SHORT | ナノ

うまくやれたと思っていた。ターゲットのスパンダムという男はそのCP9司令長官というご立派な肩書きに見合わないバカな男だった。わたしが給仕として司法の塔に潜入し、彼に初めて挨拶をした時。わたしを自分の命を狙う暗殺者とは少しも思っていないような態度で頑張れよと笑ってみせた。後に聞けば、実は一目惚れだったんだ、とはにかんだ笑顔で言われた。なんなんだろうこの男は。確かに司法の塔には伝電虫一つで飛んでくる部下が常にいるわけだけど、それにしたって外部からやってきたわたしにどうしてそんなに簡単に心を許してしまえるのか。暗殺業という職に身を置いているせいか、逆に全て知っている上で彼がそんなことを言っているのではないかとも思ったけれど、いつだって彼はわたしの前では他の誰にも見せないような表情を見せた。怒った顔も、笑った顔も、泣きそうな顔も、余裕のない顔も――今となっては、思い出すだけで胸が苦しくなるほど恋しい。わたしも彼のことを言えないほど大馬鹿者だ。愛してしまっていたんだ、彼を。

「これ、いつ撮られたのかなあ」

ぽつり、と呟くわたしの手の中には一枚の手配書。今日の朝刊に挟まれていたものだ。手配されている女は他ならぬ、つい昨日の夜にCP9司令長官の暗殺に失敗したわたし。その写真はいつ撮られたのかまったく身に覚えのないもので、バカみたいに嬉しそうに笑うわたしが写っている。その隣に見切れているのは暗殺されかけたその男、スパンダムさんの半身で。……わたし、あの人の隣でこんなに幸せそうに笑ってたんだ、なんて今はもう遠く思い出すことしか出来ない二人の時間に思いを馳せる。

「どうしようかな、これから」

くしゃり、と手配書が手の中で音を立てる。オンリーアライブ――生け捕りのみ、と書かれたその文章の意味を、わたしはまだうまく飲み込めないでいた。その代わりに浮かんでくるのは、震える手でへたくそに撃ち込まれた銃弾を肩に受けながらも、わたしの名前を呼びながら手を伸ばす彼の姿だった。


ただただどうしようもない程に、会いたい
またあなたの名前を呼びたいなって、
ねえ、それが許されるんですか?

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