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MoneyMoney GOD

「へったくそ」

奥までくわえ込んでも舌先で転がしてもやわらかいままの性器に、しびれを切らしたのは相手のほうだった。やわらかいままなのに無駄にサイズがでかいから、あごも口ん中も舌の付け根もとっくに痛くなっていたけれど、俺から諦めることはできないのだ。これは仕事だから。

「なんだお前、こんな真似事みてぇなやり方で金もらってんの? いい商売だなあ、うらやましい。俺もきーやんみたいな仕事に就けばよかったなあ」

笑いながら、懐かしいあだ名を呼ぶ。俺のことをそんな風に呼ぶ友人とはもう一切連絡をとっていないし、もっと言えば最近では本名よりも源氏名を呼ばれる頻度の方がよほど高い。しかし、鴨井にとって俺のイメージはまっさらな同級生のままで止まっているんだろう。

「おい、なに口止めてんの? ご自慢のフェラテクってやつ知りたいんですけど? まっさかこれで終わりとかじゃねぇだろ?」
「……いや……すいません」
「ははっすいません、だって。なにそれ敬語? 下手くそすぎて分かんねぇけど」
「……」
「……金って神様だよな。これがあればオキャクサマとしてお前のことこんな風にできるんだから」

ラブホテルの軋むベッドに腰かけた鴨井は、片手で俺の頬をべちべち叩き、片手に壱万円札を、まるで玩具のように持ちもてあそぶ。床に膝をついた俺は、今すぐその壱万円札をかっぱらって逃亡したい欲求を腹の底に溜めながら、鴨井のフニャチンをくわえ続ける。質の良さそうな鴨井のスーツに涎をつけないように気をつけながら。これは仕事だから。


「ゲイデリヘルのサイトできーやん見つけたときはうれしかったなー。俺ずっときーやんに会いたかったんだよ、お前は俺のことなんか覚えてねぇだろうけど、俺はお前にされたこと一つ残らず全部覚えてるからな」


小学生の頃、確かに仲間たちと一緒にこいつを悪意の標的にしていたことが、ある。しかし俺が個人的に悪い印象を抱いていたかと言えばそんなことはなく、自分が標的にされないよう長いものに巻かれていただけで、こいつの人間性はどちらかと言えば好きだった。しかし、そんな情のようなものは見ないようにした。周りの人間が怖かったから。


その弱さが、15年後何倍にも膨れ上がって帰ってくるとは思いもよらず。


「しっかしホントへったくそだな、態度も悪ぃし。ロクでもねぇ奴雇ってんじゃねぇよ、ってお前んとこの店に怒鳴り込んでやろっか」
「すいません……お、おれのこと根に持ってんならあやまる、から」
「はあぁ?」

乱暴に髪を掴まれ、口から性器がずるりと抜けた。思わず顔をゆがめる。殴られると思った。しかし鴨井は、至近距離から揺れる俺の目を覗き込んで、笑っていた。

「根に持ってるとか持たないとか謝る謝らないじゃねんだよ、オレは見たいの」
「……は?」
「いじめてた相手に安い金で買われて、汚ぇチンポしゃぶらされているみじめなお前が見たいだけなのオレは。分かる?」

分かってたまるか、と思った。その生意気な思考回路が透けて見えていただろう、鴨井は俺の髪を持ったまま、ベッドに叩きつけるようにしてそこへ上がるように示した。柔らかすぎるベッドの上で、鴨井に足首を掴まれる。

「……見せてよ」

そのまま両足を開かれれば、求められている行為は一目瞭然。俺は服を脱いで、下着を脱いで、ベッドの上に座り直して開脚し、鴨井をしゃぶるうちに勃ちあがってしまったその部分を暴いた。

「ふ……っ」
「……」
「はは、どうしようもないなお前」

ベッドに上がった鴨井は、笑いながらさらされた股のあいだをじっと見つめる。それは確かに屈辱的なのだが、俺は視線を感じるだけで腰が揺れるほど興奮してしまう変態に成っていた。しかし、鴨井だって間違いなく変態だ。どんなに懸命にしゃぶっても勃ちあがらなかった鴨井のそれが、今やしっかり硬度を携えているのだから。

鴨井はそのまま俺に覆いかぶさり、俺の小さなすぼまりに指を伸ばした。これまで、黙ってあらゆる行為を受け入れていた俺も、それはさすがに頂けない。

「ちょっ……! やめろっ!」
「はあ? オキャクサマに何立てついてんの」
「うちは本番禁止! 勝手なことしたら俺もトばされんだよ、分かってんだろ! 勝手なことしといて何がお客様だよ、強引にヤるつもりならブラックリスト入れて黒服に探し回させるからな!」

ベッドに押し倒された状態で安い啖呵を切りながら、見つめあった鴨井の表情はあの頃と変わらない。まるで成長していないのは自分ばかりで、とたんに情けなくなってしまった。鴨井はと言うとあの頃と髪型も身なりも表情さえもずいぶん変わって、一人前の大人として安い俺と向き合ったのち、ふいにベッドから降りた。

「ふーん……じゃあこれもあげる」

そして私物のスーツケースに手を伸ばし、取り出した束をベッドにポンと投げた。まるでゴミか何か扱うみたいに素っ気ない。生の札束を生まれてはじめて見るのが、古びれたラブホテルのベッドの上になるとは。

「みずぼらしい格好からして、お前ろくでもない生活してんだろ? こんくらいあれば3ヶ月くらいはしのげるんじゃない? ……ついでに、トんだらウチで養ってあげてもいいし」

鴨井は一人ごち、裸の俺にも、札束にも背を向けベッドに腰を下ろす。

「まあ、汚ぇ金に手ぇつけたくないっていう真面目ちゃんなら無理じいはしねぇけど。変な奴らに居場所嗅ぎ回されんのもイヤだし。時間余ってるけど、終わりましたって連絡していいよ」

鴨井の言葉は先ほどとは打って変わってか細く、まるでお話はここまでです、とでも言うようだった。勝手に始められ、勝手に終えられたのではたまらない。俺は鴨井の背中に飛びついて、羽交い絞めするように強引に鴨井をベッドに招き入れた。驚き間抜けに口を開く鴨井に、馬乗りになってつぶやく。


「金に汚いもきれいもあってたまるかよ。……金は神様だ」


そのまま、臀部に勃ちあがった鴨井のものをすりつける。相手が誰なのか、どんなことを思っていてどんなたくらみがあるのか必死に考えるべきなのかもしれないが、すぼまった部分に熱いものが触れると脳が白く溶けていく。そのまま腰を下ろし、入り込んできた性器は好みの固さと熱さだったので、それだけで「ふあぁ」と情けない声が漏れてしまった。

「……いい性格してんねぇ、お前」
「おかげさまでな……っ」

にらみ合ったのはそれが最後。直後、下から容赦なく突き上げられて俺は二度と優位に浸れなくなる。高ぶりを隠し切れない鴨井の表情と、俺のいいところを知っているような動きがあいまって、あんあんあんしか言えなくなる。同級生から脱落して、もっともっとと言う代わりに身体を貪る。

「んあ、あっ、あ!」
「は……っ、おまえ、ほんと、スケベだな……」

呆れているのか引いているのか言葉責めなのか分からない。それでも鴨井が俺へ向けてまっすぐに言葉をつむいでいること、俺の腰をがっちり掴んで、ガチガチの性器で容赦なく攻め立てていること、中でひときわ大きくなったそれが内壁をガリガリこすっていること、そのすべてに背筋が震えるくらい興奮した。もしかしたら俺はあの頃から、鴨井に振り向いてほしくて、目を見てほしくて、触ってほしくて不器用に振る舞っていたのかもしれない。

「このド変態が……」

息の乱れた鴨井がうめくようにつぶやいた言葉であっけなく最高潮に到達。金にがめつい娼婦の真似事をしたところで、身体の仕組みと心までは変えられないのだ。







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