SHORT | ナノ

「長官、コーヒーお持ちしましたよ!」
「おう、いつもありがとな」
「……え?」

思わず自分の耳を疑ってしまった。この前の聴力検査の結果はすこぶる良かった筈なのに、今日に限って耳になにか詰まっているのだろうか。普段は「あー」とか「おー」とか気のない返事が返ってくるだけなのに、今まさに彼はお礼を言ってコーヒーを受け取ろうとしている。まさかの思いがけない事態に、長官が触れる寸前でカップを落としてしまった。ガシャン、と音を立ててカップが割れた。零れたコーヒーの染みがじわじわと床に広がる。しまった、おまけに今日は長官のお気に入りのカップだ。脳裏にクビの二文字が浮かんだ。若しくは本当に私の首が無くなってしまうかもしれない。とにかく謝ろう、と口を開いた瞬間、

「大丈夫か、怪我は?……指を切ってるな、見せてみろ」
「ちっ、ちち長官!?」
「消毒だ」

すらりとした長官の指が私の手を包み込み、飛び散った破片で傷ついた箇所に舌を這わせた。あまりの出来事に思考回路がオーバーヒートしてしまったようだ。凍り付いたように体が動かない。

「気をつけろ、ブァーカ」
「……だ、だれ」
「なに寝ぼけてんだ。お前の大好きな上司のスパンダム様だろう?忘れたのか?」
「だって、長官はもっと」

もっと、ヘタレだしなよなよしてるしコーヒーこぼすしデリカシーがないしスマートのスの字も理解出来ないような人なのに。なんていうか、今目の前にいる長官は別人すぎて、戸惑ってしまう。

「なまえ、こっちに来い」
「いえ、あの、遠慮します。失礼します」
「逃げんのか?」

これ以上そばにいたら危険な気がする。そう思ってドアノブに手をかけた瞬間、その手に長官の手が重なった。驚いて振り返るといつになく真剣な目をした長官と目が合う。

「ほら長官、まだ勤務時間ですし!カリファさんに怒られますよ!」

顔から火が出るくらい恥ずかしくなって、誤魔化すように繕っても彼の態度は変わらない。本当に、いったいどうしちゃったの?

「俺に任せろ」

呆気に取られている間に為す術もなくあっさりと抱えられ、長官の寝室に連れ込まれた。大胆にベッドに放り込まれ、視界は覆い被さってきた長官で埋まってしまった。

「忘れられない夜にしてやるよ」

ニヤリと不適な笑みを浮かべた長官が耳元で囁く。まだ昼ですから!と首を振って否定してもキスで瞼を閉じられてしまった。

へるぷ、みー!

長官が男前だなんて、絶対に嘘だ……誰か、ヘルプミー!

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