SHORT | ナノ

※ちょっと捏造

いつもどこか間の抜けたような表情をした給仕、なまえ、と言ったか、彼女は今日もいつも通りの時刻に食器を下げに来ていた。この司法の塔内で働いている職員とは、顔も知らない相手というわけではないが、お互い特に話すこともない。筈なのだが、今日の彼女はなにやら、部屋に入って来た時から様子がおかしかった。どこかそわそわとしていて、何を考えているのか、おれの顔をよく伺い見ている。普段ならば受け流すところだが、生憎今日のおれは機嫌が悪かった。

「何を見ている」

少し、低いトーンでそう話しかけると、なまえの肩が面白いくらいに飛び跳ねた。手に持っていた、重ねようとしていた皿がかちゃりと音を立てる。こわごわと、そういった様子でなまえがこちらに顔を向け、無理に口の端を引っ張り上げたような下手くそな笑みを作った。

「あ、あの、」

そう言いかけ、少し悩んだような間の後、えっと、とまた口を開く。しかしそれもすぐに閉じられ、その、あの、ともごもごと言葉を濁した。なんなんだ、一体。より一層イライラしてソファから立ち上がると、また、彼女は肩を揺らした。

「言いたいことがあるならハッキリ言え」

カツカツと靴音を響かせ近づくと、なまえは顔を強張らせ一歩後ろに下がった。まるで、任務先で追い詰めたターゲットのような反応で、これはこれで悪くない気分だった。この哀れな給仕職員には悪いが、憂さ晴らしには良い相手かも知れない。そのまま壁際まで追い詰めて、折り曲げた人差し指で彼女の顎をくいと持ち上げると、その頬が赤く色づく。暫く見つめ合うと、漸く、その唇が小さく動いた。

「あの、ですね。お耳と、」
「耳?」

唐突に出た単語に思わず聞き返すと、なまえはあわあわと口を動かし、

「お、お耳と、尻尾を、出すことが出来ると伺ったのですが」

と早口で言い切ると、恥ずかしそうにエプロンを両手で握った。耳、尻尾、それは明らかに自分のネコネコの実モデル豹の能力の変化を指している。確かに司法の塔内で働く者であれば、我々CP9に能力者がいることは分かっているだろうが、その能力の詳細までは知らない筈だ。

「誰に聞いた」

愚問だ、と思った。思い当たる節は、二人もいた。諜報部員であるにも関わらず任務の内容を外部に漏らしてしまったり、塔内の職員や本島の兵に我々の噂話を流すのが好きなフクロウ。もう一人は、自分と同じ動物系の能力者であり、その能力の勝手を理解しているであろうジャブラ。耳と尻尾のみを生やすという、本来なら戦闘で使用しない無駄な能力を知っているということは後者である可能性が高い。話してもいいのだろうかと悩んだ様子の彼女に、追い打ちをかけるように凄むと、泣きそうになった彼女はやはり後者の男の名前を告げた。あのクソ犬め。最近給仕に惚れ込んでいると聞いたと思えば、これだ。

「尻尾も耳も出さん。諦めろ」
「そ、そうですよね、申し訳、ございません」

溜め息を吐き、なまえから離れ背を向ける。全く以って、くだらない。大体こんな良い歳した男が耳だの尻尾だのを生やしたところで、何になる。彼女としては好奇心や、興味本位なのであろうが、何故そんなにも残念そうなのか理解し難いものだ。追い詰められただけで肩を震わせ、今にも泣き出しそうになっていた癖に、おかしな方向に度胸がある。だが、あの、期待と不安が入り混じった瞳に見上げられるのは、悪くなかった。ふと、再びソファに向かっていた足を止めて振り返ると、彼女は食器を纏め終えたところだった。

「剃」
「!?ルッチさ、ん?」

剃で一気に距離を詰めると、彼女はそれに驚いたような声を上げるが、最終的には呆気に取られたようなものに変わった。その視線の先はおれの左腰の辺りに有り、続いて、一気に顔を綻ばせ顔を見上げた。

「ルッチさん、尻尾!ってああ!あ、」

気まぐれだった。別に、怯えた表情以外もさせてみたいだとか、そんなことを思ったわけではない。泣き顔が魅力的な彼女が、笑った姿が見たいだとか、鳥肌が立ちそうな程薄ら寒いキザなことは考えていない、断じて。

「み、みみ、耳!ルッチさん、耳が生えてますよ!」

バカやろう、耳は誰にだって生えているだろうが。そう思いつつ、喜ぶ彼女の顔を見ていると、先程まで感じていた苛立ちは収まっていた。恐る恐る、けれど瞳を輝かせておれの頭上に伸ばされた彼女の手を捕まえて引き寄せると、初めてまともに視線が交わる。今までおれであっておれでないところに向けられていた彼女の関心が、漸くこちらに向けられた。ああ、矢張りたまには。こういうのも、悪くないのかも知れない。

そう
だの
まぐ

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