SHORT | ナノ

夢を見たの。そう言って彼女は、おれの上にかろうじて掛かっていた毛布をぐいぐいと引っ張り、遂におれは裸のまま外気に晒されることになった。バカ、寒いだろ、おれが。そう言って毛布を引っ張り返すも、自分を毛布でくるむようにして彼女は抵抗してきた。諦めてため息を吐くと彼女は毛布の中に顔を埋め、くぐもった声で話しだした。そのどこか泣きそうな声に、ドキリと心臓が跳ねる。

「あなたを殺す夢なの。たまに見る、とても怖い夢。夢の中のわたしもね、あなたが大好きなんだけれど、愛しているんだけれど、あなたを殺さなきゃいけないの。でも、失敗する。いつも、いつも、あなたにナイフを突き立てるんだけど、でも殺せないの。ナイフを突き立てた瞬間の、夢の中のわたしの悲しい気持ちが溢れて、夢から覚めた時、いつも泣いてる」

途切れ途切れのその声を聞きながら、じゃあやっぱりこのくぐもった様な声は、毛布に潜っているせいではなくて泣いているせいかとまた一つ、ため息を吐く。

「ブァーカ、おれはここにいんだろ。それに夢の中のおれも死んでねェ。それなのに、なんで泣く必要があるんだよ」

毛布の上から頭のある部分をぐりぐり撫でてやると、それに抵抗するかのように低い唸り声が聞こえてくる。ああ、分かってるよ。おれが死んでるとか死んでねェとかそれ以前に、そういうことを考えること自体嫌なんだろ。そういうことを考えさせられる夢が怖くて怖くて仕方がないんだ。

寒いと思っていたことすら忘れベッドに身を沈める。多分こいつが見る夢っつーのを、おれも見ている。それもなまえと出逢うよりも随分昔からだ。設定はよく分からねェがなんかの組織の長官みたいなおれが、その部下であり恋人だった女に刺される夢。痛くて苦しくてのたうち回るが、それでも自分を裏切った女を憎めないバカな男の夢。

だがその夢には続きがある。夢の中のおれを殺しきれない女は、おれを刺したナイフで自分の頸動脈を斬りつけて死んでしまうのだ。傷が致命傷に至らなかった男はやがて目を覚まして、既に事切れた女を見つけることになる。まるでB級の恋愛映画を見せられているような夢だが、目が覚めると泣いちまってる。前世なんてもんは信じてなかったが、なまえと出逢ってからはそんなもんもあるかもしれないと思い始めた。夢の中の女の顔が、なまえとそっくりだからだ。それをなまえに教えてやれば、夢を見たなまえが泣くこともなくなるのだろうか。それとも、夢の中のおれ達を想ってまた涙を流すのだろうか。どちらにせよおれには夢も前世も関係ない。……今、この現実になまえが居てくれればそれでいい。

鼻を啜る音が聞こえなくなり、毛布をそっと剥がすとなまえは泣き疲れて眠ってしまったようだった。全く人騒がせな奴。むに、と頬を軽くつまむと、やめてくださいよ長官、と眉間にしわを寄せて呟いた。ああこいつはまた、いつかのおれに振り回される夢を見ているのだろうか。

「なァ、今のおれの相手もしろよ」

額にかかる前髪を寄せて口付けると、相変わらず起きない癖に頬を緩ませてにへらと笑った。


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