111 | ナノ

※現パロ。探偵事務所×CP9

頭上の蛍光灯がちらちらと瞬いている。いつからだっただろうか。気づいてしまってから気になって気になってしょうがないが、生憎今男共は全員調査で出払っていて、事務所の中には俺となまえしかいなかった。明日になればカクが調査を終えて帰ってくる予定だが、ええい、それまで待っていられるか。バン、と机を叩いて立ち上がると、報告書を作成していたなまえがビクリと体を震わせた。

「し、所長?どうかしましたか?」
「これだよ、これ!お前は気になんねェのか!」

ビシ、と蛍光灯を指差すと彼女は曖昧に頷いた。

「所長でも、気になるんですね」
「あァ?どういう意味だそりゃ」
「もっと大雑把な人なのかと思ってました」
「減給が望みか」
「ごめんなさい」

からかわれているのか、なんなのか。ますますイライラが募る。こうなったらおれが取り替えるしか無いのか。キョロ、と辺りを見回す。替えの蛍光灯はどこに置いてあるのか。普段はブルーノやクマドリが知らないうちに取り替えているからサッパリ分からん。

「蛍光灯なら、あそこの棚の上です」

そんなおれを見て察したのか、なまえがボールペンを持った手で向かって正面の棚を指した。それは事務所内で一番大きな棚の上で、なんでそんなところに置いてあるんだ!と叫びたくなるのをぐっと堪える。仕方ない、と棚に向かうと、途中トラップの如く巻き散らかされた飴の個包装を踏んづけてぶっ転ぶ。そしてそれはもう盛大に手近にあったデスクに突っ込んだ。

「所長!?大丈夫ですか!?」
「痛たたた……誰だこんなとこに飴ブチまけてる奴ァ!!」

駆け寄って来たなまえに引っ張り起こされ、ヨロヨロと立ち上がる。慣れねェことをしているせいか、踏んだり蹴ったりだ。

「あの、私が替えましょうか?蛍光灯」

痛む腰をさすりながら唸るおれに、なまえは遠慮がちに声をかける。バカ言え、そんなのおれのプライドが許すわけねぇだろう。ここに男と女がいるのに、女に押し付けるのは、おれが偉いということを差し引いてもどうにも格好悪いんじゃねェのか、そりゃあ。

「おれがやるっつってんだ、黙って見とけ」

そう言うと、なまえはなにか言いたそうに口を開いたが、諦めたように頷いた。なんとかそばにあったデスクに登り蛍光灯を手に入れる。なまえは床に散らばっていた飴を拾い集めていて、我ながら良い部下を持ったなと感心する。気合いを入れて今度は自分のデスクによじ登り、半ば切れかけている蛍光灯に手を伸ばした。が、畜生、これまた微妙に届かない。悪態を尽きながら背伸びをするおれを、下から不安そうになまえが見ていた。

「おい、危ねェから下がってろ」
「で、でも……」
「良いから、ってどわァッ」

余所見をした瞬間、デスクの上のボールペンを思いっきり踏んづけ、視界がぐるんと反転した。うわァアアア、と自分でも情けない声が上がる。床に落ちる衝撃に備えぎゅ、と目を瞑った。

「スパンダムさん!」

が、いつまで経っても衝撃は訪れなかった。代わりに、誰かに受け止められたような気がする。気がする、というのは、その誰かに当てはまる人物が今この事務所には一人しかいないため、事実を受け入れるのが怖いのだ。まさか、そんな、なまえがおれを、お姫さま抱っこで華麗に受け止めただなんて。

「大丈夫ですか!?」

その声は矢張りなまえの声で。自分の置かれている状況、つまりこのなまえの腕にやすやすと抱かれている状況をやっと受け入れる。

「お、降ろせ」

なんとかその言葉を絞り出すと、なまえはゆっくりとおれを床に降ろした。おれに怪我が無いことを確認すると、彼女はひどく心配した顔で、けれどどこか怒ったような口調で言う。

「もう、あなたになにかあったらどうするんですか。余り心配かけさせないでください!蛍光灯は、明日まで我慢しましょう?」

それともやっぱり私が替えますか、とまで言うものだから慌てて制止する。なんなんだ、この気持ちは。コーヒー淹れますね、と給湯室に向かうなまえの後ろ姿を見送り、痛む胸を握りしめる。この異常なまでに鼓動が高鳴る理由を、俺はまだ知らない。

君に!
恋する!
5秒前!


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