あれ、おかしいなぁ。カクがいる。カクだけじゃない、ルッチも、カリファちゃんも、酒場のブルーノさんまで。あのアクアラグナの日、里帰りだなんて言って海の向こうに消えてしまった筈の人達が、目の前にいて動いてる、喋ってる。ルッチは相変わらずハットリを肩に乗せているけど、なんだか似合わないスーツなんて着てアイスバーグさんに挨拶してるし、カリファちゃんも網タイツなんて履いちゃっていつも以上にハレンチなお洋服で二人の隣で笑ってる。ふふ、パウリーが見たら鼻血噴いて倒れちゃうんじゃないかなぁ。いつもハレンチだなんだかんだ言ってるくせに、カリファちゃんに言い寄る男に容赦無いの、わたし知ってるんだから。そして目の前の彼は、カクは。彼も、なんだかいつもと雰囲気が違う。いつもよりもっと目深に帽子を被っていて、表情がよくわからない。
「なんじゃ、狐につままれたような顔して。わしらが帰って来たのがそんなにおかしかったか?」
ああ、でも、カクだ。紛れもない、間違えようのないカクの声。カク、カク、ねえどこに行ってたの?本当に里帰り?だったらわたしも連れて行ってくれれば良かったのに。あなたの生まれた故郷なら、わたしも見てみたかったよ。
「急にいなくなって、悪かったのう」
カクの大きな手のひらがわたしの頭を撫でた。ううん、いいんだよカク。わたしはね、あなたが戻って来てくれただけで嬉しいよ。またみんなで楽しく過ごせるんだね、カク、
「……おい、起きろ!!」
「っ、……パウリ、」
わたしを呼ぶパウリーの些か乱暴な声に否応なしに起こされた。瞼がやけに重い。やだなぁ、わたし、泣いてたかなぁ。
「誰の夢を見てた」
怖い顔をしたパウリーが、わたしの顔を真っ直ぐに覗き込む。ああ、パウリーごめんなさい。そうだね、あなたがここに、隣にいるのに、誰の夢を見るっていうの。わたしが悪かったから、だからお願いそんなに怖い顔をしないでパウリー。
「誰の夢も、見てないよ」
ぐらぐらと揺れるようなパウリーの瞳を見つめながら呟くと苛立ったような舌打ちが返ってきて、一緒に寝ていたベッドから出て行ってしまった。バレちゃったかな。パウリーの温もりだけが残されたシーツに指を這わせる。パウリー、あなたもわたしもあの日々から抜け出せずにいる。ねえパウリー、それでもね。だからと言ってわたし達が寄り添い合う必要なんて無いのよ。あなたが私越しに見ているのは、誰かしら。わたしが、あなた越しに見ているのは。
「ごめんなさい」
口をついて飛び出したその言葉は、誰に向けられたものだっただろう。お願いだから、またあの夢を見ませんように。そんな心にも無いことを祈りながら、わたしは再び瞼を閉じた。
何百回何千回とあ
なたを呼んだのに
願いなんて届きや
しないし、この後
に及んで今更何を
祈れと言うの神様