おれはお前らと違って無駄に体力有り余ってねーんだよ!こうなったら最終手段だ!ルッチィ!!」
「げ、ちょっと待って長官、ルッチは反則、」

長官が手にした子電伝虫に怒鳴りつけると、どこからともなくルッチが現れる。お呼びですか、長官、と問うルッチはなんだかとても機嫌が悪そうだ。これはマズイ、とってもマズイ。

「反則もクソもあるかァ!さっきから六式使って人をおちょくりやがって!おれは長官だぞ!ルッチ!あいつの持ってるアルバムを奪ってこい!」
「……長官殿のご命令とあれば、了解」
「了解しないでルッチ!完全に任務外だからこれ!そんなに安く使われていいの!?」
「先程からドタバタと、おれの安眠を妨げるお前を片付けられるなら利害が一致している。大人しく捕まれ。剃」
「ぎゃあああ、来たー!ごめん、ごめんなさい!てかルッチそれガチ剃!おこなの?おこなのー!?」
「おこだ。バカやろう」

先程までの長官との追いかけっことは違い、今度は命がかかっている気がする。ルッチに追われているターゲットの気分ってこんな感じなのだろうか、恐ろしい。恐ろしすぎる。とにかくどこか、そうだ、女子トイレにでも逃げ込めれば勝機があるかもしれない。もし入ってきたらフクロウに変態って言い触らして貰おう。

「みゃッ」

あれこれ考えて余所見をしているうちに、ばふ、と思い切り何かにぶつかった。何か、が何かを慌てて確かめるとそれはなんとも下衆な笑みを浮かべた長官だった。衝撃で少し後ろに吹っ飛んだものの、長官はわたしをしっかりガッチリ足まで使ってホールドしていて、抜け出すのは難しそうだ。

「よーし、よくやったルッチ!やっと捕まえたぞなまえ!そのアルバムを寄越せ!」
「い、嫌です!これは、これだけは!」
「おい!おれがこいつ抱きしめてるから横から抜き取ったれ!」
「えええ嫌あああやめてルッチィイ」

必死の抵抗虚しく、ルッチの手によってアルバムはあっさりと抜き取られてしまった。思わぬ強敵の出現により完全敗北したわたしは、せめて長官にもっと抱きついとこうと腕を伸ばしてみるも、剃を習得したのですか!というくらい素早い動きであっさりとかわされた。もう泣くしかない。

「それ、中身はなんです?」

床に伏せって泣き喚くわたしをよそに、ルッチが長官に尋ねる。あー、とか、その、とか曖昧な返事をする彼の代わりに、わたしは床を叩きながら中身を説明した。

「そのね、中身は、」
「バカ!言うんじゃねェ」
「朝起きた直後の寝癖のついた頭であくびをする長官に、歯磨きして口の端から歯磨き粉が垂れちゃう長官、朝食のミルクを吹き出してちょっとアレな絵になった長官、一人で仕事しながらファンクに話しかけてる長官、自分の足に躓いてすっ転ぶ長官、トイレで紙が無くなっちゃって慌てる長官、机に頬杖ついたまま寝ちゃう長官、シャワー浴びた後着替えが無くなってて困り果てる長官、長官のおはようからおやすみまでを完全網羅した、わたしのこれまでのCP9人生を総括して撮り貯めたふぐぁッ」
「長官、それではおれはこれで失礼します」
「ああ。こんなことに呼び出して悪かったな」

ルッチの容赦ない一撃を喰らい床に突っ伏す。うう、ひどい。せめて最後まで言わせて欲しかった。わたしのこれまでのCP9人生を総括して撮り貯めた、愛の、メモリー……。

「おいなまえ、これに懲りたらもう盗撮なんてすんなよ」
「嫌ですぅ生き甲斐なんですぅ」
「……ったく、部下に盗撮されて弱味握られる上官がどれだけ情けねェと思ってんだ」

へ、と思わず間抜けな声が出る。あれ、なんか、この人。わたしが盗撮する理由、とんでもなく勘違いしちゃってたり、する?わたしが長官の弱味を握りたくて、盗撮してると、思ってる……?

「え、違う」
「あァ?なんだいきなり、何が違うってんだ」
「わたしがわざわざトイレットペーパー隠したり、着替え隠したりしてまであなたの隠し撮りしてたのは、」
「あれやっぱりお前の仕業か、変態め」

罵られた瞬間に、ぞわ、と鳥肌が立つ。と同時に、気持ちが昂ぶるのを感じる。変態め。彼の言葉がわたしの中でかちりとはまった様な気がした。そう、変態なの。わたし、アイアム、ヘンタイ!

「いや、違うでしょ。何言わせるんですか」
「はァ?違うくねーだろ」
「それはそうなんですけど、えーっと。わたし、別に長官の弱味なんて握ろうと思ってませんから」
「……じゃあなんだってんだよ。お前がそこまでしつこく、諦めの悪い理由はよ」
「好きだからです」

へ、と今度は長官が間抜けな声を出す。嘘でしょ、ちゃんと言ってなかったわたしも悪いんだろうけど、普通気づくでしょこの鈍感なおっさんめ。どうりでさっき、わたしを捕まえるためにあんな抱きしめ方したんだなぁ。意識してないんだもの。

「……なんだか疲れちゃいました。もう、寝ましょうか。おやすみなさい、長官」

アルバムはまた後日、処分される前に取り返そう。っていうかネガがあるからもう一冊作ろう。とにかく今はどっと疲れが出て何もする気力が湧かない。廊下に棒立ち状態の長官に手を振り、ふらふらと歩き出すと、わたしの名前を呼ばれた気がして振り向く。

「今度は、」
「え?」
「今度は、盗撮じゃなくて、堂々と撮りにこい!」
「……それってなんだか、告白、みたいですね」
「ち、ちッげぇよブァーカッ。早く寝ろ!じゃーな!」

ちょっと待ってくださいよ。早く寝ろ、だなんて。わたし今夜はあなたのせいで、よく眠れそうに無いんですが。







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