SHORT | ナノ

こんな気持ちは初めてだった。今まででも可愛い女や綺麗な女を見たらドキドキしていたがこの状況より胸が高鳴る事はなかった。あまりにも心臓が跳ね過ぎて、ポーンと飛び出してしまいそうだ。何が三怪人の一人のおいらをそんなにドギマギさせるのか。それは今日という日の、夢にまで見た結婚式というシチュエーションのせいだ。その主役がおいらとなまえ。これ以上幸せな話が今までにあっただろうか。いや、無かったに違いない!少なくともおいらが知っているシンデレラや白雪姫なんかの童話の主人公より何倍も幸せだ、おいらは。おいらは。そうだ、今更だが考えたことが無かった……なまえの気持ち。本当に今更だがなまえは、この結婚式に望んで出てくれているのだろうか。今まさに目の前にいる彼女は結婚を望んでいるのだろうか?こう言ってしまえば最悪だが、おいらは今まで相手の女の気持ちなんて考えずに生きてきたから、なまえの気持ちも分からない。自分の最低さに愕然とした。

「アブサロム、どうしたの?」

そのなまえの一言でおいらは現実の喧騒の中に引き戻された。誓いのキスの体制のまま、いつまで経っても動かないおいらに痺れを切らしたのか、周りがブーイングの嵐だ。その中でなまえが不安そうにこちらを見上げている。その不安そうな表情が、もしかしたら結婚したくないところから来ているんじゃないかと、胸が締め付けられた。

「なまえ、おいらのこと好きか?」
「勿論好きよ。どうしたの、急に……」
「愛してるか?結婚しても後悔しないか?」

どうなんだ、と縋るように視線を送る。キスの体制のまま数秒間見つめ合って、なまえが言った。

「えっと、ちょっと恥ずかしいけど……。大好きな人の夢を、いっしょに叶えられて、私今すごく幸せです」

初めて聞いたなまえの想い。先ほどとは一転し口笛やはやし立てる声が周りから上がった。なまえの答えは思っていたより嬉しいもので、我慢ができなくなり抱きしめた。

「なまえ、絶対、絶対もっと幸せにしてやるからな!」



彼女がおいらの腕の中でうんと頷き、おいらの心臓はまた大きく高鳴った。

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