SHORT | ナノ

ねぇルッチ、あなたがいなくなってから、何故だかわたしの部屋からもあなたがいなくなっちゃったの。二人で撮った写真も、あなたがくれたネックレスも、あなたが好きだから置いてあったお酒でさえ、いつの間にか無くなってた。

ねぇルッチ、そこまでするならどうして、あなたが撫でたわたしの頭も、あなたがキスしたわたしの唇も、あなたが抱きしめたこの身体も、溢れるみたいな幸せな頃のわたし達の記憶も、奪い去ってくれなかったの。

ねぇルッチ、パウリーったらおかしいの。あなた達があんな一大事にみんなして里帰りしただなんて、そんな嘘を吐くのよ。それが本当だったら、良い歳してホームシックだなんてって笑い飛ばしたり、この大変な時に薄情者だなんて文句の一つも言わないのかなぁ。おかげでわたし、嫌でも気づいちゃったもの、カクがカリファがブルーノがあなたが、だったなんて。

ねぇルッチ、全ては初めから決まっていたことなの?だったらなんでわたしを愛してくれたの?ねぇ、それすらも嘘だったの?

ねぇルッチ、話したいことがたくさんあるのよ。ガレーラの副社長になったパウリーにね、借金取り以外の追っかけが出来たの。若い子からミーハーなおばさんまで、それはそれはモテるみたいで、パウリーが外に出ると街がすごく賑やかになるの。あとね、アイスバーグさんに新しい秘書さんが出来たんだけど、なんと、まだ十歳なのよ!でもすごく頭の回転が速くて、大人よりしっかりしてて、カリファさんに負けないようにって頑張っててすごく可愛いの!あとね、これもパウリーの話なんだけどね、パウリーったらみんなが誘ってもたまに一人で飲みたいって断るのよ。この前わたしも一人で飲みたくなってバーに行ったら、パウリーが先に居てね、お酒飲んでるのに迷子の子犬みたいなすごく寂しそうな顔してるの。わたしもその日は楽しく飲めない気分だったから、きっと同じ様な顔をして飲んでいたんじゃないかなぁ。ねぇ、どうしてか、分かるかしら。……あ、あとね、これが一番話したかったことなんだけど。いつかのクリスマスにルッチがくれた指輪、わたしったら、どこかで無くしちゃって大泣きしてあなたに謝ったの、覚えてる?勿論無くしたわたしが悪いんだけど、あなたったら珍しく物凄く怒って、年が明けるまで口聞いてくれなかったよね。ハットリでさえわたしのこと無視するの。あの時は本当にごめんね、わたしも意地になっちゃって、怒ってるあなたを見て怒ったりして。なんだかそれすらも懐かしいなぁ、なんて、ね。そうそう、その時の指輪がね、なんとちょっとびっくりなとこから見つかったんだ。どこだと思う?あの時わたしが家中ひっくり返して探して、ガレーラのみんなにも街中探して貰っても見つからなかったのに、わたしの家のシュガーポットの中から出てきたの。ね、びっくりでしょ?この指輪も、あなたとの思い出も、随分甘ったるくなっちゃったみたいで一人で笑っちゃった。

ねぇルッチ、あなたが今どこで何をしてるかなんて検討もつかないけど。ねぇルッチ、わたしとの思い出をあなたは今も大切にしてくれてる?ねぇルッチ、うふふ、わたしなんかお砂糖漬けにしちゃったわ!甘ったるくて、かないやしないって、きっとあなたは顔を顰めるのね。

ねぇ、ルッチ、ねぇったら。

ふと、あなたの声が聞こえた気がして、窓際に駆け寄った。おかしいなぁ、わたし、ルッチの声なんて聞いたこともないのに。恋人だったのに、おかしいね。窓の外には勿論誰もいないし、この夕暮れのウォーターセブンの景色の中に、あなたが戻ってくることもない。筈なのに、わたしの髪を揺らす風に紛れるのは、懐かしいあなたの匂いと、いつかのどこか、夢の中で囁かれたようなわたしの名前を呼ぶ声だった。

も う す ぐ
優 し い 夜
が 来 る よ

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