「それにしても奴はどうにかならんもんかのう」
「まあまあ、カクさん。そう言わずに」
「なまえだって愛想も尽きるじゃろ。いつも奴に振り回されて大変じゃなぁ」
腕組みをしたカクさんが溜め息混じりに愚痴をこぼした。奴とはまあ……我らがCP9の長官であり私の恋人のスパンダムさんのことなんだけど。ちなみに、後者は周りには秘密だ。まあ彼には彼なりの良いところがありますし、と笑みを添えて答える。するとカクさんは私の頭をグシャグシャと撫でた。
「なまえは優しいのう」
「そ、そんなことないですよ」
かと思えばカクさんが手を離し、ピタリと動きを止めた。なんだろうと思いながらも髪を直しつつカクさんを伺う。
「どうかしたんですか?」
「ん、噂をすれば長官殿じゃ。盗み聞きとはまさしくセクハラじゃな。じゃあまたの、なまえ」
「え、カクさん……ここ十五階、あ」
彼にとって、十五階から飛び降りるなんて危ない!……という心配は無用だったが、いつも私を困らせるどこかの困ったさんのせいで少し心配性になってしまったみたいだ。窓の外に軽々身を投じたカクさんが遠くから手を振っていたので、軽く振り替えす。カクさんが見えなくなった頃に、確かに扉の外にいる気配がするのになかなか部屋に入って来ようとしない長官に声をかける。
「長官、どうしたんですか」
扉越しに話しかけると、人が動く気配がした。離れて行ってしまったのかと思ったが、足音が聞こえてこない。
「ドア、開けますよー」
相変わらず返事は無く、ゆっくりと扉を開けると長官がもう片側の扉に背中を預け膝を抱えて座っていた。私が隣にしゃがみ顔を覗き込んでも、俯いてこちらを見ようとしない。全く、また何かお馬鹿な勘違いか思い込みで凹んでいるのだろうか。
「黙ってても分かりませんよ、なにか言ってくれなきゃ」
よしよし、と頭を撫でる。長官が泣きそうな時にはいつもこうしている。大抵は長官が怒って顔を真っ赤にしてしまうのだが、今日はその手を振り払おうともせず更に俯いて膝に顔を埋めてしまった。もう、一体どうしてしまったのか。本当に今にも泣き出しそうな長官に、どうしたのかともう一度問いかけると彼は口を開いて、
「……なまえも、ダメな長官だと思ってるんだろ」
ポツリとそんな言葉を吐いた。
「六式なんて使えないし、それどころか格闘技の一つも碌に出来やしない。ルッチ達がいなけりゃCP9にとっちゃ大穴だが、俺がいなくても奴らは何とでもなる。本島の奴らにも舐められてるし、戦闘力もそこら辺の海兵以下。なまえが淹れてくれたコーヒーもすぐこぼすし、」
長官がぐす、と鼻を啜った。ああ、やっぱり泣いてしまった。
「もう、長官ったら。ズルイですよ」
本当はこんなこと、話すような柄じゃないんだけどなあ。長官があまりにも可愛いから。だって、彼がこんなふうに泣いてくれるのは、彼が私を好きでいてくれるからで……。再び長官の頭を撫でながら、はっきりと耳元で囁く。
「長官は戦えなくても、良いんですよ。あなたは司令長官なんだから。それに余り自分を卑下しないでください。私はダメな部分も、かっこ悪い部分も全部含めて長官が大好きなんです。コーヒーだって、あなたが幾ら零してもまた淹れてあげます。あなたに飲んで欲しくて淹れてるんだから」
そうか?とやっと長官が顔を上げた。涙で潤んだ目が真っ直ぐにこちらを見つめる。
「……ダメダメな長官だぞ?」
「長官は長官のままで、十分素敵です」
「……そうか。それもそうだ、おれはCP9長官スパンダム様なんだからな!」
溜まった涙を拭うと、長官は耳まで真っ赤にして偉そうに笑った。
カワイイヒト
「それにしても、泣くなんてズルいです」
「泣いてねぇよブァーカ」
「はいはい、泣いてないですね」
「まあまあ、カクさん。そう言わずに」
「なまえだって愛想も尽きるじゃろ。いつも奴に振り回されて大変じゃなぁ」
腕組みをしたカクさんが溜め息混じりに愚痴をこぼした。奴とはまあ……我らがCP9の長官であり私の恋人のスパンダムさんのことなんだけど。ちなみに、後者は周りには秘密だ。まあ彼には彼なりの良いところがありますし、と笑みを添えて答える。するとカクさんは私の頭をグシャグシャと撫でた。
「なまえは優しいのう」
「そ、そんなことないですよ」
かと思えばカクさんが手を離し、ピタリと動きを止めた。なんだろうと思いながらも髪を直しつつカクさんを伺う。
「どうかしたんですか?」
「ん、噂をすれば長官殿じゃ。盗み聞きとはまさしくセクハラじゃな。じゃあまたの、なまえ」
「え、カクさん……ここ十五階、あ」
彼にとって、十五階から飛び降りるなんて危ない!……という心配は無用だったが、いつも私を困らせるどこかの困ったさんのせいで少し心配性になってしまったみたいだ。窓の外に軽々身を投じたカクさんが遠くから手を振っていたので、軽く振り替えす。カクさんが見えなくなった頃に、確かに扉の外にいる気配がするのになかなか部屋に入って来ようとしない長官に声をかける。
「長官、どうしたんですか」
扉越しに話しかけると、人が動く気配がした。離れて行ってしまったのかと思ったが、足音が聞こえてこない。
「ドア、開けますよー」
相変わらず返事は無く、ゆっくりと扉を開けると長官がもう片側の扉に背中を預け膝を抱えて座っていた。私が隣にしゃがみ顔を覗き込んでも、俯いてこちらを見ようとしない。全く、また何かお馬鹿な勘違いか思い込みで凹んでいるのだろうか。
「黙ってても分かりませんよ、なにか言ってくれなきゃ」
よしよし、と頭を撫でる。長官が泣きそうな時にはいつもこうしている。大抵は長官が怒って顔を真っ赤にしてしまうのだが、今日はその手を振り払おうともせず更に俯いて膝に顔を埋めてしまった。もう、一体どうしてしまったのか。本当に今にも泣き出しそうな長官に、どうしたのかともう一度問いかけると彼は口を開いて、
「……なまえも、ダメな長官だと思ってるんだろ」
ポツリとそんな言葉を吐いた。
「六式なんて使えないし、それどころか格闘技の一つも碌に出来やしない。ルッチ達がいなけりゃCP9にとっちゃ大穴だが、俺がいなくても奴らは何とでもなる。本島の奴らにも舐められてるし、戦闘力もそこら辺の海兵以下。なまえが淹れてくれたコーヒーもすぐこぼすし、」
長官がぐす、と鼻を啜った。ああ、やっぱり泣いてしまった。
「もう、長官ったら。ズルイですよ」
本当はこんなこと、話すような柄じゃないんだけどなあ。長官があまりにも可愛いから。だって、彼がこんなふうに泣いてくれるのは、彼が私を好きでいてくれるからで……。再び長官の頭を撫でながら、はっきりと耳元で囁く。
「長官は戦えなくても、良いんですよ。あなたは司令長官なんだから。それに余り自分を卑下しないでください。私はダメな部分も、かっこ悪い部分も全部含めて長官が大好きなんです。コーヒーだって、あなたが幾ら零してもまた淹れてあげます。あなたに飲んで欲しくて淹れてるんだから」
そうか?とやっと長官が顔を上げた。涙で潤んだ目が真っ直ぐにこちらを見つめる。
「……ダメダメな長官だぞ?」
「長官は長官のままで、十分素敵です」
「……そうか。それもそうだ、おれはCP9長官スパンダム様なんだからな!」
溜まった涙を拭うと、長官は耳まで真っ赤にして偉そうに笑った。
カワイイヒト
「それにしても、泣くなんてズルいです」
「泣いてねぇよブァーカ」
「はいはい、泣いてないですね」