SHORT | ナノ

「なまえちゃん、さ。おれ以外の男ともう話しちゃダメって言ったら、どうするよ?」

きょとんとした顔でなまえちゃんは、コーヒーをカップに注ぐ手をとめた。なまえちゃんはつい先日まで海軍本部のアイドルみたいな存在の給仕だった。今は、おれ専属の給仕であり、恋人だ。おれ専属にしたのは、職権乱用以外の何物でも無かったけど、なまえちゃんは喜んでくれた。青キジさんのそばにいられるなら、嬉しいと。そんな可愛らしいことを言うなまえちゃんがたまらなく愛おしかった。ああその笑顔を、声を、身体中全て髪の毛の一本一本まで、出来るならおれの、ものにしてしまいたい。

「ええと、その男の人の中には、給仕長や、センゴクさんや、黄猿さんや、赤犬さんも含まれていますか?」

ちょっとだけ、困った顔でなまえちゃんが首を傾げる。彼女を困らせてしまった罪悪感より、そんな困った顔も可愛いと思ってしまうおれは、どこか歪んでいるのか。だが、そうだとしたら、おれをここまでひん曲げてしまったのはなまえちゃんである。これは間違いない。

「そう。生物学上男、全て」

ああ、なまえちゃんがますます困ったような顔をした。そんな無理難題を言われたら、誰だって出来ないと言うだろう。でもなまえちゃんはおれのために、今ああやって真剣に考えてくれている。悩んで悩んで、どうすればそのお願いを聞き入れられるだろうかと思考を巡らせているのだ。おれのために。

「あらら、困っちゃったね。なまえちゃん」

自分でもなんて意地悪なやつなんだろう、と思う。でも好きな子には、可愛い子には、意地悪をしたくなるのが男の性である。おれだって、例外ではないのだ。一方でなまえちゃんが、すぐ答えられなくてごめんなさい、と申し訳なさそうに謝った。その声を聞いただけで、胸の奥がむずむずと疼いた。

「おれだけを、見ていて欲しいってことよ」

しょんぼりと俯いてしまった頭を、自分の出来うる限り優しく撫でると、なまえちゃんがようやく顔をあげた。なんだか口元がゆるゆるしていて、嬉しそうな恥ずかしそうな、そんな顔をしている。今度はおれが首を傾げてなまえちゃんを見ると、はにかんだように笑った。花を背負った、今にもこぼれ落ちそうな笑みだった。

「クザンさんに、そう思ってもらえて嬉しいです。わたしもいつも、わたしだけ見ていて欲しいって、思ってます」

そう言うと、恥ずかしそうに顔を下げて、なまえちゃんは再びポットを持ち上げてコーヒーを注ぎ出した。おれは、と言うと。なまえちゃんのあまりの可愛さに、頭を思いっきり殴られたような衝撃を受けていた。今、さりげなく名前を呼んでくれた。私だけを見ていて欲しいって、あああ、もう、本当にかなわない。ずるいなぁ、そう声に出して呟くと、なまえちゃんは、青キジさんほどじゃないですと笑った。そんなことはない。だってほら、おれの胸の奥にぐるぐると渦巻く欲望はもう、なまえちゃんに

I stare at only you.

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