SHORT | ナノ

(ドクトル!)

ビク
トリア・シンドリーの死の少し前。おれがゲッコー・モリアと契約を結ぶ少し前。おれが生身の人間を看た最後の患者。それが今になって、ふと夢に出てきた。なまえは今、元気にしているだろうか?ビクトリア・シンドリーの死という最大の衝撃と、この手でシンドリーのゾンビを生成して側に置くことが出来るという喜び。その二つの影に隠れていつの間にか薄れていった彼女の記憶。真っ白な病棟の中で一際目立つピンク色の服を好んで着ていた彼女の手術は、天才外科医と呼ばれた俺の最後の手術になった。当たり前にその手術は成功したが、彼女は心に病気を患ってしまった。恋だ。おれは外科医だから、内科は診療外。だけれどなまえの病気の治療法がおれには分かっていた。おれが天才だからじゃない。その恋の相手は他でもない、おれだったからだ。おれもなまえに惹かれていないと言ったら嘘になった。なまえのことが好きだった。シンドリーに振られ傷心だったおれを慰め、立ち直らせてくれたのもなまえだった。このままなまえと幸せに一生を過ごすのもいいかもしれない。そう思うくらい、今とは違って平和で幸せだった。だが、幸せはそう長く続かないもので。世界を悲しみに陥れた女優ビクトリア・シンドリーの訃報はおれの耳にも届いた。その衝撃はあまりにも大きく、やはりおれが本当に愛しているのはビクトリア・シンドリーだったのだと勘違いさせた。おれを慰めようと伸びたなまえの手をはねのけてしまった。シンドリーへの未練を引きずり塞ぎ込むおれを、なまえは最後の最後まで見捨てようとしなかった。おれが、ゲッコー・モリアと出会うその日まで。そしておれはなまえの前から姿を消した。それは造作もないことだった。シンドリーを側に置けるのだ。自分の物に出来るのだ。その興奮が、狂気が、なまえの存在を消した。それがなんだ?今になって……こうして夢にみるなんて。あの日々にもう一度だけでも戻りたいなんて、思うこともおこがましい。おれは知らなかったんだ。自分がなまえと同じように患ってしまった病がどれほど重いものだったのか


恋病



彼女は
もう、とっくにこの病を克服してしまったんだろうな

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