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完全少年(改)

女子に縁のないやつが男子校に入るとホモに目覚めるっていうじゃん。あんなん絶対嘘。

ホモと童貞は別の生き物だし、ふつう男子校に「こいつならいいかも」と思えるような絶世の美少年なんているわけないし、クラスメイト相手にエロいこと想像するはずもない。

ここまでが中学時代の俺の考え方だった。

「おはよー青葉」
「し、椎名、お、おは、おはよう」
「は? なにどもってんのきも」
「……うっせ」

登校時、バス停から教室までの道のりに声をかけてきたのは同じクラスの椎名だった。

入学から二ヶ月、同じクラスの奴が「椎名ってかわいくね」と言い始めたときは頭おかしーんじゃねぇの、と笑っていた。しかしふとしたとき、例えば雨の夕暮れや体育が終わったばかりの休み時間、椎名の顔つきや身体つきに不思議な影がかかる。

椎名はかわいい。たったの数ヶ月で認めることになるとは思わなかった。汗臭い男子校において、椎名は紛れもなくかわいい。

「青葉ー、日曜どーすんの」
「日曜? ってなに」
「こないだクラス打ち上げやるって言ってたじゃん」
「あー。やべ、忘れてた。日曜かー、めんどくせぇな」
「だよね。青葉が行かないなら俺もやめよー」

かわいいのだ。椎名は気まぐれでわがままだけどものすごくかわいい。長めのまつげとか、ぼーっとしてるときの口の感じとか、廊下の向こうで俺を見つけるとぶんぶん手を振るのとか。


そうしていたら、裸の椎名が俺を誘ってきたんだ。俺の頭ん中で。

(ねぇ、青葉、えっちなことしよう? 青葉のちんちんいっぱいしごいて、気持ちよくしてあげるね?)

契機があったのではなく、ごくごく自然に俺は椎名の夢を見るようになった。夢の中の椎名はいつも裸で、ふらりと俺にまたがっていたずらをしかける。そしてすぐさまいたずらの範囲を乗り越え、腹の奥に隠していた欲求をむんずと掴む。つらいのは起きたあとだ。罪悪感ではなく「どうして最後まで見せてくれないんだ」という思いが膨らむ。

そしてあろうことか俺は、A4ノートいっぱいにみっしりと椎名とのスケベな妄想の全貌を書き綴ってしまった。

『放課後。たまたま部活が早く終わった俺は教室に忘れものをとりにいく。椎名が教室でオナニーしてるとこをみてしまう。「このことは誰にも言わないで」「言わないよ」「信じられない。口止め料は払う」椎名は裸になって俺にすまたする。「やめろよ」「口止め料だって言ってるじゃん」……』

稚拙にもほどがあるし翌朝読み返した段階で既に意味が分からないしどうしてそんなことをしたのか俺だってわからない。とにかく湧き上がるリビドーを止められず、苦肉の策でノートに吐き出したのだ。むしろ俺の行いが誤りならば正解を教えてほしい。


「ねーねー青葉、これなーにー?」


それは日曜日の午後、クラスでの集まりをサボった椎名が、かと言ってやることもないからと俺の家に来たときのことだった。

友人を自宅に招くこと自体久しぶりだというのに、よりによって椎名がやってきたという事実に緊張した俺がトイレへ逃げ、気持ちを落ち着かせて再度部屋にもどると、椎名は一冊のノートを手にしていた。

「うわああ!?」
「なにこれ、青葉が書いたの?」
「いや、ちがっ、ていうかお前、どっからそれ……!」
「なんかベッドのすきまみたいなとこに落ちてた」
「勝手に見んなよ!」

我ながら思春期の息子の、母親への対応のようだ。俺が思春期をこじらせていることに間違いはないが、椎名は母親よりももっとたちの悪い存在だ。

ノートに何を書いたか、なんて、今この状態で思い出したくない。が、頭の中の宇宙が勝手に廻り始める。ノートの中で俺は、椎名とひょんなことからいい雰囲気になり、学校で教室で俺の部屋で行ったこともない椎名の部屋で、キスして乳首触って舐めてつまんでチンコ触って舐めて触られて椎名は恥ずかしがって喘いででも拒絶はしなくてそれからそれからあー。

火が出そうなほど赤くなって混乱する俺の前で、椎名はそっと呟く。

「ね。それさ、やろっか?」
「……は!?」
「だからさー、そのノートに書いてあること。やろっか」


そして俺は今、俺の部屋でひょんなことからとんでもないことになっている。


「……し、しいなって、やっぱゲイなの」
「やっぱって何」
「いや、だって、なんかすげー、こんな、ふつうに、うまくいくと思わなかっ」
「やっぱ青葉の妄想なんじゃん。なんで隠したの」
「え、いや、ちがっ!」
「うるさい。いーからここ座ってよ」

こんな時でさえ冷静な椎名は、淡々と返しながらベッドに誘導し俺の服に手を突っ込む。くすぐったくて恥ずかしくて笑いがこみ上げてきたけれど、ここで笑ってしまうのは間違いだろうと経験のない俺でもわかった。ノートの中の俺は少なくとも、もっと丁寧に椎名をリードしていた。こんな風にされっぱなしではなく。

「は……っ、んあ……」
「あー、青葉はタマが好きなタイプなんだ?」
「お、おまっ……えぐいことサラッと言うなよ……」
「ノートの中の俺はもっとえぐいこと色々言ってたじゃん。青葉のおちんぽきもちーのみたいな」
「あああお前ほんっとやめろふざけんな!」

羞恥心がぶわりとこみ上げ、その血液はすべて下半身に集中し、椎名が俺のちんこを握りながら小さく「……あ」ともらした。あ、って、なに、なにそれ。俺のちんこ、大きくなって、椎名今びっくりして「あ」って言ったでしょ。

「ん……っ、はあ……」
「わー……すごーいね」

椎名が手を動かすたびにいやでも声が漏れてしまう。情けないけれど、人にしてもらうのってオナニーとはまるで違う。いや、相手が椎名だからか。半笑いのすごいね、だけでもうやばい。やばい。いきそう。でもいくの恥ずかしい。早いって思われたくない。ていうかカウパー出すぎてて恥ずかしい。ああ椎名。椎名。

「……ねぇ、青葉」
「な、なに……」
「俺のこと、そういう風に見てるんだったら早く言ってくれればよかったじゃん」
「へ……?」
「そしたら俺、もっと早く青葉のものになれたのに」

おい皆知ってるかい?人生ってのは簡単に覆るもんなんだぜ。

……だめだ全然かっこつかない。すきな子にチンコを掴まれているとき、男ってのはどうにも格好つけられない生き物らしい。もうだめだ、椎名はかわいい、誰がなんと言おうと椎名はかわいい、椎名を好きになってよかった。

「ん、んあっ……!」
「わ……」
「う、うわ、ご、ごめん!」

ふいうちの言葉に戸惑い、思いっきり射精してしまった。幸い顔や服にはかからなかったものの、それは椎名がうまく避けてくれたからだ。勢いよく飛んでしまったけどそんな、椎名にかけるとかそういうのはそんな、いきなりそんなそんな。

射精したばかりなのに虚無感に襲われるどころか、さらなる興奮が湧き立って、ノートに閉じ込めたえっちな椎名が蘇る。これもまた、オナニーとは異なる現象だ。

いまだ高揚している俺の前で、椎名はティッシュに手を伸ばし始末をはじめる。淡々としたそぶりに、俺の一人よがりに怒っているのかと不安になった。

「し、しーな」
「……えーっと、それで? このあとどうすんだっけ。青葉がイったあとは俺の番なんだっけ」
「ちょ、うるせーよそれ別に台本じゃねぇから!」

しかし椎名は、ティッシュをゴミ箱に放り込むと改めてノートに手を伸ばし、いたずらっぽく笑った。うれしくてかわいくて怒ったふりをしながら泣きそうになった。現実の椎名はすでに完成品だ、俺が脳内で育ててやるまでもなく。







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