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今日はお外の天気がよくて、風が柔らかくてとても心地よいというのに、陽射しがあたたかくて気持ちよいというのに、スパンダムさんは難しい顔をして机に向かっている。例え嵐のお天気でも、槍が降ろうが、砲弾が降ろうが、彼は机に向かうのだろうか。想像して、槍や砲弾では無理だろうなあ、おかしいくらい慌てるんだろうなあと思わず笑う。そんな私に気づいて、スパンダムさんが書類を書く手を止めた。

「……なまえ、機嫌治ったのか?」

恐る恐る、といった様子でそう問いかけるスパンダムさんに、ああそうか私は怒ってたんだと思い出す。こののどかな空気に流されて絆されてしまうところだった。再び、わざとらしく唇を横にきゅっと結び、ぷいと顔を背ける。だって、スパンダムさんたら。毎日毎日お仕事で、休息なんてとってるところを見たことがない。たまの私のお休みに、お外で散歩するくらい付き合ってくれてもいいじゃないですか。だからそんなに細っこくて、いつも怒りっぽくて、寝不足みたいな顔してるんです。そんな本音を心の中で吐き出すと、聞こえていない筈のスパンダムさんが浅くため息をつき、私の座っている横長のソファに近づいてきた。

「怒ってると可愛くねーぞ」
「どうせもともと可愛くないですから」
「……そんなことないだろ」

今度は、深いため息。頭をガシガシとかきながら、彼が乱暴に隣に座る。怒ったのだろうか、と見ると私をまっすぐ見つめる瞳と視線がぶつかった。かと思えば、何を思ったのかスパンダムさんが急にソファに横向きに座り直した。そして非常にお行儀の悪いことに、肘掛にそのスラリと長い脚を組んで置き、ごく自然な流れで私の膝に頭を乗せる。これは、あれ、いわゆる膝枕というやつで。驚いて何も言えない私に、「ちょっと借りるぞ」と彼は言い放つ。そこでようやくこの状況が脳に届いたのか、身体中の温度が急上昇するのを感じた。

「あの、えっと、スパンダムさん」

ん、と彼が私を見上げた。窓から吹き込んできた風で薄紫色のきれいな髪が揺れ、彼のシャンプーの匂いが香る。

「嫌か?膝枕」
「い、嫌じゃないです」
「じゃ何だよ」

不満気な顔で頬に触れられ、やっと、彼の意図に気づく。この一見突拍子もないような行動は、彼なりに甘えているのだ、と。そう思うとなんだか余裕が出てきて、彼が甘えてきてくれたことも嬉しくて、口元が緩んでしまう。

「スパンダムさんは可愛いですね」
「お前ほどじゃねーよ」

そう言って彼は満足そうに目を瞑った。し、仕方ない、ここ、こういう日もありなんだから!膝の一つや二つ、スパンダムさんの為ならいくらでも貸しちゃう!……と思わせてくれるから、やっぱり私はこの人が大好きだ。

もっと甘えて

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