SHORT | ナノ

いつも穏やかで優しいコビーくん。けれど、今目の前でわたしの手をとり微笑むコビーくんはなんだかこわい。ああそれもそうだ、だって例え怪我をしていたりしてもいつも爪先まできれいに整えられているコビーくんの手が真っ赤っかに染められているんだから。ぬるり、とコビーくんの手を伝ってわたしの手を濡らしたそれは血だ。よくよく見ればそれはコビーくんの手だけでなく、彼の身体中の至る所にじわじわと滲んでいる。一体、誰の血だろう。

「ね、僕、言いましたよね?」

ああ、そうだ、わたしがいま一番困惑しているのは。長期遠征でマリンフォードを遠く離れている筈のコビーくんが、目の前にいるから。三ヶ月の予定で彼が出掛けてからまだ二週間しか経っていないにも関わらず、あの日行ってきますと挨拶した同じ笑顔でコビーくんがここにいる。

「例えどちらかが死んじゃったとしても」

ほぼ毎日、合間を縫っては伝電虫をかけてきてくれた。昨日だって楽しそうに同僚のヘルメッポさんがお酒を飲んで大変なことになった話を聞かせてくれたし、また明日連絡しますねと約束してくれた。早く会いたいですと言ってくれて、後ろで囃し立てるヘルメッポさんに怒って受話器もそのままに追いかけっこを始めちゃったりして。そんな様子を聞きながら笑うわたしも、いつもと変わらなかった筈なのに。

「僕ら二人、ずっと一緒ですよね、って」

貼り付けたような笑顔のまま、コビーくんが囁く。いつもは暖かな彼の手が、なぜか今日はひどく冷たい。




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